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49, 破られた結界

 模擬戦トーナメントから休日を挟んだ月曜日。伊織はいつも通り朝支度を終えて登校する。特に変わったこともない朝。だが、その日はいつもより教員陣が騒がしいような気がした。


 それに校門の前にはダンジョン攻略者の姿も見受けられた。


 ゲート。それはダンジョンに入るための門を指す。日本には7カ所のゲートがあるがその場所は津々浦々だ。そのため秀恵高等学校にも時々、ダンジョン攻略者が出入りすることはあった。


「えっ、それってまじなの? 攻略者がやられたってのは……」

「ああ、攻略者ギルドから派遣されたギルド員が戻ってこないらしいぞ」


 教室に着くとこちらでも妙に浮き足立った生徒たちが何やら雑談をしていた。


(……なんなんだ、この状況は)


 自席に着いてホームルームが始まるのを待機していると、どたばたという快活的な足音を鳴らす星乃が教室に入ってくる。しかし、いつものクマみたいな髪型ではなく、一つ結びだ。


「みんな、ちょっとごめんね!! 職員会議が長引いちゃって」

「星乃先生ー! それって、モンスターの凶暴化と関係があるんですか?」

「うん、なんかね。ダンジョンの上層階のモンスターが低層階に出現し始めていて、攻略者の方々が駆り出されているの。結構被害が出てるみたいなことも話に挙がったかな。まぁ、みんなにはあまり関係ない話だから大丈夫だよ」


 ぎゅっと握った両手の拳を胸の辺りで掲げると伊織たちを宥める。イレギュラーなことに不安に思う生徒も多いと踏んでのことだ。


 しかし、油断はならないのも事実。ここ100年の間、ダンジョンのモンスターが凶悪化するなどといった話は一度もない。つまりなんらかの変則的なことがダンジョン内部でも発生していることになる。


(くそッ、面倒ごとは御免だ)


 内心でボソッと吐き出す、伊織。しかし、そこから数時間ほどは実に穏やかな時間が流れた。朝の騒ぎを除けば、いつも通りの日常。このまま何も起こらないかに思えた。


 だが今にしてみれば、これを嵐の前の静けさ——というのだろう。


 それはちょうど、お昼時に差し掛かった頃。彼方と天沢の3人で食堂へと歩いていた時のことだ。ことは起こる。


「————ッ……!?」


 伊織と天沢の二人は普段の魔素とは桁違いな流れを感じた。ビッ、ピリッと刺してくるような禍々しい魔素。全身の毛穴が凍りつき、身体がそれを嫌がっている。その魔素の元凶は真下ダンジョンゲートのある地下からだ。


「天沢」

「ああ、これはマズいかもしれないね」


 伊織と天沢はその異変に気づき図らずともコンタクトをとる。だが何が起こっているのか把握できていない彼方はその様子に疑問符を浮かべていた。


        ◇


 ちょうどその頃。


「ほう、これは結界か?」


 その生物、改め赤髪の少女は神崎と呼ばれていた攻略者から拝借、いや強奪した黒のローブを纏うと、秀恵高等学校施設を囲むように配置された結界を前に立ち止まる。その少女はここに来る途中で幾人もの屠ってきた。


 そのローブはそのうちの一人から奪ったものだ。結界は円形で抜け道はないが、そこまで強力なものではない。おそらくモンスターだけが近寄れないようにするためのものだ。


「別に壊さずとも通過できるが、まぁよい。宣戦布告として受け取れ」


 少女は撫でるように右手をその結界に這わせると、小さく嗤う。そして、全身の魔素を一箇所へ集中させて、結界へありったけの魔素を流し込む。


 その時だ、まるでガラスを銃で撃ち抜いたようにパキッ、という音とともに少女のいた地点を中心に結界が崩壊する。破壊は波のように伝わっていき、ついには結界が完全に消失した。


「————待っていろ、兄者」


 少女は呟く。そして学院へと歩き出した。

伊織:伊 星乃:初

伊「第49話を読んでいただき有り難うございました」

初「元気がないよ、不破伊織くん」

伊「今度はお前か、星乃……」

初「むっ、ちゃんと先生をつけないと怒るよ? クレアちゃんにも指南されたでしょ」

伊「模擬戦の前日のことか。くそッ、あの日のことは思い出したくもない」

初「そう? クレアちゃんはその日、上機嫌だったけどね」

伊「あのサディストが……ところで、星乃はクレアと知り合いなのか?」

初「うん、昔は攻略者として一緒に活動してたからね。懐かしいな」

伊「ということは同世代なのか?」

初「うんん、クレアちゃんの方が年上だよ。まぁこの年になるとあんまり気にならないけどね」

伊「その容姿でそんなこと言われるとへんな感じがするな」

初「まぁ確かに、私は見た目より若いって言われるけど。二十代前半くらい?」

伊(……いや、それどころか中学生くらいだろ)

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