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39, 不破伊織 vs 橋本文也

 お互いに防護魔法による安全装置がなされ、準備が整うと近づき向かい合う。これは規則であり試合前にはこれを行うことになっている。


「悪いが勝たせてもらうぜ、不破伊織」

「そうか」

「チッ、なんだよその上から目線な返事は」


(……上から目線だと? それはお前の方だろ)


「そういえば、昨日は第一演習場で何やら小細工をしていたな。武器を眺めて何をしてたんだ?」


 どうやら伊織が魔装の訓練を見られたようだ。


 だが魔素の流れを感じることのできなこいつには何をしていたのかは理解できない。今だってこんなに近くで魔装をしているのにまるで無警戒だ。


「べつに」

「まぁいいさ。今日はAクラスのお前を地に叩き落としてやるよ」


 どこか腑に落ちないまま伊織は所定の位置へと移動する。開始の合図は審判による号令だ。その前までにスキルの使用は可能だが、相手への攻撃は許されていない。


(……魔装は問題ないな)


 クレア曰く、橋本は身体能力を向上させるスキルらしい。そうなると先手必勝の不意を突くような一撃が最初に予想される。以前の天沢の時のような油断はできないな。


 審判が試合場の中央に立ちお互いの準備を確認すると、その手を振り下ろす。


「始めっ!!」


 その掛け声でまず動いたのは橋本————ではなく伊織だ。


『分析として、まず彼は勝負を一瞬にしてつける傾向にありますね。豪快な性格ということもあるのでしょうが、少しスキルに頼りすぎています』

『つまり、最初の一撃に用心すればいいのか?』

『んー、それは当然すべきでしょうが、明日は敢えて貴方から仕掛けるのもありかも知れませんね』

『どういうことだ?』

『意表を突くのです。貴方の能力値が低いことは相手にも知れています。ならばそれを逆手にとってペースを掴むのです。APNは起動できますか?』


 伊織はクレアの指示に従ってステータスの記されたウィンドウを開く。

————————————————————————————————————

 不破伊織 年齢:15 男 Lv.100

 スキル『家事万能』スキルLv.506

 体力:350/550 (+100) 魔素量:100,000 疲労度:43 

 職業:学生

 攻撃力:38 (+100)

 防御力:29 (+100)

 敏捷性:35 (+100)

 物理耐性:30 (+100)

 魔法耐性:36 (+100)

 特殊効果:[現状では使用不可]

————————————————————————————————————

 するとそこには以前には見られなかった『+100』という表記があった。


『これはなんだ?』

『それは基礎ステータス以外による身体能力の上昇幅です。魔装をしている状態だと身体能力が強化されるので、その分の基礎ステータスが上がったのでしょう』

『こんなにも上昇するのか……!?』

『魔装中は身体の魔素の流れを急速にするのですから、当然です。まさか気付いてなかったのですか?』

『……も、もちろん気付いてたさ』


 確かに先ほどの伊織の動きは今までになく洗練されていた。しかし、ここまでの効果が見込めるにも関わらず魔装をするものが少ないのはどういった理屈だろうか。


『なぜ? という顔をしていますね。くふふ、分かりますよ、その気持ちは。なぜ魔装をする者が少ないのかと思っているのでしょう。ですが、その理由は簡単です。————そもそも魔素量が少ない人間は魔装ができないからなのですっ!!』

『できないだと?』

『まぁ、ここまで来ればその感覚を掴んでると思いますが、魔装というものは体内の魔素の流れを武器などに送り込む技術です。魔素量が多いということは即ち、扱える魔素の量が多いということ。しかし木刀に魔装を施すだけでも必要な魔素量は250を超えます。そのため普通の武器や防具に魔装を使うのは物理的に不可能なのです。————ま、貴方は例外なんですけどね』


 クレアはそう言うと狂気じみた笑みを浮かべる。クレアのこういう側面は正直に言って苦手だ。


『兎に角です。貴方の身体能力を見誤ってる今こそ、始めの不意打ちは貴方に分があります。試合の初っ端——開始の合図とともに橋本くんに再起不能な一撃をかますのです』


 そして、現在。伊織のその奇襲作戦は見事に成功して、橋本の間合いの内側まで詰めていた。橋本もその動きに応じて伊織の対処を試みるが判断が遅い。こちらの動きに合わせるだけでは、対処が追いつくはずもない。


 伊織は脇下に構えた木刀を橋本の首元に正確に打ち込み、


「っ————」


 ————それをわずか数センチのところで止める。


「くっ……!!」


 橋本は静かに息を呑むと5mほど後ろに下がり再び剣を構える。その間は会場にも静寂が訪れて、何が起こっているのか飲み込めていない様子だった。


「おっと?! 決着かと思いましたが、これはどういうことでしょうか??」


 如月という解説の女子もその事態は把握できていない。おそらくこの場にいる誰もが伊織の意図には気付いていないだろう。一人——クレアナミュールを除いて。伊織はクレアに似た嗜虐的な笑みを浮かべると鋒を橋本に向ける。


 おそらくこの時の伊織は腹の中で高笑いしていたのだろう。クレアに散々虚仮(こけ)にされていたという事実により溜まった鬱憤。それが行き場を失いこの瞬間に溢れ出た。


(くははッ……)


 惜しんでいた。


 この一撃で終わらせてしまうことを——腹の底から伊織は惜しんだ。そして、気付いた時には伊織の木刀は止まっていた。それは伊織のもっと長く戦っていたいという闘争本能から湧き出る欲望だ。


「クソッ……!!」


 スキルによって身体能力を向上させたのか、一瞬にして距離を詰める橋本。上段で構えた剣を伊織に向かって振り下ろす。しかし、その速度などクレアに比べれば赤子のようなものだった。


 伊織はそれを素早く躱すとクレアの言葉を思い出す。


『最強の攻略者とはモンスターを相手にしながら、ダンスが踊れるものです』


 その言葉の通りクレアの伊織との戦い方はまるで舞のようであった。伊織の攻撃に合わせてそれを軽やかなステップで躱しては反撃する。その繰り返しは、まさにステージ上で客を魅了して踊る舞台役者であった。


「どうしてッ!!」


 橋本は大きく剣を振りかぶるが、それは力任せに剣を振るだけに過ぎない。伊織はそれを幾度となく見切るとそれに合わせてステップを踏む。前日に嫌というほど見せられた手本の通りに。幾度も。幾度も。幾度も。それを繰り返す。


「やはり彼を入学させて正解でしたね」


 クレアは今まさに試合場で繰り広げられている光景を眺めながらそう呟く。その顔には狂気的な笑みが浮かばれており、その声は妙に艶かしい。


 この試合を観戦する誰もがその一方的な試合展開に思わず固唾を飲む。


 そして試合が始まって3分が経過した時——その劇場は幕を閉じる。


 伊織の魔装の限界時間が来たのである。伊織はただ無心で剣を振るだけの橋本の隙だらけな一撃を受け止めると、魔装の篭った木刀で相手の剣を真っ二つに砕く。それは昨日、クレアにやられたことの再現であった。


 剣を失った橋本がこれ以上、戦うことを選ぶはずもない。膝から崩れ落ちる橋本を横目に伊織は魔装を解除する。


 この日———この初戦、不破伊織は圧倒的な実力差を証明して勝利した。

伊織:伊 クレア:ク

伊「第39話を読んでいただき有り難うございます」

ク「んー、やっぱり可愛くないですね、その言い方」

伊「お前もかっ!! というか、今回はクレアなんだな」

ク「クレア理事長です。ちゃんと敬ってください」

伊「はっ、知るかそんなの」

ク「いけずですね。ちなみに後書きに登場できるのは本編に登場した人だけなのです」

伊「そんなルールがあったのか?」

ク「今、私が作りました」

伊「おいおい。だがそのルールでいけば、橋本がここにいても良かったってことか?」

ク「不破伊織。橋本くんを本編であんなにボコしておいて、ここでも虐めようとしてるの?」

伊「僕はお前と違ってサディストじゃねぇ」

ク「酷いですっ!! そんなことを言うなんて……」

伊「というわけで、次回は天沢の初戦だ」

ク「あっ、勝手に締めに入らないでくださいよ」

伊(……知ったことか)

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