テーマ 『喧嘩』
見えないもの、とかでもよかった。
「あっちに行って!」
そう女の子が叫ぶ。
しかし、相手は一歩も引かないのだろうか。女の子はまた叫んだ。
「いいからあっちに行ってよ! 一人になりたいの……」
女の子は近くの壁にもたれて座り込む。
「一人になりたいの」
改めてそう強調するように言い、顔を伏せた。
その言葉は周りに集まった野次馬たちではなく、相手に向けられている。
おかしい。
野次馬たちは思った。
先ほどからその相手の声が聞こえないのだ。
何も障害がないこの通り。姿すら見えない。
一体、誰と話しているのだろうか。
女の子は、何もないはずの空間に目を向ける。
手を伸ばし、何かをつかむ。
そして、それに引っ張られるように立ち上がった。
「仲直り? ……分かったわよ」
涙を流して、その透明な空間に寄り添うように立つ。
「幽霊さん」
背筋が冷たくなった。
この少女は、幽霊と話しているのか?
それなら姿が見えないのも納得できる。
いや、しかし。幽霊なんてものがこの世にいるのか?
野次馬たちは、固唾をのんで見守る。
もし本当なら、この女の子は。
いや、この女は――。
「――連続殺人事件の犯人の特徴は『幽霊が見えること』」
野次馬のつぶやきに、女の子はこちらに気が付いた。
そして、口の端をつり上げて笑う。
「次の獲物が集まったわよ。行きなさい。『幽霊』さん――」
辺りに血が飛び散った。
眠気が襲ってくるんじゃあ……。