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魔法使いと繋がる世界EP3~Clover destiny & World end archive~  作者: shiori


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第十二話「Clover Point」5

 六月となっても賑わう清水寺を満喫すると知枝は(つき)(にわ)の方に興味を示した。


「月の庭にも寄って行っていいかな?」


 知枝が人気のない通りを指さしながら言った。

 

「知枝が興味があるってんなら遠慮するなよ、行こうぜ」


 浩二は若者らしく年相応にこの京都散策を楽しんでいる知枝に感化されるように柔らかい表情になって言った。

 ”好き”という感情が、自然と知枝と接する姿勢すらも変えてしまっていることに浩二は気付いた。


 年中公開されているわけではない、貴重な月の庭のある建物に靴を脱いで二人は足を踏み入れていく。

 畳上の広間を抜けた先、決して広いとは言えないが、情緒深い、美しい庭園が広がっていた。

 

 喧騒を抜けたように現れる庭園、その静けさは強い日差しを浴びた後だけあり、心洗われるように立ち止まってしまうものだった。


「綺麗だね、座ろっか?」

「そうだな、ちょっとは休憩しないと」


 微かに聞こえる水の音、草木の揺れる音、鳥のさえずり、静けさの中で感じるその風情を感じながら、二人は縁側に座って、時の流れがゆったりと流れていくのを、心地よく楽しんだ。



「―――月の裏側にはね、誰も知らない月の社があるんだって」



 知枝は遠くを見るような、澄んだ目を庭園に向けながら、ポツリと呟いた。

 浩二はその言葉に「えっ?」と一言反応を返した。

 思春期の少女が感傷に浸る様な、その横顔を浩二は見て、ただ深く尊いと思うほどに”美しい”と感じてしまうのだった。

 

「おばあちゃんがよく教えてくれたの、私はね、まだ小さかったからよくする世間話のように聞いてた。


 月のうさぎは「月で不老不死の薬を作っている」という言い伝えとか、月の裏側が地球からは見えないこととかって、ロマンがあると思わない?

 そんな話をね、私が関心を持つようなお話しをね、おばあちゃんは時々、厳しい修行の後に教えてくれたの」


 2007年、月周回衛星「かぐや」により、初めて確認された月の全体像。

 それまで月の裏側がどうなっているかは謎とされてきた。

 月の裏側が地球から見えないのは、地球が自転する間に月も同じように自転しているからだ。

 月の自転の日数は27.32日で、公転の日数も27.32日。つまり、地球を一周する間に、月も一回転する。


「中国神話だっけ、昔から言われてるんだよな」


 浩二は不老不死の薬のことを指して答えた。


「そうだね、竹取物語でもかぐや姫が(みかど)に不老不死の薬を届けて去る場面があるよね。古くからの憧れだよ、不滅でありたいということも、大切な人に不老不死の薬に頼ってまでも長生きしてほしいと願うことも」


 生命に限らず、信仰や自然も、不滅であることが望まれる。

 それは、人類が古くから心が掻き毟られるほどの喪失を繰り返し味わって来た歴史があるからだろう。


「知枝は、おばあちゃんのことが大切なんだな」


「そうだね……まだ、心のどこかに、おばあちゃんは生きてるんじゃないかって思ったりするくらいだから」


「まぁ……あんなに大々的に葬儀が執り行われれば、普通は受け入れざるおえないけど……」


 県知事や市長も務めた稗田黒江(ひえだくろえ)

 30年前の厄災を生き延びたことに限らず、日本に住む者なら皆知っている有名人だった。

 それ故に、葬儀はテレビニュースにも取り上げられるほどであった。


「私ね、おばあちゃんが棺の中で眠っているところも、遺灰になっているのも見たことがないの。それはお父様が全部取り計らったからだけど、私はその輪の中に入れなかった。

 私の使命は、おばあちゃんの意志を継いで、魔法使いとして強く生きていくことだったから」


 浩二には想像もできない苦悩が、知枝の中にはあったのだと感じた。

 祖母、稗田黒江が亡くなってからさらに日本にいることが少なくなった知枝。

 それは、一族の命運が知枝にのしかかっている証拠なのかもしれないと浩二は思った。


「でも、案外俺たちのまだ知らないことがたくさんあるのかもな。

 

 月の有人探査だって、度々行われるようになったし、それは月に報道されてる以上に有益な何かがあるからかもしれないとも思えるからな。


 さすがに不老不死の薬はないかもしれねぇけど」


 再度、半世紀以上ぶりに月面への有人着陸が成功して、さらに2045年以降、近年になってから情報が市民に回ってくるものは少ないのかもしれないが、有人探査、無人衛星による探査はともに度々行われている。


 月への移民計画がもう、すぐそこまで迫っていると報道されているが、現実的に何時からというのはまだ分かっていない。


「そうかもしれないね。月は墓地のようなものだって、おばあちゃんは言ってた。


 冷たくて静かで、灰色の大地が広がっていて。

 

 魔法使いの魂は、いつか空を登って月に還るんだって。


 そうして、穏やかに一生を終える、そんなことを言ってたよ」


 本気で言っているのか、ロマンチストなだけなのか、考えれば考えるほど、浩二にとっても稗田黒江という人物はその功績に限らず、不思議が多く興味深いものだった。


 美しく手入れの行き届いた月の庭を眺め、月にまつわる話をしながらゆったりとした時間を過ごす。

 ここは月の庭と言われているが月の姿は本当のところは夜になっても見えなかったり、夜の方がより風情のある雰囲気が楽しめるなど、話しをしながら、さらに話は過ぎ去っていく。


「”雪月花(せつげっか)三庭苑(さんていえん)”って言うんだってね。


 京都にある三つの庭園、妙満寺(みょうまんじ)の『雪の庭』、清水寺の『月の庭』、北野天満宮(きたのてんまんぐう)の『花の庭』、この三つを合わせて。


 時を超えてもその美しさが再興される形で現存されているって、素敵なことだと思わない?」


 作られた当時の想いが現代にまで続いている、その時の流れに強く知枝は感銘を受けているのだった。


「そうだな、京都はそういう伝統文化を守ろうって意識が根付いているよな」


「うんうんうん! せっかくだから、残り二つの庭園も回ろうよ! 

 ライトアップの時間とか、雪の積もってる雪の庭は見れないけど、いいでしょ?」


「あぁ、知枝が行きたいなら、行くか。

 嵐山(あらしやま)に行くのは遅くなっちまうだろうけどな」


 清水寺や祇園近辺の観光名所を回った後は、嵐山に行って散策を続けることを計画していただけに、残りの庭園を回るとどうしても十分な時間が取れそうにないのが現実だった。


「そうだね、そこは残念。

 トロッコ列車に乗ったりボートで遊んだりしたかったのに!」


 残念がる知枝、それでも表情は明るく、前を向いている様子だった。


 二人は月の庭の風情を満喫した後、残り二つの庭園へと向かった。

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