1 - 22 果てしなき道
旅立つ支度をととのえるといっても、ルカにははじめから私物はほとんどない。傭兵のほとんどはそんなもので、特に彼らの隊は輜重隊も引き連れていないだけ、すっきりしていた。
天幕をたたみ、荷を背負う。踏みしだかれた草原のみがそこに残り、ゲバルのふもとは元の落ち着きを取りもどしかけていた。
それぞれにもと生きていた場所にもどっていく傭兵たちのなかにも、例外はいた。ルカはその典型例だった。
ノンは町の学院にもどるそうだ。冬季休業中に来年のぶんの学費を稼ぎに来ていたのだから、腕はどうあれ、度胸の据わったことだといまになって、ルカは思う。ノンには矢をつがえるよりも筆を持つほうが似合うことはあきらかだ。
クアも帰るのだという。母親のようにかいがいしく陰から世話を焼いていた年長の彼には、特に礼をいった。命の恩人でもあることだし、店の名も密かにきいておいた。あとで一度は訪ねてみようとルカは考えている。調理場での名言を生みだした父君にもお会いしてみたい。
他の少年らも農民や町民の出がほとんどで、今回の報酬を胸に家にむかうといっていた。隊長のダビドゥムは西に足をのばすと宣言している。
そして、ナギとルカ自身は一度王都にもどることにした。王都になんとか入って、よろず屋の事務所か住まいを構えて、依頼主のない第一の仕事をこなそうと考えている。
シィネとイサクの形見を家族に届けるつもりだった。
どこかで好き勝手に暮らしていると思っていたほうが家族にとってはいいのかもしれない。自己満足かもしれないと、はじめは思った。だけれども、クアからシィネの小刀の由来をきいて、なんとしてもシィネの母君にだけは会いに行こうと決めた。
シィネの筒型の小刀は、彼の母親が髪を売って購ったものなのだそうだ。シラの女性が髪を切るのはただごとではない。それほどかわいがった息子ならば、ゆくえを知らせたいと思うのが人情だろう。
ルカは小さく掛け声をかけて荷を背負った。途中まではみな、この街道を歩いていくだろうが、やがておのおのの道を選びとって別れていく。
それでいい。いつまでも、ともに道を行くことができるわけではない。だが、またいつか会うときには、ふたたび彼らに背をあずけたい。
そう思って、別れるときには戦場に行くときと変わらぬことばで見送った。
「じゃあ、またあとで」
後悔はない。ルカは泣かない。相手も涙は見せない。笑って手を振って、二度はふりかえらずに歩き去っていく。
ひとりまたひとりと減っていく仲間を見送るうちに、ナギと距離が空いた。彼が気づいて、先で待っていてくれる。
「ルカ!」
呼ばれて、距離を小走りにつめながら、それでいいと、ルカは重ねて思った。
この道を行くと決めた。だから、まっすぐに行こう。ふりかえることは、もうしない。
『この血に響け、祝ぎ歌よ』了