II ひめさまどーるとひのくるま
「相変わらずぼんやりしてるわね、あんたは」
波打つ豊かな金色の髪。ふわふわした薄ピンクのドレス。ぱっちりとした輝く瞳。
まさしく『姫』にふさわしい容姿がそこにあったが─────
「ねぇミミ、お姫様が仁王立ちはどうかと思うよ」
「いいじゃない別に」
腰に両手をあててアハハと笑うその仕草は、ただのオテンバ少女だった。
ミミは本名を『プリンセスドール Mimi』といって、その名の通りお姫様の人形なのだけれど、ここの家の子は男の子一人だから、あんまり遊び相手に選ばれないのだった。
だからって、毎度毎度僕を遊び相手にするのはやめてほしい。
「まったく、従姉妹の子が来た時ぐらいしか出番ないんだもの。やんなっちゃうわ」
「いいじゃない、のんびりできて。代わってほしいくらいだよ?」
あくびしつつそう言うと、ミミは目を細めて僕を睨んだ。
そしてフッと吐き捨てるように笑う。
「あーあー、人気者はいいですねー。毎日のように出勤なさっているサンさんは」
「僕をさん付けするとややこしくない?」
「思うことそれだけなの!?」
驚かれてしまった。真面目に言ったつもりなんだけどなー。
「もういいわ。とにかく、私は今日もヒマしてるのよ!」
「僕はヒマじゃないんだけど」
「どうせ昼寝するだけでしょ? いいから私と遊びなさい! つーか遊べ!」
びしっと僕を指差して命令口調。こんなときはワガママなお姫様だ。
僕は睡眠確保を諦めた。
ミミを怒らせたら、そっちのほうが面倒だし。
もう一度あくびをして、仕方なく訊く。
「何する気なの?」
「あんたが決めなさいよ」
「ためらいなく言い切ったね・・・!」
普通考えとくだろ、誘うほうが。
「はーやーくー、早く決めてー」
あー、ちょっぴりご機嫌ナナメになってるなぁ・・・。
まったく、本当にワガママなんだから。
そんなとこも可愛いことは認めるけどさ。
「うーん。急に言われても・・・」
僕が真面目に考え出したとき──────
その思考は、突然飛び込んできた車によって吹き飛ばされた。
「きゃあっ!?」
驚いたミミが僕の腕に抱きつき、その後すぐに身体を離した。
心なしか頬が赤くなってる気がする。
プライドの高いミミのことだから、自分の行動に恥ずかしくなったんだろう。
走りこんできた車は華麗なターンをキメて、そのまま僕らの目の前で停まった。
すぐさまミミがくってかかる。
「ビリー! あんたねぇ、急に走ってくるんじゃないわよ、びっくりするじゃない!」
僕らの友人、真っ赤なミニカーであるビリーは屈託なく笑った。
「おう、悪ぃ悪ぃ! この俺のあまりの美しさに驚いちまったか?」
「どこをどう解釈すればそうなるのよ!!」
相変わらずボケとツッコミみたいな二人だ。人じゃないけど。
前そう言ったら、ミミに殴られたからもう言わない。
それにしても。
ビリーはどうも、面倒ごとに首を突っ込みたがるからなぁ。
なんだかヤな予感がする。
サイドに描かれた炎のマークを自慢してミミに怒鳴られているビリーを見ながら、僕は平穏な日々が続くよう祈った。