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第一話「あなたへの募る想い」2

 私は夜寝静まった頃、慣れた足取りで樋坂家の一階奥にある和室にやってきた、大切なことを伝えるために。

 暗闇に包まれる家の中、私は和室にある仏壇の照明を付ける。明るくなると浩二と真奈ちゃんの両親の写真がはっきりとこの目に映った。


 最近の私はナチュラルブラウンに髪を染めていて髪は束ねたりそのまま流したり、その時の気分次第にしている。

 性格的にも大人っぽく見られることもあり、161cmとそこまで身長は高くなくても、女子大生コーデを何となく続けているのだった。


 私は大切なことを伝えるために正座をし、お辞儀をしてから挨拶をした。

 そして、決して引き返すことのない決意を固め。本題に入った。


「いざ、二人の前に座って自分の気持ちを伝えるのは緊張してしまいますね。

 でも、言わせてください。どうか、聞いてください。


 お二人と四年前のあの日に、最後の別れとなった時にした約束をちゃんと果たせたかはまだ分かりません。あの時、私を庇って命を救ってくれたこと、浩二と真奈ちゃんを託してくれたこと、心から感謝しています。

 私なりに二人の想いに応えられるよう、不自由なく暮らしていけるよう、見守りながら自分にできることを頑張ったつもりです。


 もう、あれから4年が経ちましたね。私にとってあっという間の四年間でした。


 真奈ちゃんは大きくなって、小学生になりました。

 私と浩二も今年高校を卒業して大人の仲間入りを果たそうとしています。


 真奈ちゃんと過ごして子を持つことの責任の重さを知りました。真奈ちゃんは私の子どもではありませんが、心からそう思います。


 真奈ちゃんのおもつを替えるのも、夜通しあやし続け一緒にいたことも、ベビーカーを引いて公園やスーパーに行ったのも、全部、今でも鮮明に覚えています。


 では、本題です。大切なことをこれから言います。

 今日、ここに来た理由です。

 

 私は浩二を愛しています。真奈ちゃんのことも愛しています。

 だから、気持ちをちゃんと伝えようと思います。


 ずっと、一緒にいられるように。


 お二人には私を生かしてくれて本当に感謝しています。

 こんな事を真剣な顔で言っている私を見たら、“いまさらなんだ”ってお二人は笑ってしまうかもしれませんが。でも、ちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃいけないんだって思いました。


 そうなってしまったのも、きっと私の責任です。

 もう、浩二が誰かのところに行ってしまうのを見るのは耐えられないです。


 私はどうしても、これからも一緒に浩二と真奈ちゃんのそばにいたいです。

 生涯、二人と寄り添っていたいと願っています。

 だから、どうかこの気持ちを伝えたい、私のわがままをお許しください。


 そして、お二人を棺の中にお納めできなくてごめんなさい。


 浩二と真奈に対面させられなくてごめんなさい。


 これは私の一生の後悔です。

 ずっと、助けて頂いたご恩を胸に生きていきます」


 4年前の事故のことを思い出しながら……これまでの大切な日々を思い浮かべながら……。そして、改めて浩二への想いを確かめながら、私は心を込めて二人に語り掛けた。きっとこの言葉が天まで届くと信じて。


 私はしっかりと伝えられただろうか……?

 今日まで、立派に成長することができただろうか……?


 正座して背筋を伸ばしながら考える。


 いや、成長なんてしてない……私はどんどん浩二に依存している。

 浩二がそばにいてくれないと不安になる、心が離れてしまうのが怖い。

 何が私をここまで狂わせてしまっているのか、その正体さえよくわからない。

 でも、もういい、そばにいられれば全部解決するんだから。


 今ならよくわかるよ。羽月(はづき)さんが浩二と抱き合ってる時の、あの満たされた表情の意味が。それは今私が一番欲しい安心だから。

 

 私はしばらくそのまま座って、時間の許す限り思い出に浸った。

 そんな時間がしばらく経ってから、物音が聞こえた。足音がこちらに近づいていることに気付いた。


 仏壇の明かりだけが付いた暗い部屋の中で、こちらに近づく気配に気づいた私は、そっと息を整える。

 予行演習はしてきた、後はちゃんと伝えるだけ、そう自分に言い聞かせた。


「唯花? こんな時間にどうしたんだ?」


 私が声のした方に向き直ると、そこには目を擦りながらどうして夜遅くに私がここにるのか不思議そうな顔をしている浩二の姿があった。


 足音だけで、私は浩二が近づいてきたとはっきり判断できた。


 浩二はTシャツにハーフパンツ姿をしていて、先ほどまで部屋で休んでいたことが分かる。

 私の方は昼間と変わらない水色のボウタイリボンブラウスとグレーのフレアスカートだからちょっと申し訳ない気持ちだった。

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