背中の自慢の子 2話
最初はちょっとした事だった。
小学生の頃見た大きな打ち上げ花火がとても綺麗で、中でも赤い柳型の花火が好きだった。
お花の名前が付いてたはず…なんだっけ。
あの綺麗な赤が見たいだけだった。
色々、再現を試みた。花火はもちろん全部試した。
絵の具でも書いて見た。使える画材は全部使った。
パソコンも使った。CGも使った。
その分お金も使った。
何年も何年も探し続けた、あの赤はどこにも見当たらなかった。
高校を卒業する頃、車に轢かれた猫を見つけた。
道路に飛び散る内臓はあの日見たあの色にソックリだった。
何をどうすればあの色が出るのか、分かってしまった。それからの行動は早かった。
町中の猫を掻き集めた。
ハンマーでスパッタリング。
鉄板で挟んでデカルコマニー。
肉を捌いてコラージュ。
どれもとても綺麗だった。でもあの大きさには足りなかった。もっと大きく。もっともっと。
恋する女の子のような瞬間だった。
うっとりとした赤い顔で、ボーッと外を眺める。
クラスでは体育の授業中でみんなバスケに夢中だ。
女子の顔にボールが当たってしまったようで、数名の子が駆けつける。大袈裟だなぁ。でもなかなかの出血だ。歯が折れてしまったらしい。
その彼女の口から流れる赤い雫に、私は衝動を抑えられなかった。
「私が保健室連れて行くよ。見学してるだけだし」
早口で告げて、肩を担いで保健室へ向かう。
涙と汗に混じって流れる赤い液体。
少し粘り気があって普通の水滴より滴るのに時間がかかる。
「あら…女の子なのに可哀想に。歯と…鼻の骨が折れちゃってるかも…救急車呼ぶわ。これで冷やして、上を向いていて。」
白衣の先生は足早に保健室を後にした。
この空間に二人。
綺麗な、この子と。ふたりきり。
ゾクゾクしちゃう。なんなの?この気持ち。
まるで、あの…。
手をどけて、今すぐにその色をここにぶちまけて。そして、それを、浴びて…。
「濱島さん!!!!!大丈夫?!?!?!本当にごめんさい!!!!あたし!!!」
鼓膜が破れるくらいの大きな声で保健室に飛び込んできた女子。ボールをぶつけた張本人。
「話は後にしてあげて、もうすぐ救急車が来るわ。」
続いて保健室の先生。
あぁ、皆お願い邪魔をしないで。
流さないで。取り上げないで。
お願い。私に頂戴。
ただ一人、静かになった保健室で立ち尽くす私を皆置いていった。
あの日。決定的に自分の中で何かが変わったあの日。
人であれば、できてしまう事を知ってしまった。