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虹の軍勢  作者: 神無月 紅
ゴブリンの集落とゲート

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0047話

 麗華と異形のゴブリンとの戦い。

 その戦いは、少し前に行われたものと同様の流れで行われてはいたが……それでも、麗華の方が不利なのは間違いなかった。

 レイピアがない状況が、そこまで麗華にとって不利な要素となっていた。

 そんな麗華の行動をフォローすべく、白夜も必死になって闇を使って攻撃しているのだが、それでも麗華が武器を失った以上の戦いは出来ない。

 ましてや、異形のゴブリンが行動を始めたのと同時に、他のゴブリンたちも動き始めている。

 白夜と麗華を囲んでいたそのゴブリンたちは、全てが白夜に向かってきたのだ。

 麗華が異形のゴブリンの相手がするということは、当然残っている相手は白夜しかいない。

 周囲にいる四本腕のゴブリンがひたすらに白夜に向かって攻撃をしてくる。

 そうである以上、白夜は必死にそれに対応しながら、異形のゴブリンと戦っている麗華の援護もする必要があった。


「はぁ、はぁ、はぁ。ちぃっ!」


 荒く息を吐き、少しでも呼吸を整えようとうする白夜だが、周囲にいるゴブリンたちはそれを許さない。

 顔中に汗を掻き、虹色の髪もそんな白夜の疲労に合わせるようにして、どこか輝きが鈍っているようすら思えた。

 近づいてきたゴブリンの頭部に向け、金属の棍を突き出す。

 白夜の手の中に、金属の棍がゴブリンの胴体に埋め込まれる感触があり……だが次の瞬間、ゴブリンが倒れ込むのを待つこともなく、その場から跳びのく。


「ガアアアアアアァ!」


 一瞬前まで白夜のいた場所に、振り下ろされる棍棒。

 地面を叩くその音は、もし当たれば骨が折れても仕方がないと思われるほどの轟音で、それがが周囲に響く。


「みゃーっ!」


 白夜の頭部にいたノーラが、攻撃してきたゴブリンに対して毛針を飛ばす。

 その毛針を受けたゴブリンは眼球を何本もの毛針に貫かれて悲鳴を上げるが、白夜にそれを聞くような余裕はない。


「我が打ちに眠りし大いなる闇よ、在れ!」


 こんな時であっても、白夜が能力を使うときにはその口から厨二病的な台詞が出る。

 だが、その言葉に周囲のゴブリンが一瞬動きを止めたのは、白夜の能力をこれまで何度となく見てきているからだろう。

 特に大きいのは、触れると身体が崩れていくという凶悪なまでの攻撃。

 手に命中すれば手を、足に命中すれば足を、そして頭部に命中すれば頭部と命を失ってしまうその攻撃は、大量に集まっていて回避する場所の余裕がそれほどないゴブリンたちにとっては、最悪の攻撃だった。

 そんな白夜の攻撃を覚えているだけに、どうしても躊躇してしまうのだ。

 その躊躇は、白夜にとってこれ以上ない幸運だった。

 白夜の能力により、周囲を闇が覆ったのだ。

 咄嗟の判断ではあったが、それでも闇が周囲を覆うというその様子は、ゴブリンたちの動きを止めるには十分だった。

 また、その闇は当然のように麗華と異形のゴブリンが戦っていた場所にも届いており、闇の正体が白夜の能力だと知っている麗華はともかく、異形のゴブリンはその動きを止めてしまう。

 そして異形ゴブリンが動きを止めたその瞬間、追い詰められつつあった麗華は一度異形のゴブリンから距離を取る。


「ふぅ……」


 白夜ほどに息は切れていないが、それでも麗華も武器を手にしていない状況で異形のゴブリンと戦うのは厳しいのだろう。

 異形のゴブリンも、麗華がレイピアを手にすれば面倒なことになると考えているのか、落ちているレイピアを麗華に拾わせるような真似はしない。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 そうして麗華が一息吐くのも束の間、次の瞬間には異形のゴブリンが周囲……どころか逃げ出した者たちにも聞こえたのは間違いだろう雄叫びが響き渡った。

 その雄叫びによる衝撃は物理的な衝撃すら持っていたのか、次の瞬間には周囲を覆っていた闇の全てが吹き飛ばされる。


「厄介な真似を……うおっ!」


 ようやく一段落出来るかと思った白夜だったが、闇が吹き飛ばされたことにより、白夜がどこいるのかを分かったゴブリンたちの攻撃が集中する。

 一匹だけであれば、白夜も攻撃を回避しながらカウンターを繰り出すことが出来るし、二匹程度であれば回避に集中すればどうとでもなる。三匹が相手でも、ノーラの毛針による牽制でどうにか対処することが出来た。

 だが……そのような真似が出来るのは、あくまでも三匹が一度に攻撃してきたときだけの場合だ。

 その三匹をどうにかいなしても、その後ろに何匹もゴブリンが潜んでいる状態であれば、対処は難しくなるのは当然だった。


「白夜!」


 そうして回避をしていると、突然声がかけられる。 

 誰がその声を発したのかは、考えるまでもなく理解出来た。

 自然と背中合わせになりながら、白夜と麗華はお互いに敵を警戒する。

 麗華は、六本腕の異形のゴブリンを。そして白夜は、周囲にいる大勢の四本腕のゴブリンを。

 普通に考えれば、腕が二本増えただけで何故ここまで強力になるのかと、理不尽な思いを抱いてもおかしくはないだろう。

 だが、今はそのようなことを考えているような余裕があれば、それこそ目の前にいるゴブリンをどうにかする方が先だった。


「ガアアアアアアアアアアッ!」


 そんな白夜と麗華の様子を見た異形のゴブリンが、苛立たしげに叫ぶと一気に前に出る。


「白夜っ!」


 先程と同じ、白夜の名前を呼ぶ麗華。

 だが、そこで叫ばれた言葉は先程のものとは大きく違い、切迫感に包まれたものだ。

 その声が聞こえたと同時に、白夜は背中から強烈な衝撃を感じる。


「ぐはっ!」


 何が起きたのか、それは目の前にいるゴブリンに集中していた白夜には分からなかったが、衝撃を受けたのと同時に黄金の髪が視界の隅に存在したのを見て、自分のすぐ後ろにいた麗華が吹き飛ばされ、それが自分にぶつかったのだと理解する。

 そして、当然のように白夜の隙を窺っていたゴブリンが、そのような絶好の好機を逃すはずがない。

 麗華にのしかかられるように地面に倒れている今の白夜は、それこそ絶好の獲物なのだから。

 女の方は異形のゴブリンの獲物だと示されている以上、手を出すことは出来ないのだが。

 ともあれ、地面に倒れた白夜に向かってゴブリンは棍棒を始めとした武器を叩き付けようとし……


「くっ!」


 それを確認した白夜は、咄嗟に自分の上にいた麗華を腕の中に匿う。

 麗華の身体を抱きしめるようにしながら、自分が麗華にのしかかるような体勢になりながら。

 異形のゴブリンの獲物の麗華は、放っておいても他のゴブリンたちは攻撃出来なかったのだが……ゴブリンが何を考えているのは、白夜に分かる訳がない。

 ましてや、普通のゴブリンであればこの好機を逃すことなく麗華を捕らえるののは間違いないのだから、白夜のとった行動は決して軽率なものではない。

 また、白夜も単純に女としての麗華を守るためにそのような行動をした訳ではなく……この場からどうにか脱出するには、自分より強い麗華の力が絶対に必要になるという打算的な考えがあったことも間違いない。その結果……


「ぐおっ!」


 白夜の背中に、叩き付けられる棍棒。

 あまりの衝撃に、白夜の口からはくぐもった悲鳴しか出ない。


「みゃーっ!」


 白夜に攻撃をするゴブリンに、空中に浮かんでいるノーラは毛針を飛ばす。

 広範囲に放たれた毛針は、白夜に攻撃しようとしていたゴブリンの多くに命中し、何匹もが反射的に身体を庇ったおかげで攻撃の密度は少なくなる。

 もっとも、少なくなるというのはゼロという訳ではない。

 そうである以上、何匹かのゴブリンの攻撃は白夜の背中に叩き付けられた。


「ぐううっ!」


 白夜の口から漏れる悲鳴。

 そんな悲鳴を漏らしながらも、白夜は痛みを堪えつつも何とか周囲の様子を確認する。

 幸い……本当に白夜にとって幸いなことに、ゴブリンが棍棒を叩き付けるのは白夜の頭部ではなく胴体のみだ。

 もしこの状況で頭部を攻撃されれば、最悪頭部を潰されて即死するという可能性もあるし、そこまでいかなくても頭から流れてくる血によって視界が狭まる可能性もあった。

 そういう意味では、白夜も運が良かったのだろう。

 ……もっとも、胴体を好き放題に殴られている現状を見て、白夜はとてもではないが自分の運が良いとは言えないだろうが。


(ぐっ、くそっ、何とかしないと、俺だけじゃなくて麗華先輩まで、殺される……くそっ、何か手段はないのか、何か!)


 考えを纏めようにも、ゴブリンが攻撃を止めるようなく、棍棒や腕、場合によっては持っている石を振り下ろされる痛みに、白夜の考えは纏まらない。

 その上、ゴブリンたちは白夜が麗華を守っている以上は反撃が出来ないと判断したのだろう。あえて致命傷を与えるのではなく、痛みは与えるが致命傷にならない程度に加減し、白夜の痛みに耐える姿を楽しむという真似すら始めていた。

 ゴブリンを率いているらしき異形のゴブリンも、そんなゴブリンたちを止める様子はない。

 そんな状況がどれだけ続いたのか。

 殴られ続けている白夜は、どれだけの時間が経ったのかは分からない。

 それこそ数分なのか、それとも十分を超えているのか……もしくは数十分も経っているのか。

 それでも一時間は経っていないだろうと、激痛の中で確信していた。

 もし一時間もこのような状況が続けば、恐らく自分は生きていられなかっただろうから。

 自分が動こうとすれば、ゴブリンの攻撃が麗華に命中する可能性がある。

 それで麗華に怪我をすれば、この場から脱出するための最大の戦力が使えなくなるのだから、自分が動く訳にはいかなかった。

 どうにかする必要がある。そう思った白夜だったが……やがて、背中に激しい衝撃と既に慣れた鈍痛を感じた瞬間、自分の中で何かが爆発したように感じた。


「あああああああああああああああああああああああああああっ!」


 突然自分の中から湧き上がってきた何かに促されるように、白夜の口から雄叫びが上がる。


「ギョギャ!?」


 白夜を殴っていたゴブリンは、自分たちが殴っていた相手の口から突然出たその叫び声に驚き、数歩後退る。

 だが、すぐに自分の敵……どころか、玩具の如き存在でしかない白夜に驚かされたのが面白くなかったのか、持っていた棍棒を思い切り振りかぶり……次の瞬間、その棍棒を振り下ろすよりも前に、何者かに殴り飛ばされる。


「ギャッ!」


 悲鳴を上げながら吹き飛んだゴブリンを殴ったのは……同じ四本腕のゴブリン。

 ただし、そのゴブリンを見てゴブリンだと認識するのは難しいだろう。

 何故なら、姿形はゴブリンであっても、黒い……いや、闇がそのままゴブリンの姿を作っていたのだから。

 その外見の形だけを見れば、間違いなくゴブリンなのは間違いない。

 だが、その闇で出来たゴブリンには、意思の光は存在しない。

 意思がないにもかかわらず、近くにいるゴブリンに対する攻撃は行う。

 四本の腕を使って殴りかかっていくその闇のゴブリン。

 本来であれば、ゴブリンは仲間であろうと敵対した相手には容赦することはない。

 だが、殴られたゴブリンは完全に不意打ちだったこともあり、反撃云々の前に完全に意識を失っていた。

 そして、本来なら玩具で遊ぶのを邪魔されたと、他のゴブリンたちが怒ってもいいのだが……そのように出来ない理由があった。

 何故なら、闇で出来たゴブリンは、一匹だけではない。

 それこそ、いつの間にか広がっていた白夜の影から、次々に姿を現しては近くにいるゴブリンに襲いかかっていくのだ。

 その数は次々まさにつきることのないだけの数で、延々と闇で出来たゴブリンが姿を現し続ける。

 白夜たちがやっていた、洞窟か延々と出てくるゴブリンの群れと、形は違えど同じようなことが起きていた。

 もっとも、今回の場合は迎え撃つ方のゴブリンも大量におり、白夜たちのように戦力を一点に集中してゴブリンを倒すといった真似をしなくてもお互いに対応出来ていたのだが。

 点ではなく面。

 それが、現在行われている戦いだった。

 白夜は寝転がって麗華を抱きしめていた状況から、落ち着いた様子で周囲を見回す。

 すでにその身体には、先程までの力の奔流は存在しない。

 代わりにという訳ではないが、白夜の持つ虹色の髪はこれまでにない輝きを放っていたのだが……生憎と、今の白夜はそれに気が付いた様子はない。


(これは……いや、これが闇の力か。能力が進化される予兆とかあったけど、まさかこんな風になるとは思わなかった)


 そう思いながら、白夜は闇のゴブリンを眺める。

 戦力的には、意思がない分、殴られても刺されても、全く気にせず攻撃を続ける闇のゴブリンの方が強い。

 だが、数では闇のゴブリンの方が、どうしても少ない。

 ……少ないのだが、白夜はそれを心配していなかった。

 進化した自分の能力がどのような性質のものなのか、それを本能的に理解していたためだ。

 視線の先で、闇のゴブリンに首の骨を折られたゴブリンの死体が、闇に呑まれていく。

 そうして数秒後、別の場所で闇のゴブリンと戦っているゴブリンの背後に新たに闇のゴブリンが現れて不意打ちする。

 その不意打ちをしたゴブリンは、数秒前に闇のゴブリンに首の骨を折られたゴブリンであると、白夜は理解していた。

 つまり、ゴブリンの死体は闇に呑まれ、闇のゴブリンとして白夜の兵力となって姿を現し、ゴブリンを殺す。

 そうして殺されたゴブリンは闇に呑まれ……と、いうことなのだろう。


「とにかく……これで、何とか……」

「ガアァアアァァァァァァアァァアァァァァッ!」


 一息吐けそうだ。そう言おうとした瞬間、離れた場所から強烈な雄叫びと共に、十匹を超える影のゴブリンが吹き飛ぶのだった。

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