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魔法使いと繋がる世界EP3~Clover destiny & World end archive~  作者: shiori


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第四話「届けたい想いを詩に乗せれば」4

「唯花ちゃん本当に久々だねぇ!! やっぱり恋しいよねっ、天海聖華(あまみせいか)もいいけど、”minori(みのり)”のことを忘れてないってのは俺たちも嬉しいよっ」


 ノリの良い調子で唯花を出迎えるライブスタッフ。このライブハウスの従業員はバーチャルシンガー時代からずっとお世話になっている人たちだった。

 そのため、唯花がここを訪れるたびに手厚いを歓迎を受ける。そういう意味では活動の協力者という立場ではあるが、ファン以上にファンなのだった。


「忘れるわけないですよっ! 二年以上活動してきたんですから。

 皆さんにとっては二年間なんて短く感じるかもしれないですけど、思春期の私にとっては、それはそれは一生大事な思い出が詰まってる二年間なんですからねっ!」


 ここにいる人なら喜びそうな陽気な明るさで、リップサービスも含んて発した唯花の本音だった。

 元々、歌が好きだった唯花が多くの人に自分の歌を届けようとして始めたVシンガー活動、それも様々な人と関わり合いを持ちながら、最後まで唯花は楽しんできた。


「あははっ!! さすが唯花ちゃんだね。手厳しいよ。

 うちらはそりゃこの仕事を続けて長いけど。どのアーティストのことも立派だなって思って応援しているんだよ。それをいい歳しても共有できるっていうのは有意義な経験ってもんだよっ!」


 この業界に入って長い、様々な経験をしてきたライブハウスの従業員の一人がそう言った。彼は40代にもなって派手な髪形とサングラスをしていて、唯花と話す姿は実に歳を感じさせない上機嫌さである。



「今日限りには勿論して欲しくないけど、久々に開催するminoriとしてライブ、全力でサポートしていくよっ!」


「皆さんありがとうございますっ。セットリスト通りに流してくれるだけでよかったのに。

 ミキサーまでやってもらって……せっかくですから皆さんも楽しんでもらえるような、忘れられない今日限定のスペシャルステージにしますねっ!」


「いい笑顔だね、やっぱり唯花ちゃんは最高だよっ!

 気持ちをいっぱい込めて、歌声を聴かせてあげなよっ!

 聞かせたいんでしょ? あの二人に」


 一番年長の従業員が唯花を励ます言葉を送った。


「はい! 二人は、私の大切な人なので」


 反射的に言葉を返して背筋がゾクゾクとしてしまったが、唯花の言葉に迷いはなかった。


 今、アイドル活動を続けているバーチャルアイドル、天海聖華としての自分。

 この間まで活動していたバーチャルシンガー、minoriとしての自分。

 そして、実像として生きている浩二と真奈の幼馴染としての自分。


 唯花にとってどれが一番大事かなんてない。

 どれも大切で、いつだって自分自身で、その時々で、出来ることに全力で打ち込んで生きてきたのだった。


 長い付き合いを続けてきて、今なおも応援してくれるスタッフの言葉に唯花はより一層励まされ、ここに来てよかったと思いながら、ライブステージへと向かって最後の準備を始めるのだった。



 ――きっと上手くいく、今まで過ごしてきた時間が無駄ではなかったことを証明するために、もう、自分の気持ちを隠して過ごすことはしたくないから。


 今から私は素直になる、好きという気持ちを抑えず、全力で歌うよ。


 届けたい想いがあるから。

 

 だから浩二、私の想いを聞いてね――



 控え室に入り、バーチャルシンガー引退までの期間、胸が張り裂けそうになる日々を経験した懐かしいライブ衣装に着替えた唯花。軽装で露出もある身軽で煌びやかな衣装に身を包んだことで、さらにやる気を全開に高ぶらせた。


「私、頑張ってるよね……。だって、誰にも負けたくないもの。

 浩二がいてくれるから、見ていてくれるからずっと頑張っていられるんだよ。

 今日はレッスンで鍛えたダンスも頑張っちゃうから、楽しんでもらわなきゃ!」


 唯花は化粧直しを完了し、鏡の前で気合いを入れ直した。

 今日は特別な日、可憐に咲き乱れる花のように、”minori”として一人ステージに立つ。



 こうした活動を続ける以上、自分に自信を持てなければだめだと唯花は思った。


 よってバーチャルのモデリング衣装に頼るのではなく。ちゃんと自分自身も着飾って気持ちを高めておくことにも意味があると信じているのだった。


 生身の姿があるから、バーチャルでの姿も自分の動きと連動して光輝く。

 バーチャルの姿があるから、より自由に色んな自分を表現できる。


 バーチャルグラフィックスの世界でしか発揮出来ない効果演出や映像表現は数多くある。


 しかし、裸眼でバーチャルステージをリアリティーのある形で楽しめるスポットはあまり多くはない。

 それは時代が追い付いていないということではなく、コストに見合わないからだった。


 大きな会場のライブステージであればそれなりに収益も期待できるが、小さなライブハウスでは入れられる観客数にも限度がある。

 さらに言えば、各演奏者の要望を忠実に再現するための準備も必要不可欠で、設備投資に見合う収益を獲得するのはこの時代でも容易なことではなかった。


 そういった事情があり、ライブハウス経営者や技術スタッフを抱える業界関係者のサブカルチャー的な熱意と願望によって、こうしたライブハウスは成り立っているものと言えなくない。


 デジタル技術によってもたらされるその可能性の広がりを、時と共に人々は経験してきたからこそ、彼らの活動は支持され、技術向上を続けながら血の通った応援をファンからされ続けているのだった。

 


 唯花は深く深呼吸をして、ゆっくりと覚悟を決めて控え室を出ると、ステージへと向かった。

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