第七話「断罪される救世主」4
浩二君から次々に放たれる怒号に、突き刺さるような言葉に、どんどんと私は言い返す言葉も失い、感情を失っていった。
そして、悲しい気持ちとか、頭の中で複雑に交じり合う感情も分からなくなって、身体から力も失い、浩二君の声もどんどん遠くなって聞こえなくなっていった。気付けば浩二君は公園から出ていって、いなくなっていた。
私は一人寂しく公園に佇んで疲れたのか、立ち尽くしたまま涙も枯れ果てていた。
「……どうしてこんなことになっちゃったんだろっ……本当ひどいよっ!」
頭に浮かんでくる感情が後悔なのかもよく分からなかった。
ただひたすらに悲しい、こんなはずじゃなかったと思って、悲しかった。
帰ろうと思っても、足が動かないでいると、頭上から生温い梅雨時の雨が降り始めた。
―――まるで、あの日みたいだと思った。
でも、決定的に違うことは、今の私のところには、浩二君が助けに来てくれたりは絶対にしないということだった。
喧嘩するつもりなんてなかったのに浩二君を怒らせて喧嘩してしまった。
浩二君は許してくれないかもしれない。私も自分が正しいことをしていると信じて、ムキになっていたのかもしれない。そう思うと、余計に惨めで分かり合えない気がして悲しかった。
私はどれだけ雨に濡れたって助けてくれる人はいないと痛いくらいに分かっているので、水原家を目指してトボトボと歩き出した。
雨足はどんどんと強くなり、もう私はびしょ濡れになっていたが、早足どころか、行きよりも遅い足取りで私は帰路に着いた。
「どうしたのお姉ちゃん?! 本当、風邪引いちゃうよっ」
玄関に入り、もう雨に降られず、明るい照明に安心して呆然と立ち尽くしてると光が心配そうにしながらやってきた。
「もう……タオル持ってくるから待ってて」
濡れた髪が目を覆っていたが私はそれを直す気力もなかった。
それから間もなく、光がタオルを持ってやって来て、私の髪や顔を丁寧に拭いてくれた。
「大丈夫? シャワー入れる?」
光の優しい声が耳元で聞こえた。
「うん、ちょっと雨に濡れちゃっただけだから……」
私はやっと声を絞り出すことが出来た。表情はまだ凍り付いたままだった。
それから光に連れて行かれるままに私はシャワーを浴びた。
ボディータオルで身体を洗いながら、私は浩二君はどうしたら許してくれるのかどうか、ずっと考え続けた。
どうしてか、あれだけ酷い言葉を何度もかけられたのに、浩二君との思い出が頭から離れなくて、浩二君を好きな気持ちは全然消えてはくれなかった。
これは真奈ちゃんと深く繋がってしまったからかもしれない……憎むことも、忘れることも出来ない。だって、真奈ちゃんは誰よりも浩二君を信じているから。だから、それが分かってしまう私は、浩二君を否定することも忘れることも、嫌いになることも出来ないのだ。
「―――浩二君、ごめんなさい……」
私はシャワーを浴びながら、再び泣いた。
何が何だか分からないが、私はこれ以上ないくらい人間らしい不条理な感情でいっぱいだった。
浩二君ともう一度分かり合いたいと思いながらシャワーを終えて、パジャマ姿で部屋に戻ると、忘れた頃に再び体内にある魔力が暴れ始めた。
真奈ちゃんがあの日感じた苦痛に似た痛みが体の内側から私を襲う。
時に電流が走るように痛み、マグマのような熱が蛇のように体内をのたうち回る感覚に囚われる。
私は急いで宝石を取り出して必死に両手をかざして魔力を宝石に送り込む。
「―――はああぁああぁぁぁあ、ああああぁぁあぁぁあぁx!!!!」
魔力を絞り出すように外に吐き出すと、自然と声が零れていた。
真奈ちゃんには規格外の魔法使いの才があった。
魔力許容量は平均的な魔法使いの私よりも倍近くあり、あの時はその魔力の杯が溢れ返っていて暴走寸前の状態だった。
あれだけの魔力を溜め込んだ真奈ちゃんから魔力を転送し、安定させるまで転送をするには私の肉体の限界ギリギリまで行使し続ける必要があった。
真奈ちゃんから大量の魔力を転送された私は重い身体で家まで帰り、ひたすら寝ずにずっと宝石に魔力を転送し、身体から魔力を抜く作業を続けていた。
なんとか安定してから、学園を休み寝ることで悲惨な事態にはならずに体調も回復したが、雨に濡れた影響でまた不安定になってしまった。
通常、身体機能を維持するマナは年齢と共に低下し、その影響で老化や生活習慣病にかかりやすくなるなど身体に影響を及ぼしていくが、魔力は魔力行使する以外はほとんど使われることなく、年齢と共に進む魔力許容量の減少も鈍足だ。
とはいえ、魔力は精神の安定や生体ネットワークにも影響するので、人それぞれ魔力許容量の差はあるが所有している。
宝石は魔力を溜め込んで保存しておくのに便利で私はよく使っている。
必要以上の魔力を体内においていくのは危険なので、定期的に私は血抜きをするような感覚で魔力を宝石に移して保管している。
ペリドットにラピスラズリにトパーズ、その他さまざまな宝石を所有している私。その色とりどりの宝石を宝石箱に閉まって、普段は取り出さないように大切に保管しているのだった。
長い夜の間、私は宝石にいっぱいの魔力を送り込む作業を終えると、力尽きるようにベッドにごろんと転がり込んだ。
「―――真奈ちゃんとの約束を果たさないといけないから、立ち止まってなんていられない。落ち込んでる場合じゃ、いじけてる場合じゃないんだ……」
おでこに軽く手を載せるとまだ熱を帯びていた。
私はクラクラした感覚が残ったまま、その日は眠りについた。




