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第三話


 二つの大小の影が交差し血飛沫が舞い地面を赤く染める。


「ーーッ」


 右手にある剣を強く握り締めアラヤは表情を苦ませる。一撃で決めるつもりだった、迫り来る男の拳を紙一重で躱し、カウンターの一撃で致命傷を与える。はずだった、


「ぐるるるるるうおおおおおおおお!!!」


 浅い、与えた傷は致命傷には値しない。袈裟斬りで与えた傷からは既に血は止まっている。


「自己強化系の感情はこれがやっかいすぎ」


 自然治癒力や自己治癒力とも呼ばれる自己の怪我や傷を治す力。自己強化系の発症者は筋肉や感覚の強化だけでなく、治癒力までもが普通の人間の常識を越える。数秒前に斬った場所は傷痕だけを残し塞がっていた。


「タイミングを見計らって重い一撃を入れな」


 そう考えたとこでアラヤの言葉が詰まる。発症者の鎮静化の方法には2通りしかない。発症者自身がそれを支配するか、他者が手を下し無理矢理に治めるか。前者が出来るのならば何も問題は生まれないのだが、発症者が暴走する感情を支配したという例はごく稀である。大抵の場合は後者で無理矢理に治めるのだが、これも簡単では無い。


「くそっ、もう崩壊がはじまったっていうのか」


 男の顔の皮膚がじわりと黒ずんでゆく。感情がリミッターを超えて暴走した時、稀に人を超える力を手にする者達が現れる。車を投げ飛ばす程の腕力、銃弾を通さない強固な皮膚、一瞬にして傷を治す治癒力、これは正に神からの祝福ともとれるが、そこには死神が潜んでいる。人間を超える力を得る代償は己の生命だ。


「ーーふぅ」


 アラヤは目を瞑り呼吸を整え、意識を深い海に落としていく。何も想像せず、何も意識せず、ただ感情を『無意識』に。


「があらあああっ!!」


 声を荒げながら男は両手の拳を合わせ跳躍する。数メートルは跳びはね、アラヤめがけ落下と同時に両拳を振り下ろす。


「ーー終わらせる」


 言葉と同時に目を開き、アラヤは後ろに跳躍。数秒も経たないうちに男の拳がアラヤが立っていた場所にコンクリートを抉る程の穴を開けるが目標を捉える事が出来なかった男が怒りに唸る。その瞬間、男の両肩に唐突に矢が刺さった。


「がぁっ!?」


 数メートル離れた場所にいるアラヤには先程握られていた剣は見えず、人並みに大きい弓が握られている。


「痛覚は無いと思っていたんだけど、少しはあるんだね。もう少し我慢ーーして!」


 言葉を言うのと同時にアラヤは男との距離を詰める。男は刺さる矢を抜くこともせず、反応するようにアラヤに突進で向かいうつが、その突進は空をきる。肉体が切れる。少年に視線を向けるもすぐに視界から消える。その度に肉体が切れる。少年の手に持つのは弓ではなくなっていた。短剣、2つの短い剣を握り、容易く強靭な筈の肉体を裂いてくる。


 ただ怒りだけが増してゆく。


「があっあがあああああああああ!!!」


 何が起こっているかが分からない。そもそもそんな感情はいらない。今はただ怒れ怒れ怒れ。


 上がらない拳を振り回し、血を撒き散らしながら暴れ回る。咆哮が轟く。誰に向けるでもない、道に建物に天に叫びが轟く。目から落ちる雫は何の為に出ているのかは分からない。ただ怒りだけが募る。誰に向けるべきなのかも忘れてしまった怒りをただひたすらに...


「ぉぉ......ぉ......」


 男の身体を大剣が貫いている。背中から刺さる大剣の剣先は巨大な身体を一直線に突き刺している。大量の血が流れ、溢れていた感情が落ち着きだす。落ち着き、そして黒く染まっていく。


「......」


 倒れた男の身体には黒い痣が残る。それをみるアラヤにはもう何も出来ない、口が開く事さえも許されない。この人の先の事を考えるとどんな言葉も間違ってる気がするから。


「...」


 わかっていた結果だ。想像していた結果だ。発症者を鎮めるにはこのレベルまでダメージを与える必要性がある事は。するべき事は成した。

 

 偽善なのは分かっている。自分が楽になりたいだけなのはわかっている。口に出したところで何かが変わる訳じゃない。ただそれでも...


「......ごめんなさい」


 アラヤはそう言葉を溢したのだった。

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