0075話
今年も一年、ありがとうございました。
これは今日投稿の3話目なので、前の2話を見ていない人はそちらからどうぞ。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
早乙女を始めとして、トワイライトの面々の口から勝利の雄叫びが上がる。
当然その雄叫びの中には、闇のモンスターを消した白夜のものも混ざっており、とてもではないが少し前まで気絶寸前だった者とは思えない。
麗華と五十鈴の二人は、そんな男たちの様子に笑みを浮かべて視線を向けている。
……なお、何故かノーラも麗華や五十鈴の側にいて空中を漂っているが、そこには先程までの戦いのときのような緊張はない。
「それにしても、驚きましたわね。まさかこのようなことになっているとは」
「そうね。正直なところ、私たちが来ないと色々と危なかったんじゃないかしら」
二人の言葉を聞いたのか、ノーラはその通りだと言いたげに態度で示す。
白夜と一緒だったノーラにしてみれば、今回の一件はかなり厳しいものがあったのは事実だ。
最初に軍隊蟻の大軍に襲われ、緑の街の住人を守りながらの戦い。
それが終わると、次に仮面の男たちとの戦い。……これは白夜とノーラは参加せず、麗華たちに任せていたが。
そして女王蟻率いる軍隊蟻との戦い。
さらに最後の戦いの中では、女王蟻がさらに追加で援軍を呼ぶといった真似もしており……その連戦は非常に辛かったのは間違いない。
「ともあれ、不法入国してきた能力者を捕らることが出来たのは、良かったですわ」
麗華のその言葉に、五十鈴も素直に頷く。
実際に、今回の一件は間違いなく日本にとって大きな利益になるだろう。
(もっとも、これだけ有利な状況を作っても、日本の政治家であれば強気に出ることは出来ないかもしれませんが)
光皇院家の娘として、当然のように麗華は日本にいる政治家のうち何人もと会ったことがある。
その多くは政治家ではなく政治屋と呼ぶべき人物で、何かあれば遺憾の意と口にするものの、政治では外国にやられ放題というのが実情だ。
それだけに、この不法入国者の能力者たちにとっても、下手をすれば唯々諾々と外国の命令に従って帰国させることになる……といった可能性すら考えられる。
若干憂鬱に思いつつも、今は素直に喜びを感じた方がいいと考える。
軍隊蟻というモンスターは、それなりに高い脅威として知られている。
だが、それは一定以上の能力者がいれば、対処出来ないほどではない。
……ただ、それはあくまでも普通の軍隊蟻であればの話だ。
女王蟻までもが出てくる今回の一件は、明らかに普通ではない。
(その辺りの秘密も、あの仮面の男たちが知っているのでしょうが)
すでに麗華と五十鈴は、あの仮面の男たちが何かをして軍隊蟻をこれだけ大量に……女王蟻すら呼び寄せたというのは知っている。
具体的にどのような方法を使ったのはまだ分かっていないが、それでも何かを投げたということは、何らかの道具を……恐らくマジックアイテムの類を使ったのだろうという予想が出来る。
(軍隊蟻だけに有効な何かなのか、それとも……)
麗華の脳裏に最悪の予想が浮かぶ。
もしどのようなモンスターであっても自由に操る……いや、話を聞いた限りでは暴走といった感じだったが、そのようなことに出来るのなら、それこそどこででもモンスターを暴走させることが出来るということになる。
そう、つまりモンスターを使ってある程度任意の場所に攻撃を出来るといういうことになるのだ。
ゲートで異世界と繋がるようになってから、多くの勢力が……それこそ国ですら、何とかモンスターを有効利用出来ないかと考えてきた。
だが、結局それは出来ず……いや、少なくても現在まではどうにも出来ていなかった。
しかし、今回の一件でそれが覆った可能性がある。
そうなると、仮面の男たちの重要度は今までよりもさらに上がったことになる。
「あ、ほら。早乙女さん。向こうでも俺たちが勝ったのが分かったみたいですよ」
麗華がこれからの日本について、そしてこの世界でのことについて考えていると、不意にトワイライトの一人がそう告げる。
その言葉に、全員が緑の街の方に視線を向けると……そこでは、先程まではここで守られていた者たちが、大きく手を振りながらこちらにやって来ているとこだった。
遠くからでも分かるほどに嬉しげなその様子は、それこそ見ている方まで笑みを浮かべたくなる。
実際に女王蟻率いる軍隊蟻を倒すことに成功したのだから、そのようになるのも当然だった。
「あのー……早乙女さん、ちょっといいですか? もし良ければ、軍隊蟻の死体は俺が貰いたいんですけど」
「……女王蟻もか?」
そう尋ねつつも、早乙女は恐らくそうなんだろうというのは予想していた。
元々白夜の能力がどのようなものなのかというのは報告を受けていたし、実際に緑の街に向かう途中でその光景を見てもいる。
将来的には、一人で一軍すら相手に出来るような……いや、場合によっては一人で国すら相手に出来るような可能性がある白夜の闇の能力だが、その能力の大きな欠点というのが、モンスターを闇に呑みこまなければ、闇のモンスターとして生み出せないということだろう。
そうなれば、当然のように倒したモンスターの死体から得られる素材や魔石、それ以外にも食用の肉といった物は入手出来なくなる。
特に白夜の切り札的な存在とも言える異形のゴブリンもそうだったが、女王蟻も間違いなくその素材は非常に希少な物で、場合によってはマジックアイテムの開発に大きな影響を与える可能性もあった。
早乙女もそれが分かっていたのだが、それでも女王蟻も欲しいと頷く白夜を見れば、それを拒否するような真似は出来なかった。
当然だろう。女王蟻の素材は一度使えばなくなってしまうが、白夜が闇のモンスターとして生み出すことが出来るようになれば、それこそ何度でも使えるのだ。
(損して得取れだったか? そんな感じだったよな)
少し考え、やがて早乙女は頷く。
「分かった。この部隊を率いる俺の権限で、女王蟻を含めて全てのモンスターの死体を白夜が使うことを許可する」
「ありがとうございます!」
早乙女の言葉に、白夜は嬉しそうに闇を広げて軍隊蟻の死体を呑み込んでいく。
ついでとばかりに、まだ地上に残っていた闇のモンスターの回収もすませる。
特に異形のゴブリンについては、今回の一件で強力な戦力になったのは間違いないが、同時に白夜に強い消耗を強いたのも事実だ。
何故か……本当に何故か今はそこまで消耗するといったことはなかったが、それでも今の状況がいつまで続くか分からない以上、出来るだけ早く異形のゴブリンは闇に戻した方がいいのは事実だった。
「あれ?」
と、女王蟻や近衛、それ以外にも様々な軍隊蟻の死体を闇に呑み込み、異形のゴブリンを含めた闇のモンスターをも含めて全てを闇に呑み込み終わったところで、白夜を守る役目を持っていたトワイライトの男が、疑問を口に出す。
……いや、直接声を出したのはその男だけだったのだが、周囲にいた他の面々も白夜を見て不思議そう表情を浮かべている。
「どうかしました?」
周囲の様子がおかしいことに気が付いて自分の様子を確認するが、何もおかしなところはない。
では、何故? と、そう思いつつ疑問を抱いていると、その理由を教えてくれたのは五十鈴だった。
「白夜の髪、さっきまでは虹色に輝いていたのに、今は元に戻ってるわよ」
「……髪?」
異形のゴブリンを使いこなしている間、白夜の髪は強く虹色に輝いていたのだが、本人がそれに気が付く様子は一切なかった。
だからこそ、白夜は自分の髪が変わっていると言われても、自覚出来ない。
「ええ。さっきの戦いの中で、白夜の髪は虹色に輝いていたのよ。……ちょうど戦いの最後のときにね」
そうなのか? と疑問を抱く白夜だったが、周囲を見回すと他の者たちも頷く。
それどころか、ノーラですら空中で上下に動いて同意していた。
「俺の髪……一体どうなったんだ?」
「それを私に聞かれても、困るわよ。それこそ、白夜が分からないのなら誰も分からないだろうし」
その言葉に悩む白夜だったが、早乙女が近づいてくると、そんな白夜の背中を乱暴に叩く。
「元気を出せ。とにかく、お前のおかげで何とかなったのは間違いないんだ。なら、難しいことはあとで考えればいいだろ。違うか?」
「それは……まぁ」
早乙女の言葉に、少しだけ納得したように頷く白夜。
完全に納得出来た訳ではないが、取りあえず今はそのことは忘れて純粋に喜ぼうと考える。
「だろ? 緑の街の人たちもああたやって俺たちを歓迎してくれているし、今日は恐らく宴会だぞ? そうすれば、白夜もきっと女たちにチヤホヤされるのは間違いない。嬉しいだろ?」
「はい!」
早乙女の言葉に反射的に答えた白夜だったが、次の瞬間極寒の視線が自分に向けられたのに気が付く。
後ろを振り向くまでもなく、背筋に冷たい汗が浮き出る。
それでも、ここで放っておくような真似をすれば、間違いなく自分にとっては最悪の結末に辿り着きそうな予感を抱く。
実際、白夜の前で女にチヤホヤされると言っていた早乙女ですら、白夜の後ろにいる人物の様子を見て、顔色が急激に青白くなっていったのだから。
早乙女が豪胆な性格をしているというのは、ほんの数日程度の付き合いでしかない白夜でも知っていた。
そんな早乙女にして、ここまで顔色が悪くなるのだ。
それは、白夜の後ろにいる人物がどのような状況にあるのか、如実に表している。
「みゃー!」
振り向くのを躊躇している白夜の頭の上に、覚悟を決めろと、ノーラが着地する。
このまま振り向くのが遅れれば、間違いなくノーラによって毛針を刺される。
それを考えると、白夜は気力を振り絞り……それこそ、異形のゴブリンを生み出し、維持し続けていたときと同じか、それ以上の気力を振り絞って振り向いた。
振り向いた先にいたのは、太陽の光を黄金の髪に煌めかせている、麗華。
口元には笑みを浮かべているが、目は全く笑っていない。
「えっと、麗華先輩。どうかしました?」
何も後ろめたいことはありませんといった様子で、白夜が尋ねる。
だが……それは、致命的なまでの失敗だった。
「ふふっ、白夜は随分と楽しい日々をすごせていたようですわね」
「あー……その、そうですね。緑の街や青の街といった場所に行ったりして、道を通すために色々と動いていました」
白夜が口にしたのは、決して間違いという訳ではない。ないのだが……麗華が聞きたがっていることでもないのは、間違いのない事実だ。
とはいえ、それは麗華が望んでいた言葉という訳でもなく……
「そうですか。それ以外にも色々と楽しい日々だったようですが?」
「えっと、その……」
何とか言葉を口に出そうとする白夜だったが、この状況では何を言っても無意味になるとい確信があった。
そのため、言葉に詰まり……
「はいはい、取りあえずその辺にしておきましょう。今は、軍隊蟻に勝ったことを喜んだ方がいいでしょうね。軍隊蟻の女王蟻が倒されたことなんて……ほとんど聞いたことがないし」
唐突に話に割り込んできた五十鈴の言葉に、白夜は表情に出さないようにしているものの、助かったといった思いを抱く。もっとも……
「白夜がどういう生活をしていたのかは、あとでゆっくりと聞けばいいでしょ? それに、緑の街だったかしら。そこの人たちに聞いてもいいし」
次の瞬間、五十鈴の口から出てきたその言葉に、絶望を感じたのだが。
「えっと……五十鈴?」
恐る恐るといった様子で尋ねる白夜だったが、尋ねられた五十鈴の方は何? と笑みを浮かべて視線を向けてくるだけだ。
それこそ、白夜が何を言っているのか分からないといったような、そんな笑み。
当然、それはあくまでも表向きのもので、実際には狼狽えている白夜を見て笑みを浮かべていたのだろうが。
「ほら、そっちの三人。イチャついてないで、緑の街に戻るぞ。今日はこれ以上仕事をやるつもりはないが、明日からはまた道を通す仕事が残ってるんだからな。……それに、そっちの連中もどうにかする必要があるしな」
早乙女が気絶したままの仮面の男達を見て、そう告げる。
まさか、他国から不法入国してきた能力者を緑の街に置いておけるはずもなく、出来るだけ早くトワイライトに……もしくは、政府に引き取って貰う必要があった。
もっとも、下手に政府に渡せば日本の利益のためではなく、自分の利益のために動くような政治家が多いのは間違いないので、出来ればトワイライトの本部に引き渡したいというのが正直なところだったが。
ともあれ、白夜はそんな早乙女の言葉にこれ幸いと飛びつく。
「そうですね。まだ道は全然完成してませんし……俺たちの戦いはこれからだって奴ですね」
そう、告げるのだった。
虹の軍勢、ひとまずこれにて完結となります。




