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第一話「あなたへの募る想い」1

 ――—あの日、合同演劇発表会の日から数日後。


 稗田(ひえだ)さんが樋坂家(ひさかけ)にやってきた日、私は稗田さんの浩二(こうじ)への恋心を知った。

 転校生として新年度からやってきて、稗田さんもようやく演劇クラスにも慣れてきた矢先のことだった。


「マナ分かるよ、ちえおねえちゃんは“おにいちゃんのことが好きなんだね”」


 浩二の妹である真奈(まな)ちゃんから突然稗田さんへとかけられた言葉。

 これはテレパシーや神通力(じんつうりき)のようなものを真奈ちゃんが持っていると、私も真剣に考えるようになったきっかけにもなった。


 この言葉を聞いて稗田さんは必死に否定していたけど、明らかに動揺していたし、図星だったに違いない。または、稗田さん自身さえ明確な自覚のなかったことを、心を読んで指摘されてしまったかだけど、少なくとも真奈ちゃんの言葉で稗田さんは自分が浩二に惹かれていることに気が付いたはずだ。


 稗田さんが浩二を好きだと知ると落ち着いていられない私だったが、さらに私がショックを受けたのは、この後、真奈ちゃんの言った言葉の影響が大きかった。


「ちえおねえちゃんならいいよ、“おにいちゃんと付き合っても”」


 この言葉を聞いてさらに衝撃を受けた私はこっそり立ち聞きをするのにも限界を感じ、結局二人の為に用意したティーセットを渡すことのできないまま自分の部屋まで逃げ帰ってしまった。


 私は稗田さんの秘めた恋心以上に真奈ちゃんの言った言葉の方が信じられなかった。


 そう、私はずっと信じ切っていたのだ、真奈ちゃんは私と浩二とが未来永劫一緒にいる未来を願っていると。

 それはいずれ結婚して本当の家族になることも含んだ意味として考えていて、私自身、それを一番願っていて、真奈ちゃんも同じだとずっとそう信じきって、私の味方でいてくれると思ってきたのだ。


 それが何故なんだろう? 


 これはまさか真奈ちゃんの心変わり? 


 それとも単なる稗田さんへの信頼? 


 分からない……真奈ちゃんが私と稗田さんをどう天秤(てんびん)にかけて考えているのか……。まだ小学生になったばかりの真奈ちゃんに自分から聞き出すことなんて出来るはずもなく、いくら考えても納得できる答えは見えてこない。


 でも、稗田さんと浩二の仲が深まっているのは名前で呼ぶようになっていたり、稗田さんが時折浩二を意識しているような表情で見つめている様子を見て私は感じ取っていた。


 私は……この一件から、拭いようのない不安を背負っている。



 浩二が私のことを本気でどう思っているかは分からないけど、私は浩二のことが好きだ。

 いつからかなんて今更分からない、幼馴染として、家が隣同士として、小さい頃からずっと一緒だったから。だから、いつから好きになったのかなんて、もう自分でも分からない。


 でも、私が本気で彼のことを愛しているのなら、本当は好きという気持ちをちゃんと伝えなければならなかったのだろう。

 この曖昧な距離感から恋人同士へとちゃんと変わらないといけない。私はずっと続けて来たこの居心地の良さにかまけて、自分の気持ちを伝えることから逃げてきたのだ。


 だけど、今から私は逃げることをやめる。もう、そういう自分とは卒業する。


 ”私、永弥音唯花(えみねゆいか)樋坂浩二(ひさかこうじ)に告白する”


 稗田さんが恋のライバルかもしれないとか、そんなことは関係ない。私は浩二のことが大好きで、ずっとそばにいてほしいから。だから、もう誰にも奪われたくない。


 私は真奈ちゃんと浩二の一番になる。羽月さんと浩二が付き合っていた時はまだ本気で一緒にいられなくなるなんて考えていなかったけど、好きなら自分から動き出さないと、いつかきっと後悔することになる。そのことに私はようやく気付いたのだった。



 私は心の迷いを消して、告白する決心を固めて計画を練った。


 稗田さんに先を越されるわけにはいかないと思い、私は中間試験の後すぐに告白することに決めた。


 計画を練れば練るほど自分は悪女かもしれないと思い至った。

 告白しようと思ったきっかけが稗田さんが浩二を好きかもしれないと知ったからなんて……。


 結局のところ、私は自分の居場所が脅かされるという危機感で動いているのだ。


 なんて浅ましい女だろう、昔からずっと浩二を自分の男だと思って生きてきたようなものだ。自分がズルいことをしようとしている、それは重々理解できたが……それでも、もう自分の気持ちを抑えられる段階をとうに超えてしまっていた。


 撮影や収録などで使わせてもらっていた最新設備の整ったライブハウスに浩二と真奈ちゃんを招待して、そこで二人の為のプライベートライブを披露しながら告白する。


 それが考え抜いた上に出た私の計画だった。

 私は浩二への想いを歌に込めて伝える、そして、歌の最後に告白する。

 それで浩二にも真奈ちゃんにも、私の気持ちをちゃんと受け取ってもらおう。そう心に決め、行動に移した。


 早速、中間試験の前日までに私はライブハウスの予約も済ませた。

 後は浩二を誘うだけ、浩二を奪われたくない気持ちが募っていく以上、もう後には引けないから……私は学業とアイドル活動の(かたわ)ら、準備を進めた。


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