第九話「Unibirth」7
「浩二君、少しだけいいですか?」
知枝に話しかけられた俺は、二人で店の外に出た。
周りの目を気にしながら話すよりはいいと、俺も知枝に連れられながら思った。
植木の飾られている店の外で、真剣な表情を浮かべた知枝がゆっくりと口を開いた。
お祭り気分から切り替えるため、俺は覚悟をして、知枝の言葉に耳をすました。
「浩二君、これだけは覚えておいてほしいのです。真奈ちゃんはあの日に戻りたいと夢を見てあの絵を描いたのではないのです。
お姉ちゃんと一緒にまたいられるように、自分も頑張る覚悟を決めて描いたのです。あの一枚の絵に唯花さんへのそういった気持ちをいっぱいに込めているということです。
真奈ちゃんはあの時、病室で目を覚ました直後に私に言いました。
自分がお姉ちゃんを傷つけてしまったのなら、これからはそうならないように、立派な魔法使いになって魔力を制御できるようになりたいと。
真奈ちゃんはこれ以上唯花さんを苦しめたくない、でも一緒に過ごしたいと思っています。
だから立派な魔法使いへの道を踏み出し始めたのです。
それがどういうことか、浩二君にも少しずつでもお伝えしていこうと思います。魔法使いがどういうものかを知ることで、真奈ちゃんのことがより深く理解できると思いますから。
だから、この真奈ちゃんの気持ち、浩二君も応援して欲しいです。
酷いことを言って唯花さんを傷つけてしまったことは反省しています。
ですが、どうかお願い、できますか?」
知枝の言う”魔法使い”というのがどういうものかまだ分からないが、それでも真剣な口ぶりから、簡単な道のりではないことは分かった。
もしも、真奈が知枝と同じように”あの時やったような超能力”を使えるようになるなら、それは危険なことで、重大な決意が必要だと思った。
だから、俺もこれからは他人事として見ることは出来ない、それだけはよく分かった。
「うん、分かった。真奈には唯花がこれからも必要だから。
大切な家族だから、絶対会わせてあげたいんだ。
きっと、真奈の想いは伝わる、努力は報われる、俺も信じるよ」
「はい、唯花さんには、一緒に修学旅行に来ていただかないといけませんからね」
「そうだな、式見先生役は、唯花でないと務まらないって言ってやらねぇと」
知枝とこうして会話を交わし不安がやっと消し去って、すれ違いながらも、今までよりももっと心が通じ合えた気がした。
唯花には悪いけど、これからは知枝と一緒に気兼ねなく稽古をしていくことが出来そうだった。
俺は真奈から預かったキャンパス帳を手に勇気をもらい、これから達也と一緒に唯花を元気づけること、舞台演劇に向けて知枝との稽古を修学旅行の日まで続けていくことを決めた。




