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五話 瓜二つ

 

 フツフツと、こみ上げてくるモヤモヤを抱え、俺は途方もなく街を歩いていた。

 そんな中でも時折、奴隷のように虐げられる魔族達が目に留まる。

 しかし何の違和も無いまま、人々は気にした様子もなく通り過ぎていた。


「イディア。世の中は大きく変わっちまったよ。平和って奴を信じて戦った結果がこれじゃ、魔王を御してまで死んだお前は浮かばれねえよな……」


 魔王城に近づいていく度、言葉を話す魔族や、生活や文明を持った魔族達の集落にも辿り着いた事がある。中には仲良くなった魔族だって旅路の途中には居た。

 

 決して、多くの血を望まなかったイディアに、俺を含めたガイヤやリベルも賛同して、非戦闘員との戦闘は極力避けてきたし、何より手を出さないってのが、俺達仲間の掟にもなっていた。


「ほら! 動け!」

「ビイイイィィイイ!」


 魔族に鞭を打つ人間が目に留まり、唾棄する。

 ……すっかりクソみてえな世の中になっちまった。


「何が平和だ」


 非戦闘員の魔族達も、多くは早くこの戦争が終わってほしいと切に願っていた。

 

 戦争なんて何一ついい事がねえ。腹が減るだけだ。

 こんなんじゃ、怨恨が無くなる訳がねえ。

 

そんな胸糞悪さを抱えながら、歩いていると……。

「おおおおぉっと!?」

「なっ……!?」


 随分と縮んでしまった俺の背丈と、同じくらいの少女が勢いよく正面から衝突。

  

 半ば押し倒されるように倒れ、俺のヨボヨボになった腹の上に座りながら、銀髪の少女が痛そうに長い髪を揺らし、後頭部を押さえていた。


「いったぁ……」


 痛そうに顔をしかめる少女……。俺は体を打ち付けた痛みや、急にぶつかってきた驚きよりも、その少女の様相に目を奪われて言葉を失っていた。


「い、イディア……?」

 ポツリと、すっかりしゃがれた小さな声が、喉を通る。


 そしてその少女は半目を開き、イディアと同じ淡い青色の眼を尻にひいた俺へ向けた。


「あー! ごめんおじいちゃん! エメ急いでてさ!」


 エ、エメ……? 他人の空似だろうか。しかし、その少女は五十年前のあの日から、そのままイディアを切り取った様に瓜二つだった。


「おい! こっちに逃げたぞ!」

「やべっ!」


 曲がり角の向こう、微かだが複数の鉄鎧が擦れる音と怒声が聞こえると同時、エメと名乗った少女は急いで身体を起こし、ついでに俺を軽々と引っ張り上げる。


「おじいちゃん、じゃあね!」


 そのまま急ぐように真っ直ぐと走り出すエメに、俺は咄嗟に声が出た。


「お、おい! こっちだ」


 ――――。

 この街の道と言う道はよく知っている。俺だって伊達に王都をホッツキ歩いた訳じゃない。だから、裏道や逃げ隠れ出来る場所も、熟知していると言う事だ。


 ゴロツキ共を懲らしめていた駆け出しの頃に感謝しなけりゃな。


「くそ、何処に行った!」


 建造物に囲まれた薄暗い裏路地に息を殺し、通り過ぎる兵隊達を見送ると、直ぐにそれを見かねたエメは仰々しく息を吐き、俺の手を取った。


「おじいちゃんありがとう! エメちょー助かった!」


 い、イディア……。

 話し言葉と声や表情、服装は違えど、彼女とそっくりのエメに手を取られ、思わず胸の鼓動が早くなる。動機じゃない事は確かだ。


「それで……何てったって追われてたんだ? 見たところ盗賊って感じだが」


 一見で解る動き安く機能的な服装。生意気に括れた腹を出す肌露出の多い衣服は、多少違えど五十年前の盗賊とあまり変わりのない物だった。


 本来ならば盗賊は許さねえ。だが、仁義の上で盗みを働く義賊は別だ。

 弱い者は助けると言う、自分の中の勝手な掟である。


「……おじいちゃんはさ、正義の味方? それとも悪の味方?」


 質問に質問で返すエメの問いに対して、腐っちまった世の中を見た俺は言葉に詰まってしまう。


 五十年前ならば、二つ返事で正義の味方と即答しただろう。


 しかし、俺の中の正義は揺れ動いていた。

 魔王を倒し、怯える人々を救うと言う信条の元、正義を貫き通してきたが……このざまだ。


 残ったのは、悔いとヨボヨボの肉体だけ。そして、虐げられる弱い者達。

 

 何が正義か、俺には解らなくなっていた。


「こっちを探すぞ、さっき年寄りのジジイと一緒に裏路地へ入って行くのを見たそうだ」


 そんな事を考え、答えを出すのに迷っているのも束の間、追手の声が響いて来る。


「っげ……! おじいちゃんも見つかったらヤバいじゃん! ついてきて!」

「お、おい……」


 俺はエメに手を引かれるまま入り組んだ裏路地を歩く。

 その時俺は、初めてイディアと会ったあの頃を思い出していた。


 ◇



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