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虹の軍勢  作者: 神無月 紅
ゴブリンの集落とゲート

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0049話

「行きますわよ! 今度の(わたくし)は、先程のように簡単にやられるようなことはありませんわ!」


 当たるを幸いと闇のゴブリンを破壊していた異形のゴブリンは、聞こえてきたその声に視線を向ける。

 他のゴブリンと違い明確に知性を感じさせるその目は、倒しても全く堪えた様子がなく湧いてくる闇のゴブリンに対して苛立ちを覚えていたが、麗華の姿を見て喜色の色を浮かべる。

 異形のゴブリンにしてみれば、全く手応えのない闇のゴブリンは、戦ってもとてもではないが楽しめる相手ではない。

 せめて闇のゴブリンにある程度の強さがあれば戦い甲斐があったのかもしれないが、こうして戦っている限りでは、相手は全く何の考えもなく、ただひたすらに自分に襲いかかってくるだけだ。

 闇のゴブリンに攻撃されても、ダメージの類を受けるつもりはない。

 ないのだが……それでも、この程度に敵に攻撃されることは面白くなく、半ば惰性で闇のゴブリンを倒していた。

 異形のゴブリンにとって、闇のゴブリンはゴブリンの形をしてはいるが、自分の同胞という認識は存在しない。

 ただ、そこにいるだけで厄介な……それこそ、ゴミという認識が一番合っているだろう。

 そのゴミの相手をしている最中に、先程曲がりなりにも自分と戦った人間の女が姿を現したのだから、それで喜ばないはずがない。


「ガアアアアアアアアアアァァァァッ!」


 異形のゴブリンの口から上がる、雄叫び。

 その雄叫びを間近で聞いた闇のゴブリンは、一瞬動きが止まる。

 闇のゴブリンには自我が存在しない。つまり感情の類もないので、間近で異形のゴブリンの雄叫びを聞いても、畏怖で身体が動かなくなるということはない。

 それでも闇のゴブリンの動きが止まったのは、単純に間近で聞いた雄叫びによって一時的に身体機能が麻痺したからだろう。

 畏怖でもなんでもなく、純粋に雄叫びの中にそのような効果があったんのだ。

 だが、レイピアを手にして異形のゴブリンに向かっていた麗華は、そんな雄叫びを聞いても全く速度を緩ませるようなことはない。

 ……それどころか、より速度を上げて異形のゴブリンとの距離を詰める。


「はぁっ!」


 鋭い声と共に突き出されるレイピア。

 光の能力によるものだろう。麗華が振るうレイピアは眩く輝いている。

 それが具体的にどのような効果をもたらすのかは、遠目で見ている白夜にも分からない。

 だが、放たれたレイピアの突きが、稲妻の如き速度だったのは間違いないかった。

 異形のゴブリンは、自分に向かって放たれたその突きを後ろに跳ぶことで回避する。


「ゴルルラアアアァァァァッ!」


 再び放たれる、異形のゴブリンの雄叫び。

 闇のゴブリンに使ったのとは若干違う声だったが、それでも効果そのものはそう大差ないのだろう。

 そんな雄叫びを間近で聞いた闇のゴブリンは、やはり一瞬その動きを止める。

 しかし……麗華はそんな雄叫びには全く効果がなく、輝くレイピアを縦横無尽に振るっていた。

 そのレイピアは、異形のゴブリンの身体に僅かなりとも傷を付けることに成功する。

 とてもではないが致命傷と呼べるような深い傷ではなく、それどころか数日程度放っておけば回復するような、浅いかすり傷。

 その程度の傷であっても、異形のゴブリンにしてみれば、自分が傷つけられたことそのものが許せない。

 麗華を見る視線に灼熱の光を宿し、右側にある三本の腕を全て振るう。

 一気に振るわれたその攻撃の威力は、当たれば即死するのは確実だろうと、麗華ですら本能的に理解出来た。

 だが、その攻撃を回避するような真似はしない。何故なら……


「……」


 闇のゴブリンが、無言で麗華の前に立ち塞がったからだ。

 そうして、継ぎの瞬間には異形のゴブリンの攻撃により、闇のゴブリンは見るも無惨に砕かれる。

 ……もっとも、砕かれた身体はそのまま地面に広がる闇の中に吸収され、すぐにまた闇のゴブリンとして復活するのだが。


(これなら、いけますわ!)


 レイピアを手に、麗華は希望に満ちた思いと共に内心で叫ぶ。

 異形のゴブリンの何が怖いのかといえば、当然ながらその脅威的な攻撃力だ。

 もちろんそれ以外にも、高い身体能力による攻撃の回避というのはある。

 だが、麗華としては、やはり向こうの攻撃を防ぐことが出来るというのが大きい。

 もっとも、それも完全ではない。

 闇のゴブリンが異形のゴブリンの攻撃を受けるということは、次の攻撃に繋げる麗華の動きを、多少なりとも邪魔をするということになってしまう。

 幸い、闇のゴブリンの大きさは生前と変わらないので、視界を塞ぐということはないのだが……それでも、厄介なのは間違いない。

 それでも、今はとにかく異形のゴブリンに攻撃をする必要があるので、多少の邪魔をする闇のゴブリンを回避しながら、麗華のレイピアは振るわれる。

 光り輝くそのレイピアによる連続攻撃は、次々に異形のゴブリンの身体に幾つも傷を付けていく。


「グラアアアアアアアアアアアッ!」


 そんな麗華の攻撃に苛立ち、異形のゴブリンは大きく六本の腕を振るう。

 だが、異形ゴブリンの振るう六本の腕は、その全てが闇のゴブリンによって防がれる。

 当然防いだ闇のゴブリンはただですむはずもなく、四肢や頭部、胴体といった場所が四散し……すぐに地面に広がっている闇に呑み込まれ、新たな闇のゴブリンとなって姿を現す。

 異形のゴブリンにしてみれば、闇のゴブリンなどは容易く殺せる相手でしかない。

 しかし、容易く殺せるのは間違いないが、どうしてもその身体に六本の腕のどれかが命中すれば、僅かなりとも振るわれた腕の速度は落ちる。

 それは本当に僅かな時間でしかないのだが……麗華にとって、その僅かな時間があれば攻勢に転じるには十分だった。


「光の槍よ、在れ!」


 麗華の言葉に従い、空中に生み出された光の槍。

 長さ二メートルほどの光の槍は、生み出された次の瞬間には放たれる。

 異形のゴブリンも、当然その光の槍には気が付いたのだろう。

 だが、迎撃するか……もしくは回避するかで一瞬迷う。

 そして一瞬の隙があれば、闇のゴブリンが異形ゴブリンに襲いかかるには十分だった。

 襲いかかるといっても、実際に攻撃をする訳ではない。

 闇のゴブリンが行ったのは、異形のゴブリンの身体、手、足……あらゆる場所にしがみつき、その動きを阻害することだ。


「ゴアアアアアアアアアアアアア!」


 手足にしがみつかれた異形のゴブリンは、行動が一秒にも満たない時間ではあるが、動きが鈍る。

 麗華の放った光の槍が命中するには、それだけで十分だった。

 ……間に合わないと理解した異形のゴブリンは、本能的に自分にしがみついている闇のゴブリンを持ち上げ、盾代わりにしようとする。

 闇のゴブリンに命中すれば、多少なりとも光の槍の威力が軽減され、場合によっては自分が回避出来るかもしれないと理解したからこその行動。

 だが……それを見た瞬間に、白夜が叫ぶ。


「甘いんだよ!」


 その叫びと共に白夜の虹色の髪が一瞬だけ眩さを増し、異形のゴブリンが手にしていた闇のゴブリンは闇の霧とでも呼ぶべきものになって消滅する。

 闇のゴブリンは、白夜が能力によって生み出した存在だ。

 当然、白夜の意思によって闇のゴブリンを好きなように消去することも可能だった。

 盾にしようとしていた闇のゴブリンが消えた異形のゴブリンは、当然のように自分に向かって真っ直ぐに飛んできた光の槍を防げるはずもなく……その身体を、光の槍によって抉られる。


「グギャアアアアアアアアアアア!」


 今まで上げてきた威嚇や怒りといった声ではなく……それは、明らかに痛みに対する悲鳴だった。

 四本腕のゴブリンを率いていた異形のゴブリンにとって、自分にここまで明確なダメージを与えられる相手がいるというのは、完全に予想外だったのだろう。

 脇腹を貫き、緑の血を流している傷口を押さえ……苛立ち紛れにか、自分の足にしがみついている闇のゴブリンを持ち上げると、鋭い牙の生えた口を開き……


「させると思うか!」


 異形のゴブリンが何をしようとしたのかを理解した白夜は、噛みつかれようと……いや、喰らわれようとしている闇のゴブリンを闇に戻す。

 次の瞬間、牙が噛み合う音が周囲に響き渡った。

 喰い殺そうとした標的がいなくなった異形のゴブリンは、苛立たしげな表情を浮かべる。

 異形ゴブリンが何を思って闇のゴブリンを喰らおうとしたのか、白夜には分からない。

 闇のゴブリンとはいえ、姿形は四本腕のゴブリンである以上、それは共食いにあたるのではないかとも思ったのだが、異形のゴブリンは何ら躊躇することなく闇のゴブリンを喰い殺そうとした。

 ……もしかしたら、噛みついて殺すつもりだったのかもしれないが、白夜にしてみれば喰い殺そうとしているようにしか見えなかった。

 それで何が変わるのかは分からなかったが、それでも異形のゴブリンのいいようにさせる訳にもいかず、闇のゴブリンを闇に帰した。

 代わりに他のゴブリンが、異形のゴブリンの動きを止めるべく身体にしがみつく。


「ガアアアアアアアアアアアッ!」


 邪魔だ、と言いたげに闇のゴブリンに腕の一本を振り下ろそうとするが、それを行われるよりも前に麗華がレイピアを手に異形のゴブリンとの間合いを詰めていた。


「させませんわよ!」


 麗華にとって、別に闇のゴブリンはどうしても助けたい味方という訳ではない。

 むしろ、殺されても闇に吸収され、再び闇のゴブリンとして姿を現すのを見れば、生き物ではなく白夜の操る人形という認識の方が強くなって当然だろう。

 それでも……たとえ人形であっても、自分の目の前でわざわざ殺される――もしくは壊される――などといった真似をされるのは面白くない。

 だからこそレイピアを手に一気に前に出たのだ。

 幸いにも、今回の場合それは吉と出た。

 闇のゴブリンによって動けなくされている以上、当然ながら異形のゴブリンは動けない……訳ではないが、それでもどうして動きが鈍くなる。

 ましてや、脇腹を光の槍に貫かれているのだから、その動きはとても平常時のようにはいかない。

 そこに、光を纏ったレイピアが襲い掛かったのだ。

 異形のゴブリンにしてみれば、麗華の放つレイピアの一撃……いや、連撃を防ぐには、どうしても闇のゴブリンが邪魔だ。

 闇のゴブリンを盾代わりにしようとするも、そうすれば白夜は即座に闇のゴブリンを闇に戻し、攻撃を防げないように異形のゴブリンの邪魔をする。

 ……それでも麗華の、踊るように放たれるレイピアの連撃を多少の傷は受けても致命傷にならないようにしている辺り、異形のゴブリンの能力の高さを示しているのだろう。

 だがこのとき、異形のゴブリンにとって最悪の展開が訪れる。

 洞窟の中から、常に姿を現し続けていたゴブリン。

 数万匹、もしくはそれ以上の数がいるのではないかと思えたゴブリンたちだったが……その姿が見えなくなったのだ。

 つまり洞窟の中にいたゴブリンたちは、全てが外に出て来て、闇のゴブリンによって倒された。

 それは、数万匹以上のゴブリン全てが、そっくりそのまま闇のゴブリンとして白夜に戦力となったことを示していた。


「いけ、あの異形のゴブリンを倒せ!」


 叫ぶ白夜だったが、既に能力の限界が近いのだろう。

 顔は青白く、客観的に見ればいつ倒れてもおかしくないように思えた。

 そんな白夜の周囲を心配そうにノーラが飛んでいたが、今の白夜にとって、やるべきことは何とかして異形のゴブリンを倒すことだ。

 白夜の意思に従い、闇のゴブリンは次々と異形のゴブリンに襲いかかっては、呆気なく一撃で身体を粉砕され、闇に戻る。

 まさに、闇のゴブリンは自分から死ぬために異形のゴブリンに襲いかかっているようなものだ。

 だが……それでいいのだ。

 白夜がやっているのは、少しでも異形のゴブリンの意識を麗華から逸らし、麗華を有利な状況で攻撃させるというもの。

 実際、白夜の行動は上手くいっており、異形のゴブリンが麗華のレイピアによって受ける傷は、加速度的に増えている。

 異形のゴブリンもそれは分かっているし、自分が不利な状況になりつつあるというのは分かっているのだが……それでも、闇のゴブリンを放っておくことは出来なかった。

 何故なら、闇のゴブリンは異形のゴブリンの首筋に食らいつこうとしたり、眼球を潰そうと指を伸ばしてきたりといった真似をし始めていたからだ。


「ガアァッ、グガアアア、グギャアア!」


 しつこく自分の眼球を奪おうとしてくる闇のゴブリンに、異形ゴブリンは大きく腕の一本を振るってその身体を闇に帰す。

 だが……その瞬間、運悪く……そして麗華や白夜にしてみれば運良く、その動きが大きな隙となりと……麗華が全身全霊を込め、眩い光が周囲に満ち……異形のゴブリンは頭部をレイピアによって貫かれ、そのまま地面に崩れ落ちる。

 その姿を見た瞬間、白夜の意識はまるで電源が切れるかのように闇の中に沈んでいくのだった。

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