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七話 それぞれの強さ

 俺達は、なぜか森にいた。


 なぜかというか、まあお金のためなんだけど。


 ファロンが増えた分のお金は、どうしても捻出しなくてはならない。他の村人達にまったく頼れないわけではないが、それでもやっぱり限度がある。ファロンはファロンで、龍の姿でいることを断固として拒否したし。


 そんなわけで、近くの森まで魔物を退治しに行くことになったのである。魔物の肉はものによっては食べられるし、毛皮や角がいい値段で売れるそうだ。ファロンがもともと住んでいた桜の樹が立ち並ぶ場所まで行けば、相当レアなものが取れるとか。その代わり危険なのも混ざっているとかで、戦闘に慣れるまでは行かないことになったのだが。


 先頭のライラは頭の後ろで腕を組んで歩きながら、かったるそうに愚痴った。


「倒した魔物が、直接金とか毛皮とかだけ落として行ってくれたら、便利なんだけどなー。魔物って、割とさばくの面倒って知ってるー? あたしあれ苦手でさー」


「手伝ってくれるのはありがたいけど、見事なまでのゲーム脳だなあんた」


 倒したらドロップアイテムとお金残して消えてくれるとか、それもはや生物じゃないじゃん。プログラム的ななにかじゃん。


 今俺達はライラを含めた四人で森に来ている。この中でもっとも攻撃力が高いのはファロンだが、ファロンが本気を出すと森が壊滅しかねないので最後の手段だ。隊列は道を知っているリーレと、前衛であるライラが先。その後ろがファロン、そして最後、しんがりが俺だ。


前衛は騎士であるライラに任せ、俺は魔法使いポジなので後衛。中衛として多少の魔法と弓を扱えるらしいリーレ。最大の攻撃力はおそらくファロンだろうが、加減の問題もあり前には出ない。そのため直接攻撃や出合い頭の戦闘は、このかったるそうな騎士さまに任せることになる。


 激しく不安だ……


「ライラさんは騎士のようですが、お仕事はいいのですか? しょっちゅう私達の家にいらしてますが」


 リーレの言う通りである。ライラってば、本職はいいんだろうか。


「あ、りっちゃんも普通にしゃべっていいよ? あたしを敬う必要ないって。たまたまちょっと早く生まれただけだしねー。仕事はいーのいーの。この辺平和だから、仕事なくってさー。この国の人達って結構のんきっつーか、穏やかな性格の人多いじゃん? 戦争なんかもする気配ないし、たまーに近所の魔物退治するくらいの仕事しかないんよ。それに街の周辺ってマナ薄いみたいで、魔物あんま出て来ないし」


「それなら、お言葉に甘えて。魔物に関しては、どこもそうかな。そういうところを選んで人は住んでいるから。でないと、あっという間に魔物に食べられちゃうもの」


 そりゃそうだ。俺はまだ樹のやつ以外実物を拝んだことはないけど、もしゲームに出て来るまんまのやつがうようよ出て来たら、普通に死ぬ。俺弱いし。魔法はそれなりに使えるみたいだけど。


「そういやライラは、魔法どれくらい使えるんだ?」


「からっきしー。少なくとも、致命傷クラスの攻撃が出来るレベルじゃねーなー。頑張れば、足止めくらいならいけるけど」


 ってことはごりごりの剣士タイプってことか。


「あ、でも固有魔法っぽいのはあるぜ!」


「あるの!?」


 そっか、俺にもあるんだからライラにあってもおかしくないのか。ライラも地球から来ているわけだし。


 俺の反応に気をよくしたのか、機嫌がずいぶんといい。いつも以上に饒舌だが、変なボケは挟まなかったのだから。


「あるあるー。『パラメーターシフト』って呼んでるんだけどさ、これがまた使い勝手が激しく微妙でさー。なにかしらの能力値を上げる代わりに、別の能力値を下げるっての。魔物相手に使えるならまだしも、人間限定だし。副次効果で、相手のステータスが見えるのは役立つけど」


「ってことは俺のステータスも見えんの!?」


「まーね」


 マジか!! そうそう、普通は見えるものなんだよこういう時!! 異世界にせっかく転移したんだから、自分のステータスくらい知っておきたい。


「じゃあ頼むライラ、俺のステータスも見てくれ!」


「あいよー。どれどれー……」


 器用なことに、振り向いて歩きながら魔法を発動させるライラ。俺のすぐ横を歩いているのだが、樹が迫っていても俺を見たまま綺麗に避けるのだ。


リーレと言えば会話についていけないので、終始キョトンとしている。それでも辺りの警戒はしてくれているので、なんとなく必要っぽいことをやっているのかな、くらいの認識はあるみたいだ。ファロンはそもそも興味がないのか、欠伸を噛み殺しながらギリギリついて来ているくらいだからいいだろう。


「はい、結果出ましたー」


「おお!」


 わくわくするなー! どうしよう、これで魔力一億とか出たら!

 

「えっと体力が4、筋力4、耐久4、魔力10、魔法耐性10、敏捷5、運は3だね」


「しょぼっ!? いや、ってかそれどんな基準!?」


「この世界全部の人間の平均値を5とした場合の、10段階評価。あれだね、マナトくん魔法は相当強いけど近接は微妙ってタイプだねー」


「つーか相当ふわっとした評価!!」


 じゅ、10段階ですかそうですか……もう少し詳細なデータが知りたかった。しかもぶっとんでるわけでも全部しょぼいわけでもない、微妙過ぎる評価だし。


 俺が落ち込んだせいか、リーレが困ったような顔になる。


「あの、そのすてーたす、っていうのはなにかすごいものなの?」


「ああうん。簡単に言うと、俺がどんなことが得意でどんなことが苦手かってことだね」


「マナトは変わったことを知っているのね」


「前住んでたところが特殊でな」


 異世界です、だなんて言ったところで、信じてはもらえないだろうなあ。この説明ならウソじゃないので、まあセーフだろ。


「ちなみにリーレのもわかるのか?」


「よゆーよゆー。えぇっと……体力8、筋力7、耐久5、魔力3、魔法耐性2、敏捷7の運が2かな」


どちらかと言えば、直接攻撃が得意なタイプらしい。そう言えば、リーレが必要最低限以上の魔法を使っているところを、見た記憶がない。せいぜい少しの水を出したり、かまどに火を点ける時に使うくらいだ。まあ戦闘の機会自体がなかったわけだし、そうそう見ることはないか。


「ついでに言うと、あたしが体力9、筋力9、耐久9、魔力1、魔法耐性1、敏捷8で運が5だぜ!!」


「あー……」


 なんかザ・近接! って感じのステータスだ。超ライラっぽい。しかも近接に寄っておきながら、一つも極めず最高が9の辺りが特に。

 

そんな話をしていると、それまで眠たげに歩いていたファロンが立ち止まり、ぴたりと前を見据えた。何やら、不穏な空気を感じる。


「……何か来るのー」


 ファロンの言葉が終わると同時、近くの茂みから獣らしき物体が飛び出して来た。


 一言で言えば、長い毛のオオカミだった。ただし大きさが二メートルもあり、生えている長い毛は動物と言うよりも人間の髪の毛に近い。やたらともっふもふなのだが、あまり撫でたくなるような見た目ではなかった。


「え、何あれ?」


「毛玉オオカミよ。お肉を食べるとおいしいけど、残念ながら毛皮は売れないわね。気持ち悪いし」


「まあ、あの見た目じゃな」


 とても納得だ。あんな髪の毛を体中から生やしたみたいなやつの毛皮なんて、ほしいわけがない。絶対チクチクするし。


「もうさ、マナトくんがパッパッと雷落とせば終わるんじゃ?」


 いいことを思いついた! みたいな顔で言っているが、それはできない。


「魔法ってのは物理法則をねじ曲げてるだけで、無視してるわけじゃないんだぞ? この辺の樹ってやたら電気通しやすいし背ぇ高いから、空から雷なんて落としたら絶対樹の方に落ちるんだよ」


 狙って落とすのが簡単なら、避雷針なんて面倒なものは作らず直接被害のなさそうなところに落とすっての。


「なんだぁ、残念」


 楽に倒せないとわかったからか、ライラのまとう空気が鋭くなるのを感じた。


 ライラも真面目にやってくれるみたいだし、いっちょ倒してやりますか。


 魔法については問題のなさそうなので、俺は結構テンションが上がっていた。俺の魔法は相当強い部類なので、その気になれば瞬殺だろう。


「そんだけムダ毛生やしてりゃ、火には弱いよな!」


 狙いを定めると同時に火を放つと、リーレがぎょっとした顔になった。


「マナト、あいつに向かって火は……!!」


 リーレが続けて何を言おうとしたのかは、わからない。だが、言いたいことは直後に嫌でも理解することになる。


 俺が右手から雑に放った炎は、狙いを違わず毛玉オオカミに向かって行った。そしてそのまま眉間に命中するかと思いきや、なんと大口を開けてその炎をまるっと飲み込んだではないか。しかもその炎を、俺が放ったものよりも大きくして放って来た。


「うわわっ!?」


 とっさに全員が屈んでいなければ、今頃焼死体が三つ転がっていただろう。ファロンは当たっても問題なかったろうけど。


「ま、マナトくん!? おねーさん死ぬかと思ったよ!?」


 涙目でそう訴えられると、さすがに罪悪感がこみ上げて来る。今のは完全に、俺のミスだ。


「悪いみんな……ちょっと油断した」


「相手は魔物よ。気をつけないと大変なことになるわ」


「だよね……ごめん」


 魔物にもタイプとか相性てもんがある。ゲームでもそうだ。いやまあこの世界がゲーム準拠だとは限らないけど、参考くらいにはなるだろう。もうちょっと、考えて行動しよう。やっぱり生き物が相手の時は、弱点とかを見極めないとな。


 そこまで考えた時、ふとある考えが脳裏に浮かぶ。さっそく、実行してみた。


『問題点:寒さに弱い』

 

「あ、やっぱり」


「え、なになに? 何したの?」


 毛玉オオカミの動向をしっかり見ながらも、ライラは興味津々な様子で尋ねて来る。


「いやさ、俺色んなものの問題点を見れる魔法使えるみたいなんだよ。で、こいつのを見てみた結果、弱点は寒さと判明したわけだ」


「ほう、婿どのは魔眼でも持っているのかの?」


「魔眼て……」


 なんだろう、すごい厨二病っぽい。神様が使ってるんじゃ、正式名称なんだろうけど。


「これが魔眼って言うのかはわからないけど、これ応用したら弱点見えないかなって思ったんだよ」


「それでやってみたら、本当に見えたってことなの?」


「呑み込みが早くて助かる」


 リーレが一発で理解してくれたのに、なんでライラは首傾げながら毛玉オオカミ威嚇してるんだろう。いや牽制してくれるのはありがたいけども。


「よくわかんないけど、つまり?」


「俺には相手の弱点が見えるってこと! で、こいつの弱点は寒さだった。つまり……」


 今度こそ油断せずに、しっかりと目の前の魔物に照準を合わせ魔法を放った。炎ではなく、指定した座標を凍らせる魔法を。


『グギャアッ!?』


 毛玉オオカミの足は、俺の狙い通り完全に凍りつく。全身を凍らせてもよかったのだが、今回の目的はこいつの肉だ。氷に閉じ込めたりなんかしてしまえば、肉を取り出すのが面倒になる。


 足が凍ったせいだけでなく、毛玉オオカミの動きが格段に鈍る。やはり寒さが苦手なようで、はたから見てもはっきりわかるほどに震えていた。


「ライラ、そのままそいつの首落とせる?」


「愚問だね!!」


 言うが早いかライラが剣を魔物に向かって振り下ろすと、頭がすっぱりと落ちた。残った胴体から血が噴き出す前に、ライラは器用に後ろ向きに大ジャンプをして距離を取っている。あまりに鮮やかな手際で、ライラが少なくとも弱くないことを知った。騎士なんてしているのだから当たり前だが、本人の性格のせいか強いとは思えなかったのだ。


 毛玉オオカミの首から出た血が全部出るのを待ってから、俺達はそいつを全部持って帰った。頸動脈を切ったので出血が激しく、血抜きはあっという間に済んだのでよかったと思う。あまり時間をかけていると、血の匂いで別の魔物が寄って来かねないし。


 今日の晩御飯は、久しぶりに、というかほぼ初めてとても豪華になりそうだった。


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