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最終話 ただただ普通に暮らしたい

 石でできた地下牢を、音もなく歩く男がいた。灯りの一切ないこの場所では、顔なんてまったく見えない。柔らかい布の靴でも履いているのか、男はほとんど音を立てずに歩き続ける。


 立ち止まったのは、とある独房の前。そこには、一人のやつれた老人が背中を丸めるようにして眠っているのが見えるだろう。


「……」


 男は老人が生きていることを確認すると、スッとふところに手を入れた。そしてゆっくりと引き出されたそれは、二十センチ四方の一枚の鏡。普通の鏡にあるはずの表裏はその鏡にはなく、両方が同じように鏡面となっている。ただし、映っている景色が表と裏で逆という、地球ではありえないであろう鏡だ。


 男がその鏡に、自分と老人の姿を映そうとした――のだが、それが叶うことはなかった。


「そこまでだ、ニセモノ!!」


 突如としてかけられた声に、男――ニセ王が驚きをあらわにした。だがそれも一瞬のこと。すぐに俺達を迎撃しようとしたのか、魔法を発動させようと手をこちらに向ける。が、

「残念でした、ってね!!」


 天井から降って来たライラが、ニセ王の手から鏡を叩き落としたのだ。甲高い破砕音とともに鏡は粉々になり、中からもやのようなものが立ち上る。そしてそのもやが収まった時、ニセ王の姿が歪んだ気がした。


「……本当に、あなたはニセモノなんですね」


 後ろからリーレがつがえた矢をニセ王に向けながら、静かに言う。ライラもうんうんと頷いていることから、同じようにニセ王の姿が変わったように見えたのだろう。ということは、これで魔法が解けたと見て間違いない。


 マジックアイテムを破壊され、ただの男に戻ったニセ王。こちらを射殺しそうなほど鋭い眼力で見詰めながら、ドスの利いた声で話しかけて来たではないか。


「……ふん、ガキの浅知恵に、まんまと引っかかったってわけか。満足か、オレの正体を暴いて」


「ああ満足だ。ここでお前をとっ捕まえて適当なやつに引き渡せば、反逆者は俺達じゃなくお前だって証明できるからな。自首するなら今のうちだぞ、ニセモノ」


「はっ、ガキのクセに偉そうに……」


 余裕ぶってはいるが、よく見れば何度も腕を組みかえて落ち着きがない。おそらく、自分が追い詰められた自覚があるのだ。せわしなく目をあちこち向けて、脱出経路を探していることからも間違いない。


「なんでこんなことしたん? あんたが何したかったのか、あたしにゃあサッパリわからんのだけど」


 狸寝入りしていた本物の王を逃がしながら、ライラが尋ねた。一応、時間稼ぎのつもりなのだろう。本物の王が堂々と逃げているので、あまり意味はないようだが。


 ニセ王はといえば、すでに諦めモードなのかライラの質問に律儀にも返答したではないか。


「オレの本名は、加藤幸生(かとうゆきお)と言ってな。地球の人間なのだよ」


「お前も!?」


「やはりお前達もか。電気分解などとこの世界の人間が知らぬ知識を持つから、もしやと思えば……それで得心がいった」


 まさか、こいつも地球人だったとは……だったら、なおさら不思議だ。なんで異世界に来て、そこの王に成り代わろうとしたんだ?


 俺の口には出さなかった疑問を組みとったのか、つまらなさそうにニセ王――加藤は答えた。


「せっかく異世界になんて来れたんだ。好き放題したいじゃないか。だというのにこの世界と来たら……いくらなんでも不親切過ぎるだろう。チートもなければ突出した能力もなく、スキルもない。この世界は、どう考えても失敗作だ。だったらオレの手で、正しい世界にしなくてはならないだろう?」


「……ぜんっぜん意味わからん」


 そんなくだらない理由で、人一人の居場所を奪い監禁したのか。しかも、よりよってこの世界を馬鹿にしやがった。ふざけんじゃねえぞ、こいつ……!!


 俺のつぶやきに、加藤はこれみよがしに嘆息した。


「やはり、お前はただのガキだな。こんなところにいきなり放り込まれて、どうにかできる力を求めることの、何が悪い? オレは異世界に来ることさえできれば、もっと自由に暮らせると思っていた。もっとしたいことができると思っていた」


 狭い独房で両手を広げ、ニセ王は陶酔しきった顔で演説を続ける。


「だが、現実はどうだ? 何もできないし自由もない。オレがしたいのは! 大したことをせずとも褒め称えられ、勝手に女が寄って来て、そして地位も名誉も手に入る、そんな暮らしだ!」


「ふざけんじゃねぇ!!」


 骨と骨がぶつかる鈍い音が、独房に響いた。数秒遅れて自分が殴り倒されたということに気がついた加藤は、頬に手を当て床に這いつくばったまま固まっている。


「そんなこと、あるわけねぇだろ‼! 都合のいい妄想が現実にならないから、人の人生乗っ取って好き勝手しようとか幼稚園児でもムリだってわかるぞ!! それをいい歳した大人がグチグチグチグチ……!! 俺は、この世界が好きだよ。何もなくても、地球より不便だったとしても。俺はずっと、この世界で生きて行く。これからも、ずっと。俺が大好きなみんなのいるこの世界を、失敗作なんて冗談じゃねえ!!」


「な、なぐっ、貴様よくも……!」


 屈辱に顔をゆがめた加藤は、怒りに燃える瞳で俺に魔法を放った。


「残念じゃが、我が夫に手を出す者は容赦せんぞ」


 低い声でそうつぶやいたファロンが射線に割り込むと同時、加藤が放った魔法を消し飛ばした。


「がふっ!?」


 消し飛ばされた魔法の余波を一人もろにくらってしまった加藤は、白目を剥いてしまった。


 そしてその後、すぐに部下の騎士を伴って駆け付けた本物の王の力により、加藤はそのまま独房に収容されることになったのだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 加藤が捕まり、俺達が反逆者だという容疑が晴れた三日後。俺達は、ようやっとヴァラ村に帰って来ていた。ここを出ることになってからさほど経っていないはずなのに、やけに懐かしく思える。


「それにしても、よく元通りになったよなぁ……」


 俺達にかかった容疑は全て晴れ、更には褒美までもらうことができた。そのうえ、ライラは騎士に復職できたのだとか。城から逃げる時に壊してしまったものの弁償なんかは、王さまが気前よくチャラにしてくれた。これで本当に、全部元通りになったと言える。


 しみじみとつぶやいた俺の言葉に、リーレも笑いながら頷く。


「ええ、そうね。私もこの家に帰って来ることができて、とっても嬉しいわ」


「なんだかんだで、俺としてもここが落ち着くんだよな」


「あたしもだよ」


「いや待てライラ。あんたんちは別にあるだろ」


「いーじゃん、固いこといわないの。家主のりっちゃんがいいって言ってくれたんだし」


 ライラの言葉にリーレを見れば、苦笑いが返って来た。ライラのことだから、かなりしつこくしたのだろう。本当に面倒くさい人だ。


「我も、ここが落ち着くんじゃがのー」


「ファロンは……まあ、いいか」


「あたしと扱い違くない!?」


「当たり前だろ」


 ファロンはここにいられなくなったら、下手をすれば森で一人ぼっちで暮らさないといけなくなってしまうのだから。


「むー、父様がいれば完璧なんじゃがのー……今どこにいることやら」


「……ん? 待ってファロン。親父さん死んだんじゃ……?」


 確か前に、遠い空の向こうにいるとか言ってたような……


 ファロンはこてりと首をかしげた。


「生きておるぞ?」


「えぇ!? じゃあなんでお空の向こうとか言って……」


「父様と母様がケンカをしての。母様が空渡を使って別の時空まで逃げたのを、父様もおいかけたのじゃ。空の向こうは、異世界につながっているからのー」


「そういうことかよ……!!」


 でもまあ、生きてるならその方がいいか。


「そうだ、ユースから美味しそうなお菓子が届いたの。みんなで食べましょう」


「お、いいねさんせー!! なんならレフィーも呼んじゃう?」


「お菓子とな! 我は楽しみじゃぞ!!」


 騒がしくて楽しい日常が、たしかにそこにはあった。



 俺は幸せを噛み締めながら、ただただ普通に暮らすのだった。



 ――――――完


 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。本日より投稿開始の新作、『異文化研究部の異世界攻略記』もよろしくお願いします。

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