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41, 天沢英介の初戦

「……あのね、伊織くん。これは全然、変な意味じゃないんだけど……少しだけ手を握ってもいいかな?」

「いいぞ、ほら……って、手だと!? 急に人肌でも恋しくなったのか?」

「ち、違うって。私のスキルを使いたいんだけど、ここじゃ目立つから加減するためにってこと」

「……よく分からんが、取り敢えずこれでいいのか?」


 伊織は緊張しながらも平然を装い手を差し出す。二人とも変に緊張したせいか呼吸が乱れていた。彼方はその手を取ると「ちょっと待ってね」と伝えとその場で息を整える。彼方の指はしっとりとしていて柔らかい。これから何が始まるのかと待っていると、


「なんだ!?」


 身体の内側が煮えたぎるように熱くなるのを感じた。だが決して彼方に欲情してこうなったわけではない。これも彼方のスキルのようだ。


「私のスキルは領域を生み出してその内側にいる生物の身体能力や回復力などを活性化させる能力なんだ」

「領域か……それはあれか、呪術的なやつ」

「それは違うと思うよ、私もスキルについては詳しくないけど」


 彼方は若干引き攣った笑みを浮かべる。


「ちょっといいか?」


 伊織はそこでAPN端末に記載されるステータスは魔装などの能力上昇が反映されたものであることを思い出した。

————————————————————————————————————

 不破伊織 年齢:15 男 Lv.100

 スキル『家事万能』スキルLv.506

 体力:545/550 (+50) 魔素量:100,000(+50) 疲労度:15

 職業:学生

 攻撃力:38 (+50)

 防御力:29 (+50)

 敏捷性:35 (+50)

 物理耐性:30 (+50)

 魔法耐性:36 (+50)

 特殊効果:『身体能力上昇+』『魔法威力上昇+』『 回復力上昇+』

 [現状では使用不可]

————————————————————————————————————

(……やはりな)


 伊織はAPNのウィンドウを開くと特殊効果を確認する。どうやら彼方言う通り能力自体は領域を展開してその内側にいる生物に特殊効果を付与するものらしい。それに基礎ステータスも向上するようで『+50』は極めて著しい。


 魔装と合わせたら『+150』ものステータス上昇が見込める。


「これはすごいな」

「そうなのかな?」

「ちなみに領域ってのはどの程度広げられるんだ?」

「んー、今のスキルレベルだと半径5メートルくらいかな。けど広げる領域が多いと髪の毛が白くなるんだよね。もちろん、スキルを解除したら戻るよ」


 彼方はそう補足すると根本から銀色に染まった髪を伊織に見せる。その毛並みはさらさらで太陽の光を吸収してか宝石のように輝いていた。


 その時、会場がどっと盛り上がるのを感じた。今までもかなり熱気があったがそれの比にはならない。どうやらこれから始まるようだ。『英雄』の初戦が。


「さぁやってまいりましたっ!! 第一回戦最終試合。これまでAクラスは全勝していますが、果たして彼はどうなのか? 英雄と名高い男、天沢英介くんですっ!!」


 まるで本物の英雄の凱旋であるかのように沸き上がる会場。それに飲まれずいつのも調子でステージに上がる天沢の姿はやはり堂々としている。


(……というかAクラスが無敗だと?)


 やはりAクラスと他クラスには歴然とした差があるのだろうか。


「対するはBクラスの中でもトップクラスの実力を兼ね備えた秀才、吾妻大成くんですっ!!」


 天沢に続き、如月の選手紹介により登場したのは吾妻という男。彼のがたいもそれなりだが、何より天沢相手に恐れていない。会場の興奮もこれが決勝戦と言われても勘違いしてしまうレベルだ。


 二人は握手を交わすとそれぞれ所定の位置に移動する。そして、数秒間の静寂が訪れた。これから始まる試合展開を頭の中で想像するも、それは吾妻による先制攻撃から破られる。


「始めっ!!」


 その瞬間、吾妻がスキルを発動させて炎で構成される龍を生み出す。しかし驚くべきはその規模の大きさだ。試合場の上空に生み出された炎の龍の大きさは20メートルを容易く超える。そして、その熱風は伊織たちの席まで届いていた。


「焼き尽くせっ!!」


 吾妻のそんな掛け声とともに一直線に突撃する炎の龍。その速度は伊織ですら見切るのがやっとだ。スキルが攻略者にとっての才能の大部分を占める理由はそこにある。それを躱すなど到底できたことではない。


 ————しかし、それは『伊織なら』という話だ。


 炎の龍が天沢ごと飲み込んだかに見えたその刹那————ほんの僅かに煌く光を放つと、次の瞬間にはまるで全てが嘘のようにすべてが覆る。


 ————消えたのだ。


 跡形もなく、吾妻のスキルによって現れた『炎龍』が。


 暴力的な火力を一箇所に集中させた一撃が消えた。それにも関わらず、伊織たちの方にはその熱風すら届かない。それは即ち、言葉通りそこにあった炎の龍が消失したことを意味していた。


「悪いね、俺の勝ちだ」


 そして、ステージ上では天沢が吾妻の首筋に剣を突き立てていた。天沢と吾妻の距離は少なくとも10メートルほどは離れていたはず。にも関わらずその距離を一秒も立たずに移動していた。


 それも炎龍を消すのと同時に————


 吾妻もそれを感じ取ってか両手をあげて降伏を宣言する。勝ち目がないと判断したのだろう。あまりにも一瞬のことで自体が把握できないが、つまりは天沢の勝利だ。


「……す、すごいね?」

「ああ、そうだな……」


 伊織はこの光景を眺めながら、これが『英雄』の実力なのだと知った。

伊織:伊 天沢:英

伊「第41話を読んでいただき有り難うございました」

英「なるほど、話には聞いていたけどこれが後書きなんだね」

伊「どうだ、初登場の感想は」

英「んー、正直まだ実感はないけど嬉しいかも?」

伊「……オリンピックで金メダル取ったような反応だな」

英「そういえば話題は変わるけど、伊織はこの話で呪術の話を……」

伊「ストォップっ!!!!!」

英「伊織? 急に声を荒げてどうしたの?」

伊「……天沢、あまりそこに触れるな」

英「そうなのかい?」

伊「当然だ、そもそもここは別作品だから、○杖とか○黒とか釘○とかの話題は出すだけで処罰の対象になる」

英「伊織、それはもう言ってるのと同じなのでは?」

伊「……というわけで次回は模擬戦編の最終話だ」

伊(今回も乗り切ったな)

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