三十三話 地下牢
俺達を国家反逆者として捕えようとする王の目論見をどうにかすべく、意気揚々と城へ向かう。まずは、どうやって城に侵入するかが問題だ。
「ファロちゃんに乗って、上の階からってのは?」
「普通に撃墜されるだろ。矢か魔法かまではわからんけど」
「ならうちが風の魔法で、見張りの騎士をみじん切りにすれば――」
「それ侵入できたとしても、違う理由で捕まるよね!?」
国家反逆とかではなく、普通に殺人罪だ。俺達が悪いことをしていないと証明するか、または王の正体を暴きに行くのに、それではただの犯罪者である。なるべく穏便に侵入し、できることなら王本人とだけ話し合いたいものだ。それが絶対にベストである。
「じゃあ、騎士の人に変装するというのはどうかしら。それなら、穏便にお城の中へ入れるわよ」
「でも、それには鎧っつーか、チェーンメイルがいるだろ。ライラは未だに着てるからいいけど、俺達の分が用意できない。ライラがまだ騎士をやっていればできたかもしれないけど……」
「んー、今から人数分用意はキツイかなぁ。あたしんちが押さえられてなければ、予備が一着あるんだけど。それでもあれ、あたしサイズだから着られる人いなくない?」
確かにそうだ。ライラのはこの中では一番身長が高く、辛うじて俺ならどうにかってところ。それでもあちこち余るので、かなり不自然だろう。
「もういっそ、城ごと壊してしまえばよくないかの?」
「だから、今回そういう乱暴な手段はダメ。わかった?」
「むぅ……」
むくれて黙り込んでしまうファロンに代わって発言したのは、それまで何かを考えていた様子のユースだ。
「あ、あの……多分、なんですけど。ボクの土の魔法で、地下からだったら入れるかもしれないです」
「ホントか!?」
「はい。ただその、向こう側がどんなところまでかはわからないので、そこが騎士さん達の休憩室とかだった場合はとても困ったことになりますけど……」
「いや、入れるんならそれでもいい」
ここで何もせず、ただ無為に時間を過ごすよりもよっぽどマシである。それでもし、たくさんの騎士と遭遇した、なんてことになったら……その時は、覚悟を決めて戦うしかない。
「よし、じゃあユース、頼む」
「はい!」
ユースはいつになく元気な返事をすると、こっそりと見張りの騎士の死角へと向かった。ちょうど茂みに隠れる場所で、そこならば地下への道を作ったところで、見咎められることはまずないだろう。
ものの数分ほどで、ユースがやや疲れた様子で戻って来た。
「で、できました……!」
「でかした!」
早速ユースが作った抜け道へと足を運ぶと、予想よりも遥かにしっかりとした階段が存在していた。
「この先はどうも、地下牢のようです」
「地下牢?」
「はい。騎士さん達の話す声が聞こえたのですが、なんでも自分のことをこの国の王だと言い張る狂人がいるらしいです。それで勝手に城に侵入しようとしたので、捕まったのだとか」
「そいつだ!!」
ユースだけが事情を呑み込めず首をかしげる中、他のメンバーは得心したらしく頷いていた。
「その人の方が、本物の王様ね。たぶん、ニセモノの王様が化け直すのに必要とかで生かされているんだわ」
「それなら辻褄は合う。なら、その王様にかかってる魔法が解ければ」
「ニセモノの王様も、元に戻る可能性が高いってわけね」
なら、一刻も早く地下牢へ行って、その王様に会わないと。
俺達はユースが作ってくれた階段を、なるべく音を立てないように、かつ急いで駆け下りた。
階段が途切れた先は、ユースの言った通り地下牢だった。どうやらここは一番奥の独房のようで、ここに捕えられている者はいない。つまり、カギがかかっていないということだ。
扉のきしむ音すら立てないように注意しながら、ゆっくりと先へ進む。地下牢はスカスカで、人の気配が薄い。罪人が少ないのか、あるいは――これについては、想像もしたくない。
「ここじゃの」
ファロンが小声でつぶやき指さしたのは、だいぶ入口に近い一つの独房だった。
冷たい鉄格子の中で、疲れ果てたように眠る一人の老人。元は恰幅がよかったと思われるのに、今はげっそりとやせ細り見る影もない。ストレスのせいか頭髪もほとんど残っておらず、この老人が王だと言われたところで信じるのは難しいだろう。
どうやってその老人をここから出そうかと考えた矢先、カチャッとかすかな音とともに鉄格子の扉が開いたではないか。
「え……なんで?」
「へへん! あたしのスキルだぜ! 前に捕まえた泥棒に、開け方教わったん」
「それは職務的によかったのか……?」
ライラは騎士だったはずなんだが。なんでピッキングのスキルを、それも泥棒から修得しようと思ったんだろう。謎だ。
ともかく、ライラの活躍により老人を脱出させるのは容易になった。
「あの、すみません」
とりあえず寝てるらしき老人に声をかけると、もぞもぞと動き始めた。
「……な、なんですかあなた達は」
力のない声でそう言った王は、落ちくぼんだ目をいっぱいに見開いていた。今自分の身に怒っている出来事が、理解できないらしい。そりゃそうだ。捕まっていたはずなのに、目が覚めたら牢の戸が開いている。しかも、見知らぬ子供が何人もいるのだから。
ライラとリーレに目線で問うと、二人共この人が老人には見えていないようで、首をかしげていた。本当に、この人が本物の王なのか判断に困っているのだろう。
説明はあまり得意ではないので、手短に要件を告げることにする。
「俺はマナトっていいます。あなたを助けに来ました。あなたが本物の王様なんですよね?」
そう言った瞬間の王の反応は、劇的だった。
「そ、そうなんですわたしが王なんですよくぞ信じてくださいました!!」
今にも泣き出さんばかりの王に抱きつかれ、困惑するしかない。
泣いているままでは話にならないので、どうにか王をなだめにかかる。数分かかってどうにか落ち着いてくれた王を牢から引っ張り出し、再び茂みの中で作戦会議を始める俺達一行。
「わたしがこの国の、本当の王なんです。ある日夜中に、突然あの男に妙な魔法をかけられて……わたしとあの男の見た目が、そっくり入れ替わってしまったんです」
「またへんてこりんなマジックアイテムを使ったのー。恐らくじゃが、それは『映し姿見』じゃな。表と裏に映った者の容姿を、そっくりそのまま入れ替えるものじゃ」
ファロンによれば、月に一度の割合でマジックアイテムを使う必要があるらしい。そうしないと、時間経過で自然に魔法が解けてしまうのだとか。これでニセ王が本物の王をわざわざバレる危険を冒してまで生かしておいた理由にも、納得がいく。魔法をかけ直すためには、本物の王の存在が必要不可欠だったのだ。
マジックアイテムに縛りがあるのなら、それを利用すれば案外簡単にニセ王を攻略できるかもしれない。
「王さま、前にニセ王が来たのはいつ頃ですか?」
俺の質問に、王さまは少し考える素振りを見せた。独房の中では時間の経過がわかりにくいから、覚えていないのかもしれない。
覚えていなかったらどうしようと考え始めた辺りで、王は思い出してくれたらしい。
「……ハッキリとは覚えてないのですが、ちょうど一か月くらい前だったと思います。ですので今日か明日、あの男はわたしを訪ねて来るかと。時間はいつも決まって、日付が変わるころです」
時期も時間もわかっているのであれば、話は早い。ニセ王がマジックアイテムを再び使うために王の元へ来るのを、どこかで待ち構えてやればいいのだから。
「ってことは、一回この人には牢に戻っていてもらわなくちゃじゃね? いないとマズいでしょ。せっかく出てもらったとこ、超悪いけど」
「まあ、そうなるよな。ニセ王に不意打ち喰らわすにしても、本物の王さまがいないと油断してくれないだろうし。いないって気づかれた時点で、絶対に警戒されるからな」
待ち伏せがどれほどうまく行くかわからないが、やってみるしかない。でないと、俺達はいつまでもニセ王に追われ続けることになってしまう。そんなのは、絶対に嫌だ。俺はただ、この世界でただただ普通に暮らしたいだけ。英雄扱いなんてやめてほしいし、犯罪者なんてもってのほかだ。ただ普通に暮らすことさえできれば、それで満足なのだから。




