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三十二話 まさしくとんぼ返り

 レフィーから連絡をもらった俺達は、速攻でファロンに乗って王都スタードまで戻って来ていた。運のいいことに今日の天気がくもりだったため、分厚い雲が空を飛ぶ俺達、というかファロンの姿を隠してくれたのである。


「つーか、マジモンのとんぼ返りだよねー。だってファロちゃんに乗って帰って来たし?」


「は? なんでそこがつながるんだよ」


「いやだってさー、わっかんないかなぁ……龍と飛ぶのを、英語で言ってみ?」


「ドラゴンに……フライ?」


 だからなんだと視線で問うと、ドラゴンという単語に反応したファロンがむくれていた。


「我はドラゴンではないと――」


「あーうんわかってるわかってる。向こうの言葉の話だよん。で、二つの単語をつなげると?」


 ファロンの怒りを適当にいなしたライラが、わけのわからないことを言って来る。というか今、もっと大事なことを考える場面なんだけど……


 突っ込んだところで、相手はライラだ。無視した方が面倒なことになる。それを知っているからか、後ろの三人も微妙な顔で黙っていた。ということは、俺が答えない限り、この話は終わらないわけで。ならばと仕方なく、ライラの要求に乗ることにすr。


「ドラゴンフライ……どっかで聞いたな。なんだったけ、確か、空飛んでる……虫だったような……ってああ、そういうことか」


 俺の記憶が確かなら、ドラゴンフライとはとんぼのことのはずだ。だからまさしく、とんぼ返りってことか。


「驚くほどくだらな」


「ヒドッ!?」


 渾身ギャグなのか、それとも思いついたこと自体を褒めてもらいたかったのかなんなのか、よくわからない時点でどうかと思う。


 色々言いたいことはあったが、ライラのリアクションなんかよりも王のことをどうにかするのが先決である。


「んなことよりも、さっさとレフィーと合流しないと」


 手紙には地図が描かれていて、そこは前に泊まった宿屋だった。レフィーはどうするかによっては返事しろ、とのことだったのだが、それに関しては割とあっさり解決した。届いた手紙の裏に返信を書いたところ、無事に消えたので届いたのだと思われる。いったいなんの魔法を使えばあんなことが可能なのかが気になるが、今はそれどころではない。問題が解決してから、ゆっくりと訊こう。いくらでもその機会はある。


 宿屋に着くと、すでにレフィーが待ち構えていた。


「お、ずいぶんと早かったッスね。もっとかかるかと思ってたッス。徒歩で行ったんじゃないッスか?」


 久しぶり――というわけでもないので、レフィーは前に見た時と全く変わっていなかった。服だってやたらと露出の多いフリフリの服で、寒くないのかと思ってしまう。年があけたばかりで季節は冬であり、どう考えてもへそ出しの服では風邪を引く。レフィーのことだから、何かしら魔法でどうにかしてるんだろうが。もしくは、服そのものに秘密があるか。


 詮索はあとにして、手短に理由だけ告げた。


「曇ってたから、ファロンの背中に乗れたんだよ」


 そう説明すると、レフィーはポンと手を叩いて納得の表情を浮かべた。


「あー、なるほどッス。そんな方法もあったッスねー。とゆーかファロさん空まで飛べるとか、超最強ッスよね。今度、うちも乗せてくださいッス」


「別に構わんぞ。まあ、我の背中は滑るから、風の魔法辺りで身体を固定する必要があるがのー」


「それなら問題ないッス。うちの得意分野なんで」


 と、そこまで話してから、ようやくレフィーは俺達の一番後ろで小さくなっている人物に目を向けた。最初からそこにいたのに、誰? ともなんでここに? とも訊かないところが、レフィーのすごいところだマイペースっぷりがハンパない。


「んで、そっちの可愛らしい男の子は誰ッスか? うち、初対面ッスよね?」


 よく一発で男だとわかったなと感心していると、ユースが慌てた様子で口を開いた。


「はい、初対面で……えと、マナトさん達に助けてもらったお礼がしたくて、強引について来ちゃって……あ、あの、それで、ボクはユースって言います。その、なんと言いますかフルネームは名乗るなって言われてて――」


「いいッスいいッス。とゆーかそこまで言っちゃったら、ユーくんが貴族だってバレバレっすよ。そこはこう、どうにか誤魔化さないとッス」


「あ、はい。その、気を付けます」


「うちはレフィーっていうッス。好きに呼んでいいッスよ」


 ユースはレフィー相手に緊張しまくりだったが、どうにか自己紹介を終えた。いきなりレフィーみたいなマイペースな人物に声をかけられて、困惑したのだろう。初めて見る自分よりも、違う質問を優先させたのもあるかおしれない。


とにもかくにも、今重要なのは王の動きだ。


「それで、手紙に書いてあった件だけど。王は俺を指名手配しただけか? それとも、もう何か具体的なアクションを起こしたのか?」


「うちの調べによれば、もう明日には捜索隊を編成して、隣の国まで送る予定ッスね。ここまで早いと、さすがに国内のあちこちで疑問の声が上がってるッス。まあ、表立って言えば自分が反逆者扱いされかねないんで、こっそりとッスけど。マナっち達が逃げた方向は、王様も見てたんスよね?」


「ああ。わざと見えるように飛んでもらったからな」


 そうしないと、ヴァラ村に帰ったと思われて村が焼き討ちされる恐れがあったからだ。けどまさか、王がこんなにも早く俺達を捕まえに来るとは思ってもみなかった。やはり王の狙いは、俺だ。ライラはこの世界の騎士の恰好をしていたから伝わっていないだろうが、俺は違う。王相手に電気分解の話をさわりだけでもしてしまったし、向こうも疑っていた。

 ここまで考えて、一つどうしてもみんなに訊かなければならないことができた。


「なあみんな。王が狙っているのは、多分俺一人だと思うんだ。俺が同じ地球人だから、自分と同じことをしようとしてるんじゃないかと、戦々恐々なんだろう。それなら、行動がやけに迅速な理由にも説明がつく」


「王様と同じことって言うと、王座の乗っ取りかしら?」


「ああ。てことは、あいつの狙いは俺だけってことだ。なら、みんなが俺に協力する必要なんて、まったくないわけで――」


「必要性も理由も、そんなものはどうでもいいのよ。私はマナトについて行くって決めたもの。マナトは間違っていないわ。なら、私はマナトの力になりたい」


 凛とした態度で言ったリーレが、とても眩しく見えた。こんな風に誰かに全力で肯定してもらえるだなんて、地球にいた頃には夢にも思わなかっただろう。


「ま、あたしもそんな感じかな。マナトくんには世話になったしね」


 何も気負った様子もなくにライラが言えば、


「我もじゃな。良き妻とは、夫を支えることができる者じゃと、昔母様が言っておったしの」


 ファロンが初めて母親を引き合いに出して頷き、


「うちも店というか、街全部守ってもらった恩あるッスしねー。もしマナっちがいなかったら、多分うちら死んでたッスし。その恩くらいは返させてほしいッス」


 レフィーがいつもの調子で告げ、


「ぼ、ボクだってすごく助けてもらって……! マナトさんがいなければ、父上も母上も姉上も、みんな死んでいました。だからボクは、マナトさんに恩返しします!」


 ユースが真剣な瞳で宣言した。


 俺なんかについて来てくれる人が、五人もいる。それは国を相手取るには、いささか以上に少ないだろう。けれどここにいるみんなとならば、どんなことだってできる気がした。いや、どんなことだって、やってみせる!!


「なら、頼む。みんな、俺に力を貸してくれ!!」


『喜んで!!』


 さあ、反撃の開始だ!!


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