第三十話「FirstLove」9
浩二君が心配そうに私を見る。アリスの方はようやく口を閉じて数歩後ろに下がると、私がどう説明するのか、興味深げに眺めているようだった。
この場で小難しい説明をする意味があるのか葛藤しながら、何とか私は気持ちを整理をつけて、遠くに見える十字架を眺めながら、浩二君のことを思って口を開いた。
「アリスはね、アリスプロジェクトから産まれたAIプログラムなの。
今の外見はホモンクルスのようなものと思ってもらえればいい。
魔法使いに優れた才を得るためのデザイナーベビーである私とは違うの。
ただ、一番特異なのは生体ネットワークと繋がれた魔女であるということよ。
《《アリスプロジェクトは神様の教科書を生み出す研究と実験だった》》。
生体ネットワークで繋がれた記憶を収集し、人類をあるべき方向に導いていく。
そして、アリスはアリスプロジェクトから産まれた副産物、いや、真の目的と言ってもいい。
人類が過ちを二度と侵さないように助言と力をくれる存在、そして私のような魔女はアリスによって力を与えられた存在なの。代行者といったところかしら。
もっぱら現在人類の背負ってる一番の危機はゴーストの存在だった。
その対処に駆り出されているのが魔法使い、特殊な能力を持ったサイキッカーといってもいい。そして、彼らゴーストに対抗できる魔法使いを生み出すのが私のような魔女の役目ってことなの」
早くこの状況から抜け出したい一心で浩二君に視線を向けて説明をする私。アリスは私が説明する間、クスクスと意地汚い笑みを浮かべて、頷きながら上機嫌な様子だった。
説明を終えると、この後に何をアリスから言われるか考えると怖くなり、私は立ち上がって浩二君のところへ駆け寄った。
「もういいから、浩二君、行きましょう! この子の相手をしてたら、寿命が縮む一方だからっ!」
私は浩二君の腕を掴み、礼拝堂を出ようと急げ足で扉へ向かって歩いた。
浩二君が私の話しを理解したかはこの場では関係ない。
ただ、この想定外の状況から早く抜け出して、外を歩きたかった。
「おいおい……いいのかよ」
「いいのっ! アリスは神出鬼没でどこにでも現れるんだからっ」
浩二君にも私がアリスを苦手としているのがよく分かったのか、私が勢いよく口調を荒げると大人しく付いて来てくれた。
「あらあら……せっかく久しぶりに会いに来てくれたと思ったのに、つれないね。
でもいいわ、計画は良好のようだから、どうぞ今日はお楽しみに、ふふふふっ……」
意地悪なくらいの笑い声をアリスが響かせる中、私たちは礼拝堂を飛び出した。
今度アリスと会ったときは、しっかり浩二君に手出ししないよう言いつけておかないと……。
息が詰まるようなアリスのいる礼拝堂から外に出て、外気に触れるとどっと疲れが押し寄せてくるのを感じた。
「……何か、大変だったな」
「本当にね、ごめんね。まさかアリスが出てくるとは思わなくって」
私はアリスが教会で暮らしている居候であることなどを説明しながら、手を繋いで次の目的地へと向かった。




