第二十話「真夜中の旧校舎地下探索」1
「先輩、それであたしこの前こっそり鍵が本当に使えるかどうか確かめてきたんですよ」
昼休み、舞と唯花は旧校舎の地下へと行く計画を進めるために羽月に交渉を持ちかけるべく、図書準備室へと向かっていた。
「そうなの? 意外と本気だったのね。
舞の事だからこんなことはすぐに忘れてくれるんじゃないかと期待してたんだけど」
「忘れるなんてことないです!
うら若き乙女三人で繰り広げられる夜の学園での秘め事。
こんな素敵イベントをお蔵入りにするなんてありえないです!」
鼻息荒く(※イメージです)こう力説する舞。ショートヘアーの金髪に短いスカートを愛用する薄着な格好の舞は今日も愛する唯花と一緒にいられて絶好調だった。
それに対して唯花は迷惑そうな表情を浮かべ、肉体接触を舞がするたびに引き剥がそうと押し返すたび、呆れ顔で付いて行くのだった。
唯花は夏らしい半袖の白いブラウスにロングスカートを履き、全面に清楚な雰囲気を振りまき、さらに舞のハートを撃ち抜いてしまっているのだった。
「その変態な妄想がなければいい後輩なのに……はぁ……」
溜息をこぼしながら苦言を言う唯花。スカートの丈が短く、些細な振る舞いの中にある若干のギャル要素以上に舞の言動の方を心配する唯花であったが、舞はそんなことはまるで気にせず毎日を赴くままに過ごしている。
「いえいえ、こんなことを言う相手は唯花先輩に対してだけですから、大丈夫です」
「それがいい迷惑だってこと、そろそろ気付いてほしいのだけど……。
まだ同い年なんだから先輩とか言わずに普通に接してくれた方がマシよ」
同い年である以上、可愛い後輩とは思いたくない唯花の憂鬱は何時まで経っても続いていくのだった。
「それでですね……ちゃんとあのボロっちい鍵でも開きましたので。
扉はなかなか年代物のせいで滑りが悪くて重たかったですけど、地下へと続く階段は本当に雰囲気バッチリでしたよ!」
嬉しそうにポーズを取って自信ありげに力説する舞、唯花をそれを見ながら一体何がバッチリなのかと呆れるほかなかった。
本当に舞はただ未開拓の心霊スポットに行ってドキドキ体験を味わいたいだけの好奇心の塊であった。
そんないつもと変わらぬ調子で話しながら図書室までやってきた二人はそこで静止することなく図書準備室の扉を開け、迷うことなく中に入った。
「へぇ……二人の秘密の花園はこんな風になってるんですね」
誤解を招くような発言を早速空気を読まず繰り出し、初めて図書準備室に入った舞は、相変わらずツッコミ待ちの言動をして中の様子をキョロキョロと眺めた。
「羽月さんの許可もあって特別に入れてあげるんだから、あんまり物色しないでよ、ついでに言うと図書委員ならみんなこの部屋には入ったことあるからね」
図書委員の唯花は仕方なく訂正を入れようと舞に説明をするが、都合の悪いことは聞く耳を持たない舞だった。
「あら、本当に二人で来たのね。先にお邪魔してたわよ」
二人が私服登校をする中、唯一制服で学園生活を送り続ける羽月が二人を出迎える。
その手にはすでにティーカップがあり、昼休みの時間をリラックスタイムとして穏やかに過ごしているのだった。
「わぁ! 八重塚さんごきげんよう、今日は相席させていただきますね」
舞はオシャレなティーカップで紅茶を嗜む羽月の姿に目を輝かせて、お嬢様学校でするような挨拶の真似をして、パイプ椅子に座ってエサを欲しがるワンコのように女子校ムーブで羽月に寄り付いた。
「あぁ、確かに水原舞さんってこんな風だったわね……二人が真面目だから失念してたわ」
人懐っこく現れた舞に羽月は警戒心を現しながら、三つ子の姉弟、知枝と光の真面目さとはかけ離れた舞の馴れ馴れしさに驚かされてしまった。
「ごめんなさいね、舞がわがまま言うものだから……」
唯花は保護者のような責任の感じ方で、面倒な舞を連れてきてしまったことを謝り、羽月の隣に普段通り座った。
「いいのよ。普段と違って賑やかなのもたまにいいわ。
それに、唯花さんの言うことを何でも聞くような聞き分けのいい子でもないでしょうし」
反射的に謝る唯花に、羽月は同情しながら、舞のことをそのまま受け入れた。
舞と唯花を加えた図書準備室での昼休みティータイムがそこから始まり、最初は進展のない日常会話を繰り広げながら、五分ほどして本題へと入った。
「それで、私に用件があったのでしょう?」
図書準備室に入ってから余計ハイテンションになった舞に翻弄されながら、羽月はタイミングを見計らい、いよいよ痺れを切らして聞いた。
「そうなんですよ! ここだけの話なんですけどっ!」
ここだけの話と言いながら、ご機嫌な調子そのままに大声で説明を始める舞、その様子を横で座りながら見守る唯花はその辺の噂好き厄介ギャルかと思わず頭を抱えてしまうのだった。
「あたし、この前”ファミリア”の店長から旧校舎の地下へと続く鍵を預かりまして。それでお二人をお誘いして、ハラハラドキドキの探検をしようと提案しに来た次第なんです。
生徒会副会長をしていた八重塚さんが一緒について来てくれたら、これは心強いと思いましてっ!」
上機嫌な様子そのままに唯花の時と同様に羽月を誘う舞。その言動には舞らしさが多分に含まれていることで、簡単に断られてしまうのではと心配になっていた唯花だったが、意外にも羽月は内容を吟味するように考え始めた。
(あの時、体育倉庫で遭遇した中国人……。確か地下書庫を探しているって話していたわね……。あの時は慌ててたからスルーしたけど、本当にあるとしたら、たとえ旧校舎の地下でもこの目で確かめたい……)
羽月は去年の学園祭での一幕を思い出し、長考に入った。
いかにも怪しい中国人らしき男が発した謎の言動、そこで出て来た”地下書庫”という謎の単語。羽月もそれがまだ自分も知らない旧校舎地下にあるとすれば、一度卒業前に確かめてみたいと考えたのだった。
考える素振りを見せる羽月に不思議そうな表情を浮かべる舞は、これは脈ありだと察知し、さらに経緯を詳しく説明し、羽月の回答を待った。
「……そうね、私も行ってもいいわよ」
ティーカップに口を付け、残された紅茶を飲み干した羽月は決心を固め、色っぽい唇をした口を開き同行することを二人に伝えた。
「本当ですか?! ありがとうございます!」
満面の笑みで喜ぶ舞が羽月の手を勢いよく握る、一方唯花は羽月の返答の裏には何かあると勘づき、それが何か分からずモヤモヤとした感情を抱くのだった。
かくして、三人で旧校舎の地下を探索することが決まり、その機会を伺いながら秘密の計画を進めていくのだった。




