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魔法使いと繋がる世界EP3~Clover destiny & World end archive~  作者: shiori


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第四話「届けたい想いを詩に乗せれば」3

「さぁ、行きましょう」


 一度自宅に戻った唯花が着替えの入った紙袋を手に再び玄関までやってきて声をかけた。


「あぁ、すまんな、真奈の着替えに手間取って」


 浩二がそう言った後で、真奈が玄関へと意気揚々と姿を現した。

 真奈はツインテールに髪を結んで、ふんわりとしたゴスロリ衣装で登場した。


「お待たせなのだ!」


 衣装を自慢するように一回転して見せる真奈。サイズもピッタリで今にも踊り出しそうな機嫌の良さだった。


「あらっ、今日は一段と真奈ちゃん可愛いね!」


 唯花は上機嫌に登場した真奈のゴスロリ衣装を見てすぐさま褒めた。

 

「ちょっと、これならまほうつかいっぽく見えるかな?」

「うんうん、ヒラヒラのスカートもいいと思う!」


 早く成長して立派な魔法使いになりたいと願う真奈。唯花から見てもお人形のような派手な衣装は真奈にとても良く似合う。

 それと同時に唯花はこのツインテールに結んでいることも含め、浩二の趣味かと内心疑いの目を向けた。


「俺の趣味じゃないからな。真奈が着たいっていうから許可しただけだから」


「別に私は趣味でもいいんだよ? アイドル衣装とかファミリアの制服とか、ああいう短いスカート、浩二だって好きでしょ?」


「好きと言った覚えはない」


 浩二は誤解だと言わんばかりに不機嫌な表情を浮かべるが、唯花の中では心躍りながら髪を結んであげる浩二の姿が脳裏によぎった。


「もう……素直じゃないね。隠さなくてもいいのに」


 クスクス笑いをする唯花に浩二は表情を崩さないようにしていると真奈がさらに急接近しスカートを揺らしながら浩二の手を掴んだ。


「あにじゃ!! おねえちゃんのはれぶたいに向かってしゅったつなのじゃ!!」


「色々間違ってる気がするが、真奈がご機嫌ならいいか……」


 浩二がやれやれといった表情で真奈の手を握り返す。それを見てさらに唯花の視線が厳しいものに変わる中、玄関前での会話も終わって三人はライブハウスへと向かった。



 舞原市内で唯一と言っていい、屋内ステージ上でのバーチャルライブに対応したライブハウスに到着し、唯花は先頭に立って慣れた様子で受付に向かって手続きを済ませた。


「行きましょう、三階のフロアは貸し切りにしてあるから」


 都内ではなかなか予約するのが難しいとされているしっかりとした設備の整ったライブハウスだが、唯花の人徳と舞原市であるということで、予約するのが遅くなっても、ワンフロア丸々貸し切ることが出来た。


「私は打ち合わせしてそのままステージに向かうから、二人は客席で楽しんでいってね。はいこれ、ドリンク券ね」


 贅沢にも真奈と浩二しか観客のいない客席の中で、唯花はドリンク券を二人に手渡し、準備に入ろうとした。


「本当に俺と真奈だけでよかったのか? この広さって……もったいない気持ちになって来たぞ……舞や達也だって、呼べばよかったのに」


「浩二は気にしなくていいの。私がいいって言えばいいのよ。

 それに、私は会員で特別料金だから、通常の70%OFFよ」


「それは商売にならないだろ……」


「ふふふっ、本当そうだと私も思うんだけど。

 ここにいる人はみんな、私のファンみたいなものだから。

 昔は浩二や達也を連れてよくカラオケ行ってたけど、しばらくご無沙汰だったからね、本当歌うのが楽しみ」

 

 唯花はこれから始まるライブを思い、気恥ずかしさもあったが、二人に幸せ顔で話した。


「そういえばそうだな。唯花のオンステージになることが多かったけど」


 浩二は昔のことを思い出し、懐かしみながら言った。

 八時間以上歌っても喉が枯れることのなかった唯花。そんな唯花に付き合わされていた浩二は唯花の歌声に慣れ過ぎていたせいもあり、これだけ人から高い評価を受ける歌唱力を持ち合わせ、人前で披露するようになるとは、当時思いもしなかった。


「お母さんがライブDVDを収集するのが趣味だった影響が強いから、それで歌いたい曲がたくさんあって。天野月(あまのつき)だったり|BONNIE PINKボニーピンクだったり、楽しく歌ってたらシンガーソングライターに憧れちゃってたからね」


 バーチャルシンガーになりバーチャルアイドルになった唯花。その原点を突き詰めるなら一昔前の類稀(たぐいまれ)な歌唱力を持つシンガーソングライターの影響であることは、浩二も耳にしていた。


「唯花が歌を歌うのが好きなのは昔からだけど、ここまで来るとは思わなかったよ」


「本当、私も想像してなかったよ。それじゃあ、控え室で準備してライブ始めるね。

 今日はお化粧された音源じゃない、生の私の歌声を最後まで聴いていってね! 浩二に真奈ちゃん」


 上機嫌に微笑みかけて、唯花は手を振るとそのまま慣れた様子で関係者専用のフロアへと向かっていった。


「あいつ……本当どういうつもりなんだろ……」


 浩二はここまで来ても、唯花の思惑を計りかねていた。

 唯花の発言通り日頃のストレスを発散したいにしては、あまりにやることが派手過ぎると思ってしまう自分がいた。


「確かに……観客が多い方が緊張もするし、気軽なライブにはならないだろうけど、本当、それだけなのか、唯花」


 唯花を心配する気持ちから何か妙なことでも抱え込んでいるのではと、疑いの感情が浮上してくる。

 だが、浩二は唯花が思うようにやりたいというなら、それを応援するのが自分の役目だと思った。


「おにぃ、はやくのみものもらってこよ!」


 浩二の深みに()まっていく思考とは裏腹に、真奈はすでにこのライブを全力で楽しむ気満々であった。


「おいおい! 引っ張るなって、分かったからっ!」


 浩二の腕を掴んで急かしてくる真奈に引っ張られ、浩二は薄暗いフロアを歩きドリンクを一緒に取りに行く。


(考え過ぎかな……普通に楽しめばいいよな。唯花だもんな)


 生クリームが渦巻き状に乗ったアイスココアを受け取って嬉しそうにはしゃぐ真奈の姿を隣で見ながら、最後には浩二もこのライブを楽しむことを受け入れて、固くなっていた表情を緩めた。

 バーチャルシンガーである唯花の姿や歌声が好きなのは浩二や真奈、ここにいない舞も同じだった。

 だから、今日を楽しみにしていたのは本心なのだった。


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