9, アップグレードと『家事万能』
伊織の答え——それは当然、『Yes』の一択だ。
『家事有能』からどう変化するかは分からないが、少なくともスキルの効果が減退することはない。やって損はないはずだ。
「スキルのアップグレードを行ってくれ」
『承認されました。
これよりスキルのアップグレードを行います』
『————完了しました。
スキル『家事有能』から派生系『家事万能』へとアップグレードされました』
「……なるほどな」
正直なところ『え、これだけ?』感は否めないが、使えないスキルにならなかっただけまだマシだ。それに過去の経験もあり伊織自身、スキルに頼ることはあっても、期待することはあまりしたくなかった。
「とりあえず、新しいスキルの性能でも確認してみるか」
伊織は軽く指を前にかざしてステータスボードを表示させる。
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不破伊織 年齢:15 男 Lv.100
スキル『家事万能』スキルLv.506
職業:???
攻撃力:34
防御力:25
敏捷性:30
物理耐性:23
魔法耐性:31
特殊効果:[現状では使用不可]
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能力値などに変化はないが、職業の枠と特殊効果の枠が変化しているのが気がかりだ。特に使用不可というのが気になるところだ。ダンジョン内でしか使用できないということも考えられる。
戸惑いつつも、特殊効果の枠を人差し指で軽くタップする。
『スキル『家事万能』を使用するためには条件が不足しています。』
やはり『家事万能』を使用するためには条件を満たす必要があるようだ。その点で言えば、グレードアップ前の方が使い勝手はよいだろう。
(ところで、その条件ってのはどこにあるんだ……?)
伊織のその疑問に答えるように新たなウィンドウが現れる。
『このスキルは『執事』として任意の相手に仕えることで発動します。』
「…………は?」
『任意の相手『主人』を選別してください。』
その予想外の取説に伊織の頭は困惑する。そして、事態を把握した時にはすでに遅かった。
「はあああぁぁぁっっっ!?!?!?!?!?!」
新しく手に入れたスキル——家事万能。しかしそれは、誰かに隷属する事でしか発動できないぽんこつスキルであった。




