Ep;1 佐々宗樹という男
ここは高架下。
特売のカップ麺を品なく啜るの男…名前は佐々宗樹という。
ボロボロで汚い服が彼の生活を物語る。
「あー腹一杯くいてぇな…」
佐々宗樹はホームレスである。
彼の日課は食いつなぐためにやっている空き缶収集である。
しかし、薄利。
特売のカップ麺に数日に一度ありつけるかとどうかという厳しいものであった。
この日の食事も3日ぶりである。
満たされるはずのない空腹を抱えながら、空になった器と割り箸を放り出した。
薄いダンボールを布団にして冷たい地面に寝そべる。
「あーどうしてこーなっちまったかなぁー風呂入りてーなー…」
痒いからだをポリポリとかき、ため息をつく宗樹の頭にはこの生活になる前の、温かな布団に包まれた頃が浮かんでいた。
幼くして両親をなくし、祖父母に育てられた宗樹は寂しさと周囲の冷たさの中に育った。
小学生の頃から両親がいないことを哀れに思われ、共有できない気持ちを抱える宗樹とはクラスメイトの皆が距離を置いた。
いつしか距離は離れ、存在を消し去るが如く、誰も声をかけることはなくなった。
それから程なくして、存在を消されたはずの彼が認識されることとなる。
体育の授業の着替えの際に彼の胸部にあるコブが見つかってしまったのである。
その日から宗樹は可哀想な子から気持ち悪い子に変わった。
存在を消されるほどに遠い場所にいる宗樹に歩み寄るものなど誰一人としていなかった。
それでも耐えられたのは祖父母の存在があったからである。
しかし、大好きだったその祖父母も老衰で他界した。
気付けば、宗樹には帰る家も心の居場所もどこにも無くなっていた。
雀の鳴き声。
冷え切った空気に暖かな光が一筋、朝が来た。
むくむくと起きて生き延びるための空き缶拾いに彼は向かう。