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魔法使いと繋がる世界EP3~Clover destiny & World end archive~  作者: shiori


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第十三話「眠れない夜」1

「夕食の後でいいんだが話したいことがあるんだ、いいか?」


 私と達也が閉じ込められたエレベーターから救助され、しばらく経ってからだった。私が入浴セットを手に持ち、入浴に行こうとするところで、待ち伏せていたように浩二から話しかけられた。


「いいけど、今じゃダメなの? 明日の舞台演劇のことでしょ?」


 稗田さんと京都散策に出ていた浩二。意志はしっかりしているけどどことなく高揚しているように見えた。

 浮かれていたってしょうがないと思うけど、明日の本番のことを考えれば少しは緊張して真剣な表情に変わるかなと思ったけど、あまり態度は変わらないようだった。


「ゆっくり話したいからさ、静かになってから話そうと思って」


 ゆっくり話そうと言う浩二に反射的に警戒心が浮かんだ。

 でも、ここで逃げる理由も思いつかないので私は気を使って表情を変えなかった。


「分かった、連絡くれたら行くから」

「あぁ、悪かったな、温泉行くところ呼び掛けて」

「いいのよ、ちょっと過敏になってるみたい、頭冷やしてくるわ」


 熱い温泉風呂に入るのに、冷やしてくるなんて表現はどうかしていると思ったけど、私は気にすることなく大浴場に向かった。


 浩二は稗田さんに追加のシーンの台本を渡して何か言われたのだろうか。

 それで、打ち合わせしたいことでも出来たのだろうか。

 

 でも、そう思っても、それくらいのことでは二人きりでゆっくり話したい理由にはならないのかもしれないと思った。

 

 もっと、重大な何かを告げる予言をされているようで、私は落ち着かない気持ちで脱衣所に入り、服を脱いでいった。



 温泉から出て、旅館の浴衣を着た私は浩二から連絡を受けた待ち合わせ場所へとゆっくりと歩いた。


 時計の針が止まってくれたら、少しはこの言葉に出来ない恐怖から逃れることが出来るのだろうか。


 私は達也の告白を断ってから、ずっと誰かに責められているような不安に襲われていた。


 終わったようで、終わることのない、私の心をかき乱すような出来事の数々。

 想い想われ苦しんでいく様は、ドラマの中なら娯楽程度に楽しめるものだけど、私自身が浴び続けるこの痛みや感傷は、どうしようもなく行き場のない耐え難いものだ。


 東館から西館まで歩くと恐ろしいくらいに静かで、何か見てはいけないものと出会ってしまいそうな錯覚さえする。さすがの私も幽霊が怖くないとは言えない。


 小さな物音にまで意識が向き、気配を察知する感覚が過敏になる中、薄暗い廊下を頭の中で地図を思い浮かべながら歩いていくと、縁側から見える小さな日本庭園に浩二が後ろ姿で立っているのが見えた。随分広い敷地の旅館だからこういう穴場のスポットもあるんだろうと納得しながら、旅館の庭師によって大切に手入れが施されて趣のある庭園に私は躍り出た。


 庭園に照明器具が備え付けられているわけではないので、旅館の灯りだけで薄暗くはあったが、夜目が効くおかげか浩二の表情まではっきりと視認することができた。


「唯花か?」

 

 私がやってきたことに気付いたのか、こちらに振り返った浩二の声が聞こえた。

 脅かすつもりはなかったけど、名前を呼ばれた私は木々の隙間から浩二の前に顔を出した。


「見つかっちゃった」


 私はちょっとわざとらしくからかうように笑って見せた。


「ビックリしたなぁ……足音一つしねぇから生霊でも現れたかと思ったぞ」


 薄暗くて白い肌が際立ってホラーに見えたのかもしれない、私と生霊を間違えるなんて失礼だと思うけど。


「これでもここまで草履で歩いてきたのだけど、ちょっと疲れてるんじゃない? 副委員長さん」


 浩二が楽しそうに今日一日をはしゃぎ歩いている姿が簡単に想像できたから、私は思わず調子に乗って言ってのけた。


「柄でもないけどな、二年も副委員長を続けることになるなんてさ」


 本人に自覚はないようだけど、演劇クラスの中での信頼は厚い。

 口が悪いのも彼の脚本の完成度の高さで相殺されてきたのもあったから。


「いいんじゃない、そのおかげで私や達也は自由になれてるわけだし」


 どうしてだろう……浩二の前で油断していたのか達也の名前が無意識に口から出ていた。

 あぁ、なんで光とか他の生徒の名前を挙げることが出来なかったのか、随分私も疲れて参っていたみたいだった、


「そうかい、そんなことより、座って話そうぜ」


 浩二がそう言って先に縁側に座ったので私も隣に座った。

 同じ旅館に私たちの学年が全員宿泊しているというのに、人通り一つないのが、不覚にも込み入った話をするには良くできたシチュエーションに思えた。


「満月ね……月が近くにいるように感じるみたい」


 明るく輝くまんまるお月様。猫の目のように私達の密談をじっと覗いてるかのようだ。

 私も一緒に月に連れ去ってくれたなら……でも、そんな心の叫びが届くことはないだろう。

 浩二は返す言葉が見つからない様子で、空を見上げる私を不思議そうに眺めていた。


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