第八話「Lullaby of Birdland」3
「お姉ちゃん大丈夫? ずっとぼぉっとしてるけど。やっぱり寝不足なのかな?」
必要な時以外、席から立つこともなくじっとしている私の様子を見て、光は心配そうに声を掛けてくれた。
よく周りを見ると、神楽さんも心配そうな視線を送っていた。
「うん、ちょっとね。朝方に気絶するみたいに寝ちゃったから……」
気を使わせているのはよく分かったけど、私の返事は力ないものだった。
「もう……無理しちゃダメって言ったのに……」
「ゴメンゴメンゴメンっ! 昨日までに終わらせたかったから」
「そんなこと言って、朝までかかっちゃったら意味ないよ。身体を大切にして」
「うんうん、分かってる分かってる分かってる」
「本当かなぁ……」
光は安心させようと作り笑顔を浮かべる私に一層疑い深そうに視線を送り、心底心配している様子だった。
「それで、修学旅行、京都だから。お姉ちゃん、行きたいところあったら事前に決めて連絡しておいてね。班行動になるから、一緒の班になったんだからよろしくだよ」
光は彼女の神楽さんのためもあるのだろう、うちの班の中で一番リーダーシップをとって進行を任されている様子だった、
確かに光は世話焼きなところがあるから適任だろうと思う。転校生で新参者の私があれこれ口出ししなくても、問題なく修学旅行についての決め事は光を中心に進みそうだった。
「うんうんうん、私のことは気にしないで、光は神楽さんのことを一番に想ってあげてね」
「うー、お姉ちゃん話を逸らそうとしてるでしょ? もう体調悪いみたいだから大人しくじっとしてていいけど……」
「私はね、舞台演劇の主役も任されてるから大変なの! 光に班行動のことは任せたよ。私、一緒に京都を回れるだけで幸せだから。
今まで、日本で学生同士で旅行なんて経験できなかったからね、楽しみにしてるよ、光と一緒だしね」
私が言いたいことを全部言うと光は納得したように頬を赤らめて、相当私の発言は効果てきめんだったようだった。
光は恥辱を覚えたようで、落ち着きない様子でそのまま逃げるように私の前から去っていって、神楽さんや浩二君と話しに行ってしまった。
(……光、それでいいんだよ。私はあなたに再会できただけで、元気な姿を近くで見られるだけで十分幸せなんだから)
光の可愛らしい彼女、フィギュアスケーターの夕陽千歳、国体選手である彼女が手塚神楽として男装をしながらこの学園にずっと通っている。
神楽という名前自体が男の偽名としてはあまりに適切とは思えないが、どうしてかこの学園中では何の支障もなく成立している。実はこの学園は偽名率が高いのではと陰で私は疑っている。
二人の馴れ初めを振り返ると、唯一のイレギュラーが一年生の学園祭の時に起きたハプニングだったそうで、それをきっかけに光とは恋愛関係になり、当時からクラスメイトだった浩二君達幼馴染三人にも正体を知られることになったそうだ。
この修学旅行の班であれば安心なことに善人な人しかいないし、千歳さんは安心できるだろう。私も、この二か月ちょっとの日々で、ここにいるみんなが良い人であることはよく知っているから。
昼休みが終わってから始まった修学旅行に向けての話し合いは続けられ、今日は午後の授業もないのでそのまま終礼まで時は流れていった。




