I さんかくぼうしのあやつりにんぎょう
『ねぇ、あれはなぁに?』
僕の口が動き、僕のものではない言葉を紡ぎ出す。
「あれはちゅーりっぷっていうんだよ」
返事はすぐに返ってきた。
幼い男の子が一人、僕をきらきらした目で見つめている。
『ちゅーりっぷってなぁに? 食べ物?』
僕は質問を重ねる。
「ううん、たべられないよ。おはなさんなの」
『おはなさんなの? 綺麗だね』
「そうだよ。ちかくでみると、もっときれいなんだよ」
『それは素敵だね! おはなさん、好き?』
「うん!」
にっこり、という音が本当にしそうなほど、男の子は満面の笑みを浮かべた。
くぅ、と男の子のお腹が鳴った。
僕の後ろから、優しい女の人の声がする。
「そろそろご飯にする?」
「わーい!」
「じゃあ、サンにばいばーいって言おうか」
「サンばいばーい! またあとでね!」
視界がぐるりと回転する。
そのまま、僕は温かな暗がりへ落ちていった。
「お腹が減るって、どんな感じなんだろうな」
自分自身の声が出るようになったことを確認すると、僕は体を起こした。
肩を回しながら、特に目的地もなく歩き出す。
まぁ、こるような筋肉もなければ、歩みを進める足もないんだけど。
主材料綿だし、足あったら僕パペットじゃなくなるし。あれ、足付きのパペットってあるんだっけ?
え、じゃあ僕が移動するときは何て言えばいいのかな。
『歩く』じゃなくて・・・『浮遊する』?
なんかオバケみたいでやだな、それ。
そんなどうでもいいことを考えながら、僕はいつもと変わらないこの世界を見渡した。
散らかった子ども部屋なんかを「玩具箱をひっくり返したみたい」という形容をする人がいるが、まさしくここは玩具箱、そのものの中だ。
そんなに広くないこの空間には、たくさんのおもちゃ・・・・つまり僕みたいなの、がそこかしこに居る。
友だち同士でおしゃべりしている子、歌を歌っている子、ただぼんやりしている子、などなど。
四方には、黄色の星が散りばめられた水色の壁。
視線を落とすと、ところどころ汚れた藍色の床が広がる。
頭上から時々、片付けられた友だちが降ってくることがあるから、気をつけなくちゃ。
・・・・・そういえば、僕もさっき片付けられたんだっけ。誰かにぶつかってはいないみたいだけど。
ふと、自分の名前の由来である帽子が少しずれていることに気が付き、指のない手で位置を整える。
「三角帽子だから『サン』なんて、ひねりがないにも程があるよなぁ・・・」
今までに何度呟いたか分からない台詞を溜息とともに吐き出して、僕はくーっと伸びをした。
もちろん伸びる筋もないけど、こういうのは気分だと思う。
さっき、あの子は「またあとでね!」って言ったから、今日はもう一回仕事があると考えた方がよさそう。
じゃあそれまで、一眠りしようかな・・・・・・。
「あっ、サンじゃない! 帰ってきてたの?」
・・・・・・無理か。
僕は声のした方に顔を向けた。