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小さなころから、リシェルの夢は侍女だった。できたら、お姫様の。
甘い香りの、儚げな美貌のお姫様のそばに傅く自分を夢見て、ずっと努力していた。
言葉づかいも、立ち居振る舞いもマナーも、それにふさわしい自分になる為厳しい祖母の教えを乞うたというのに――
なぜ、今自分はここにいるのか…
「はい、登録完了♪明日から早朝訓練があるから、今日は早めに休んでね。見習い騎士様?」
目の前の官吏が、ペラリと一枚の紙を彼女の前に差し出した。
そこには、さすがは王都勤務の官吏だけあって流麗な字で、このように記されていた。
『ここに、リシェル・アイルザードを王国第六騎士隊見習い騎士として、登録するものである』
「あ、仮登録だから、きちんと契約書類と、部隊規律書には目を通しておいてね。本登録は、二週間後です。騎士生活、納得できそうだったら本契約だから。でも、女性は条件がいいから本登録しない人はいないよ? さ、案内を付けたげるから、とりあえず宿舎に落ち着いてね。二週間後の本登録をお待ちしてますよ」
リシェルが不安げに見えたのか、官吏はニコニコしながら、人のよさそうな微笑みを浮かべて補足してくれる。
ここのお役所の人は、本当に親切だ。
いらぬ感想を胸に抱えながら、ついついいつもの癖でにっこり微笑みつつ、お礼をする。
「ありがとうございます。頑張ってみます」
ああ、憧れの王都まで来て、私は一体何をしてるんだろう。
リシェル17の秋。幼いころの夢とはちょっと違った方向に一歩踏み出す瞬間だった。