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終焉世界の色白美少女

作者: 陰宗

月明かりに照らされて、今日も君は動き出す。棺桶をゴリリと押して、月光を全身に浴びる。「んー」と麗奈は伸びをした。これは、ずっと昔からの麗奈の癖だ。


「おはよう。ターくん」


「うん。おはよう」


やっぱり綺麗だ。俺が言うのもなんだけど。真っ白な肌に、ウェーブがかかったショートの黒髪。左側にはお団子が一つ。俺がプレゼントした桜の髪飾りもトッピングされている。少し太い眉毛を隠すように前髪が左右に分かれ、ブラウンの大きな瞳がキラリと輝く。そういえば、眉毛が太いのがコンプレックスって昔言っていたっけ。俺が微笑むと麗奈もニコリと微笑み返す。口から尖った犬歯が顔を出す。


「今日は何をしようか?」


「そうだな。じゃあ、久々にお風呂でも入る?」


「・・・」


麗奈は黙り込んでしまった。当たり前だ。だって麗奈はお風呂が苦手だから。というか、水が苦手だから。流水に入ると身体がおかしくなるからだ。もちろん、俺はそれを知っている。知っている上で言った。麗奈の困り顔が、ベリーキュートだから。もう、めちゃくちゃ可愛い。それこそ、人ではないみたいに。


「わかってるよ。それじゃ、お散歩しよっか」


「うん。でも、お日様が登る前には帰るよ」


「ふふふ。わかってるよ。帰れなくなっちゃうもんな」


家の外を歩き出す。雲はゆっくりと流れていく。星はあまり見えない。夜風がとても気持ちいい。


「ついたよ」


俺のお気に入りの場所。よく麗奈とピクニックに行った場所。大きな桜の木が立っている。その葉は青々としていて、生命感に満ち溢れている。麗奈と比べると、その色の違いがよく映える。


「また来たよ」


「・・・」


桜の木を撫でる。少しデコボコしていて、ゴツゴツしている。樹皮が肌を擦り、柔らかい痛みを感じさせる。


「懐かしいな。麗奈。昔よくここに来たよな」


そうだ。ここにはたくさんの思い出が詰まっている。喧嘩をしたのもこの桜の木の下だったし、何回もこの桜の木の下で仲直りした。告白をしたのもこの桜の木の下だった。子供が出来たら、一番最初にここに行こうねって話していたっけ。まあ、出来なくなっちゃったけど。


「ターくん」


麗奈が口を開ける。歯がキラリと光る。


「わかった」


俺は、地面に胡座をかいた。土は柔らかい。目をつむって、首を麗奈に差し出す。


カプリ。ゴクゴク。チュー。


血が吸われていくのがわかる。二秒ほどで吸血は終わった。もう慣れたものだ。


「ありがとう」


麗奈がポンポンと俺の頭を撫でる。ひとしきり撫でられた後、俺は立ち上がり歩き出す。


「どうせなら、お参り行くか」


「うん。そうしようか」


麗奈は静かについてくる。桜の木を越えて少し行くと神社がある。だいたい百メートルくらいだからよく麗奈と、かけっこをして競争してたっけ。


だいぶ荒れ果てている。もう何年も掃除されていないだろう。忘れ物となってしまった神様に形式だけのお願い事をして、桜の木の下に戻る。


「違う場所行こっか」


「うん。そうしようか」


再び俺たちは歩き出す。ゆっくりと歩いていく。周りには一切人影がない。月明かりと星だけが俺たちを照らしている。まあ、曇っているからほとんど真っ暗なんだけど。


ついた。人類の存在の証明、自然の力の証明されている場所。たくさんのビルが立ち並んでいる。そして、たくさんの建物が倒れている。いや、食われている。植物によって。全身に伸びたツタが、建物すべてを食らいつくさんと縦横無尽にのびている。


そのうちの一ヶ所。比較的倒壊していない建物に入っていく。


「金属類と食べ物を回収しよう」


「うん。そうしようか」


食べ物はなかった。まあ、ビルなんかにはあるはずないってことはわかっていたし、期待はしていない。だけど、金属類はたくさんあった。これだけあれば、一カ月はもつだろう。


「麗奈。これを持ってくれ」


「うん」


全部で八十Kgくらいの大小様々な金属片。重すぎて俺にはとてもじゃないが持ち運べない。それを麗奈は軽々と持ち上げて運んでいく。すごいパワーだ。俺がいうのもなんだけど。


「ありがとな」


「・・・」


麗奈が歩くたび、ガシャガシャという金属が擦れる音が耳に入る。突然、音が止まる。


「どうした?」


「何かいるよ」


「・・・!わかった。行こうか」


「うん。そうしようか」


麗奈の先導に従い歩いていく。速度が少しもどかしい。もっと早く行きたい。走りたい。はやる気持ちを抑え込む。


「ここら辺にいると思う」


「わかった。探すのを手伝ってくれ」


「うん」


見つけた。人間だったものを。カラカラに干からびたボロ雑巾みたいな人間。まるで、吸血鬼に全身の血を吸われてしまったかのようだ。


「すまない。助けられなくて。俺がもう少し早く薬を開発できていれば・・・」


手を合わせる。火をつけて焼却してやる。煙を背に歩き出していく。


「麗奈、帰ろうか。」


「うん。そうしようか」


ガシャガシャと歩いていく。静寂が響く夜を、俺たちの足音で塗りつぶしていく。


また、桜の木の場所に出る。特に用はないけれど、なんとなく寂しくなったから行ってみる。


「麗奈。麗奈」


さすりさすりと桜の木を撫でる。柔らかい痛み。


「どうしたの?ターくん」


「俺、やったよ。麗奈の目標だった医療用ロボットを作り上げた。流行ってたウイルスのワクチンも開発した。どうだ。すげえだろ。」


「すごいよ!ターくんはすごい!」


「なあ、麗奈」


「どうしたの?ターくん」


「なんで、死んじまったんだ?」


桜の木に手を当てる。もちろん返事は返ってこない。だって、麗奈はこの木の下にいるのだから。


忘れもしない。4年前のあの日。麗奈は、死んだ。吸血鬼に吸われたようにカラカラに干からびて麗奈は死んだ。麗奈だけじゃない。世界中の人間が死んだ。人間だけじゃなく、動物もたくさん死んだ。俺は死ねなかった。


麗奈が死んで、俺は心にぽっかりと穴が開いてしまった。何もやる気が起きなかった。きっと俺も、このままウイルスに殺されるんだと思っていた。だけど、死ねなかった。特に意味もなく、俺は麗奈が残していた医療用ロボットを弄っていた。外形は麗奈が作っていたから、あとはシステムだけだった。こう言われたらこう返す、という簡単なプログラムと、口に付随された注射器を扱うプログラムを書いた。名前は、麗奈にした。麗奈を作って色々整理できたのか、なんとなく俺はやる気が出てきた。特にやることもなかったので、俺は俺が死なない原因を探ることにした。


ウイルスに感染したものは脱水症状に陥って、急速に死へと誘われる。感染したものは大抵、わずか3日で天国へと召されることになる。しかも、患者の体液に触れたらほぼ百パーセント感染。患者の体液から湧いたボウフラや、患者の血を吸った蚊がそこら中を飛び回る。まさに地獄絵図。さらに、全世界平等に発生したもんだからたまったものじゃない。ノアの箱舟伝説の洪水の方がまだ有情ってものだ。


だけど、そんな地獄そのものに俺は打ち勝った。否、打ち勝ってしまった。ということは、俺の体にはそのウイルスに対抗する『何か』があるはずだ。俺は生物学者としての知識をフル動員し、『何か』を探した。『何か』はすぐにわかった。赤血球だ。幸運なことに俺はO型で、誰にでも輸血ができる。だが、その時には遅すぎた。人類のほとんどが死滅し、干からびていた。結局、俺がしたことに意味はなかったのだ。


「麗奈。また来るよ」


さわさわと桜の葉が揺れる。残っていたのであろう、桜の花がひらひらと舞い落ちる。手で掴もうとして掴み損ね、花びらは地面に落ちた。


ゆっくりと俺たちは歩き出した。家に向かって。


ガシャガシャ。ガシャガシャ。


家に着くのにそう長い時間はかからなかった。月は下り、太陽が今か今かとアップを始める。


麗奈を棺桶という名の充電器の中に入れる。太陽光で充電できる優れものだ。幅を取るのと、一日かけて充電が四時間程度の稼働分までしかできないのがたまに傷だが。


「おやすみ麗奈」


「おやすみ。ターくん」


麗奈は眠りにつく。俺と麗奈の思い出の象徴、桜の髪飾りをつけて。


日の明かりに照らされて、今日も俺は眠りにつく。気がつけば、俺の肌も白くなっていた。まるで吸血鬼みたいだ。「あー」と一つあくびをする。昔からの俺の癖だ。


俺は暖かい日光に抱かれ、ゆっくりと眠りについた。

フハハハハ。「ホモ、拾いました。」が書けねぇ。書けなさすぎて頭がおかしくなりそうだ。待ってる人ごめんね。ちゃんと書くから。絶対。


これを読んで興味を持った人、是非他の作品も読んで。俺の世界観を、普段考えていることを、君と分かち合おう。

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