1, 権力者こそが正義である
なんか、ミスってて本文の内容が別の話と被ってたみたいなので
修正しました。読んでしまった方には申し訳ないです。
父の教えにこんな言葉がある。
————世の中、力を持つものこそが支配する。
伊織はこれを這い這いからつかまり立ちに切り替わる時期とほぼ同時に知った。もちろんその意味を理解するのは先のことだが、言葉自体はそれほど昔から言い聞かされていた。
ただ今の世の中で力とはただ単に『金』の量的有無を意味するものではない。金や生まれが意味を成したのは、ほんの50年ほど前までの話。
では、この世界で最も重宝される能力は何か。
「————伊織、お前には失望したぞ」
今からちょうど10年前、年齢にして五歳の頃。施設の内部を貫く無機質な廊下で父親が冷たく言い放ったのを今でも忘れてはいない。
「……ごめんなさい」
人生で誰かに対して謝った事はそれが初めてだった。それまでは自分という存在は特別だと考えていて、誰を傷つけようと許されてきた。しかし、施設の判定は絶対だ。父の権力がどれほど大きくても、それが覆る事はない。つまり、
そこで『才能なし』の烙印が押された伊織は失望されて当然だった。
————スキル『家事有能』
この世界では五歳になると、誰もがスキルを手に入れることができる。そしてその資質により人間の資質が測られていた。そして、伊織に与えら得た能力こそが『家事有能』という聞いたこともない雑魚スキルだった。
「謝ることに何の意味がある。それをすることで、結果が変わるのか?」
「いえ、そんな事はありません」
「ならそれは何だ?」
土下座。今の伊織にできる事はそれしかなかった。捨てられないためにできる事は。おそらくこの機会を逃したら、二度と父には会えなくなる。伊織にはその確信があった。
「誠意です」
「そういうことを聞いているのではない」
「…………僕は捨てられるのですか?」
「捨てるわけではない。ただこれからは一人で生きてもらうことになる」
ダンジョン攻略者養成施設。その創設者である父——不破鷹山の実の息子。今まではそれだけで重宝されてきた。だが、それも今日で終わる。同世代の中で最弱のスキルを得た伊織の序列は一気に暴落するはずだ。
「……どうか、もう一度機会をください」
伊織は理解していた。いくら懇願したところで、この男が意見を変える事はないと。しかし、これが伊織にできるせめてもの足掻きだった。
「上に立つ人間はそれ相応の能力が必要だ。そしてお前にはその鱗片すら無かった。ただ、それだけのことだ」
十年前の三月二十日。その日、不破伊織は父親に捨てられた。
執筆の息抜きに描いた作品です。
『反響が良かったら、続きを投稿する』そんなスタンスですかね。
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それでは、また次回。