2, 父よ、実に愚かだな
「そうか、商談はうまくいったようだな———
———ああ、株価の上昇か。それは、悪くない兆候だな」
それから十年の歳月が経過した。あの日以来、僕はあの男からある意味で解放された。外の世界での生活、それが許されたのだ。
『次のニュースです。先日ダンジョンの最深部で発見された魔石には熱を加えると電離を起こす性質があり、各国政府や半導体業界からは期待の声が———』
ダンジョン。百年ほど前から姿を現したそれは各国で特別指定区域とされている。その実態は未だ謎が多いがそこで得られる未知の原石に注目が集まった。そして、ダンジョンが現れる時期とほぼ同時に人類にも変化が訪れた。
それが『スキル』だ。有名な国立研究所の発表によるとそれは年齢にして五歳のころに発現し、その人物に非凡な才能を与えるとされた。しかし、その追加文句として語られるのは、
————ただしスキルの使用は『ダンジョン内部』に限る、だ。
伊織は右手を前に突き出して、軽く力を入れて念じる。すると目の前には本人の諸情報が書かれたステータスボードが出現する。そこにはその人の名前から年齢、そしてスキルにダンジョン内での能力値が書かれている。
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不破伊織 年齢:15 男 Lv.98
スキル『家事有能』スキルLv.398
職業:ニート
攻撃力:34
防御力:25
敏捷性:30
物理耐性:23
魔法耐性:31
特殊効果:『株式投資』『簡易調理』
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そこに映し出されるのは極めて平凡なステータス。そして、卓越したスキルレベルの熟練度である。
「くっ……」
伊織はそのステータスボードと地上150メートルからの優美な景色とを交互に眺めながら、ワインの色をした葡萄ジュースのグラスを天に掲げる。乾杯。そして、それを軽く口に含むと大理石のテーブルへと運ばせる。
「……っぷ、ハハハハッ!!!!」
思わず笑いが溢れてしまった。だが、それも仕方のないことであった。数年前から投資していた企業の株価が大幅に上昇した知らせが入ったのだから。
「ああ、父よ。実に愚かだな。この僕の能力を見誤り施設から追放するとは」
十年前の今日、不破伊織は確かにダンジョン攻略者養成施設と呼ばれる優れたスキル持ちを育成する施設を追い出された。実際、あの時は伊織自身も死んだかに思えた。しかし、神は伊織を見放してはいなかった。
第二話を読んでいただきありがとうございます。
一話はかなり短い構成になっていますが、
そっちの方が投稿するというモチベが上がるので……。
それではまた次回、