20, 英雄とダンジョン出身
不破伊織が部屋を出てすぐのこと。辺りに彼の気配がないことを察知すると、クレアは囁くように口を開く。
「どうです? 私の言った通りでしょう?」
すると先刻まで何もなかった天井から『隠匿』のスキルを解いたスーツ姿の女が現れる。
これは公にしてはいないことだが、理事長室自体がダンジョンの中に移設されていた。その目的はもしもの時にすぐに相手を拘束するため、つまり不届き者の制圧だ。当然スキルの使用も可能である。
「理事長、彼らが私の担任する生徒二人なのですねー」
そこにいたのはAクラスの担任である星乃初だ。
そして、生徒二人とはスキル『英雄』を持つ天沢英介とスキル『家事万能』を持つ不破伊織のことを指している。
不破伊織の方は星乃の存在に気づきもしなかったが、天沢英介の方は『隠匿』を使用してもバレていたようだ。流石は『英雄』というべき実力。
「そうなりますね。けどこれは初ちゃんだから頼めることなんですよ。二人のこと、しっかりと指南してあげてくださいね」
「はい……ただ、流石に荷が重いですよぉ」
「まぁ、気持ちは分かります。だって、一人は世界を救うために生まれてきた『英雄』持ち。片やもう一人はダンジョン出身の謎に包まれた子なんですから」
叡智の書。それは視界に捉えた相手のステータスを詳細に盗み見る道具だ。ただ、見れる情報はその者も知らない潜在能力なども含まれる。入学試験の時にはこれで志願者の能力を判定するために用いられていた。
当然、伊織がこの学校に単独で乗り込んできたときもクレアはそれを使用した。そして、そのステータスの『異様さ』ともう一つあることに気づく。
『不破伊織 年齢:15 男 Lv.100 出生地:ダンジョン50階層』
伊織に初めてあった時はクレアの顔は笑っていた。




