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第二話


「銃弾を弾く身体に車を持ち上げるほどの筋力か」


 数メートル先にいる目標を確認し、頭から足まで一瞥し、状態を把握に努める。


「力比べはきついね」


 歩きながらもアラヤは思考を巡らす。


「速さで掻き乱す、いや時間はかけれない」


 発症した直後の者は時間の経過と共に精神や肉体が削られていく為、早期決着が求められた。


「正面から行こう」

 

 そう心に決め、道路の真ん中を歩き進む。


 理由もなく、本能のままに近くにある車や建物を殴り、蹴り、破壊する目標は近づく人物に気がつく。どうやら聴覚の調子はすこぶる良いらしい。見えてるかも解らない白く濁る双眼がアラヤを捉え、威嚇混じりの咆哮がアラヤを襲う。


 正面突破を決めたアラヤは脚に力を入れ、突っ込む姿勢をとるが、次の瞬間、相手の剛腕な右手が横に倒れる車を持ち上げ、アラヤめがけ投げつけた。


「投げれんの!?」


 投げ飛ばされた車がアラヤをめがけ転がってくるのを横に跳躍し躱す。が、着地と同時に視線を巨大な物体が埋め尽くす。目を見開き、咄嗟に両手で顔の前を防ぐ。


「ーーーッ!」


 衝撃が全身に響き、身体全体が数メートル後ろに吹っ飛ぶ。コンクリートに投げ出され、背中を強打しながらも、直ぐに体勢を整える。


「ッ痛、ゴリラ以上のパワーだな」


 ゴリラの握力は人間の10倍異常というが、この力はそれを超える。人間では出し得ない力、人間を超えた力。化け物と呼ばれるに相応しい力。常人ならば勝てる訳もない存在、常人なら...


「でも僕も化け物なんだよ」


 アラヤはその存在に怯む事はない、その威力を身に染みようとも恐れることはしない。何故なら彼もまた人を超えた存在だから。


 心を研ぎ澄ます。


 いらぬ感情を奥に追いやる、表に出すのは無の感情。

 

 アラヤは『無』を支配する。

 

 意識をそれに集中した時、アラヤの手に輝く1つの剣が現界する。


「その状態は辛いよね、すぐ終わらせるから」


 現れた剣の柄を握り、剣先を目標に向ける。


 それに対抗するように目標も剛腕な右手を振り上げ、迎え撃とうと前へ飛び出す。数秒経たないうちにぶつかる距離、暗闇で見えなかった目標の顔が近づくにつれ見え始めた。


「......ょ」


 その呟きは誰の耳に入る事はなく、空気中に分散され消える。


 二つの大小違う影が交差し、血飛沫が舞う。







    △〇〇△〇〇△







「はい、これは始末書ね、これにもサインして、あとこれとそれとあれも」


 目の前に十分な程に積み重なる書類に更なる書類の束が積み重なる。アラヤは積み重なるタワーを視界から外し、机に突っ伏す。目の前の現状から眼を背けたい為、寝たふりという行動をとってみるが、その選択は次の瞬間に崩壊。


「ほら、起きる!」


 頭を両手で掴まれそのまま強制的にタワーを見る事になったからだ。


「い、痛いよ、姉さん」


 ぐぐぐっと力の入る両手に頭が潰されそうになりながら机を手で叩き生命の限界を示す。ギブアップ宣言を受け入れたその女性は「はぁ」とため息を吐きながら手を離す。


「自己責任よ!」


「......うぅ」


「口酸っぱく言うけど、アラヤの『無』の感情はいかに他の感情を消せるかが鍵なんだから」


「...わかってるよ」


 無愛想に返答し、そのままチラリその女性を見る。黒く艶のある髪を後ろで束ね、綺麗に整った顔を持ち、凛とはっきりとした眼。身長はアラヤより高く、椅子に腰掛けるアラヤを上から見下ろしている。




 花道蒼子(はなみちあおこ)は『憤怒』を支配する。




「そう、わかってるならいいわ。

 今日中にその書類片付けてしまいなさいよ」


 頭をポンッと軽くこつき、そのまま少し離れた自分の席に戻っていく。


「旦那は?」


 此処にいない(どうじま)の所在について聞くと、蒼子は右手で何かを握る動作をし、その手首を右に回す。


「逃げたな」


 その所作だけでどこにいったかは見当がつく、大方、書類の束を見て嫌気が差したんのだろう。想像の中で髭の顔面に拳を入れる事で苛つきを抑える。


「はぁ〜面倒臭いな」


 と、ぼやきながらもペンを握り、書類に視線を落とす。そもそもここまで書類が増えたのはアラヤ自身の責任である。雑念が混じり、上手く力が働かず、長引く戦闘になってしまった結果、街の破壊被害が拡大し、ご覧の通り始末書のタワーが出来上がった。


 数枚目の書類に目を通し、既に嫌気が差し掛かっている時に室内に電話が鳴り響く。近くにいた蒼子が受話器をとり電話応対し、アラヤはそんな光景には目もくれず書類だけに集中。暫く経った後、受話器を置いた蒼子が声をかける。


「アラヤ、クリス先生がお呼びよ」

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