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プロローグ


 人間や動物が起こる物事に対して抱く気持ちを感情という。怒り、悲しみ、焦り、喜び、様ざな感情がある。その中でも一時的で急速な感情を情動とも呼ぶ。誰もが抱く感情がここでは力に変わる。


 時は2010年...

 

 薄暗く狭い路地に三人の男の影がある。


 1人の派手な豹柄シャツを着る男が胸ぐらを掴み口を開く、それに続き黒の迷彩服を着た青年が更に口を開く。


「さっさと財布出せよ」


「おっさん、そいつ手ぇ出すの早いから、出した方が身の為だぜ」


 汚れたスーツを着用し、胸ぐらを掴まれている四十代ほどの男性が震えながら財布を取り出す。


「寄越せ!」


 乱暴に財布を取り上げられ、振り解かれた男性が尻もちをつきながら頭を壁にぶつけた。痛みが後頭部と腰に走る。その後「うぅ」と呻き声をあげ、財布の中を確認する二人組を見上げる。


 中身を確認し、顔を上げた二人の視線が男性を貫く。


「なんだこれ、少なすぎだろ」


「あり得ねぇ」


 青年の1人が財布から紙幣だけを抜き取りだす。その後にやけながらライターを取り出す。


「ゴミは焼却しないとな」


 頬を引き攣らせ、顔を青ざめる男性。


 金属が擦れる音が鳴り、蒼い炎が財布にうつる。震える口から声は出ない。立ち上がろうと足腰に力を入れるが、それを遮るように衝撃が顔面に響き、壁に頭と背中を強打した。


 呻めき声を上げ、何が起こったのかと目を瞬く。痛みを感じる鼻からは赤い血が流れ、同時に口の中が切れたのか、呑み込む唾から血の匂いがする。


「立つなや」


「ははは、いい蹴り」


「なぁ、おっさん。 絶望してるか? ならもっと面白い事教えてやろうか?」


「おっさん、娘いんだろ?」


 ニヤニヤと歪んだ表情をつくりながら2人の青年はこちらを見据える。


「ってぇ!」


「蹴りやがったな、てめぇ」


「殺してやる」


 娘の事に触れられ反射的に蹴りが入ったが、たいしたダメージにもならず、逆にとめどない殴りや蹴りが男性を襲う。


「調子乗んなよ」


「おら」


 髪を引っ張られ、顔を殴られ、腹を蹴られる。幾度かの暴力を振る舞われた後、地面に倒れる男性を見下ろし、青年が携帯をこちらに向ける。


「おいおっさん、いいこと教えてやるよ。この写真だーれだ?」


「ははは、てめぇの娘でーす」


 暗い路地に淡く光る画面には、服をひん剥かれた娘の写真が写っている。


「美味しく頂いぜ、まぁ40点ぐらいだったが」


「泣き叫ぶ声が堪らなく心地良かったぜ」


 血が熱くなる、拳に力が入る。怒りを含める眼で青年達を睨み、歯が割れそうになる程に強く重なり合う。

 溜まった怒りをぶち撒けようと、喉から言葉を放つ瞬間、視界が揺れる。


「シュート!」


「おぉ、ナイスゴール!」


 青年の蹴りが頭を捉え、衝撃が響く。


「気持ち悪い顔してんなや、ゴミ」


「なぁ、そろそろ行こうぜ」


「飲み行くか」


「いいねいいね」


 離れ行く足音を前に身体は沈黙し、ただ血だけが流れ落ちる。心の奥から情動が込み上がる。何も悪い事はしていない、普通に働き、普通に生活をしていたはず。年下の上司のくだらない叱責にも耐え、家に帰っても無視する妻に安らぎは無く、愛する娘からは嫌悪感を抱かれる、それでも耐えてきた。いつかきっと良い事があると信じ、耐えてきた。でも、もう我慢でき...ない、もう...おさえ...きれない...、何もかも...ぶち壊したい


 

 




 『怒り』が咆哮を上げる。






「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 雄叫びが響き、ボロボロだった男性が立ち上がる。決壊した怒りが力となり身体を覆う、筋肉が膨張し数倍もの大きさに変化する。呼吸は荒く、声を唸らせながら白い目が2人の男を睨む。


「な、なんだよ、これ」


「やべえ、やべぇってこれ。こんなの聞いてないぞ」


 青年達は身体を翻し、逃げようと大通りの道へ顔を向けた瞬間、巨大な掌が2つの頭を掴む。怒りと恐怖が交わり、その後、路地裏からは二つの悲鳴が轟いた。

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