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二十八話 洞窟にいいイメージは正直ない

 ユースに全財産で雇われた俺達は、森の奥にあるという洞窟に向かっていた。この洞窟にもちゃんと名前があり、クーへというらしい。


 それはそれとして。道案内のために先頭を歩くユースと、前衛のためその隣を歩くライラから、俺はそっと離れた。後ろの二人に、ちょっとした用があるのだ。


「なぁリーレ、ファロン。なんで二人とも、ユースが男だってわかったんだ?」


 会話をよくよく聞いていれば、リーレはユースのことくんづけだし、ファロンなんてハッキリ小僧呼ばわりだ。あそこまで断定できた理由が、俺には正直わからない。


 俺の質問に何言ってるんだこいつみたいな顔をしていた二人だったが、何かに気づいたのか顔を見合わせた。


「そっか、マナトはええと、異世界? の人間なのよね。それじゃわからないのか」


「そうじゃの。どこから来たかは知らんが、この世界の人間ではないのならば、仕方あるまい」


「え? 何、どういうこと?」


 本気で意味がわからず困惑する俺に、リーレが実に端的な答えを返した。


「ユースって、男の子にしか付けない名前なの」


「ああ、そういう……」


 実に単純な理由だった。多分、日本でいうところの『ゆうた』とか『しゅんすけ』とか、その系統の名前なのだ。そんな名前の人がいれば、いくら見た目が女子でも男だと思うだろう。それが本名なら、だが。ユース本人も小僧呼ばわりで否定しなかったので、実際に男なのだと思われる。


 俺達が後ろでそんな会話をしている間に、目的地であるクーへ洞窟に着いていたらしい。


「ここがクーへ洞窟です」


「いかにも洞窟! って感じの洞窟だな……」


 もしくは、ダンジョンの入口ってとこか。ゴツゴツとした岩肌の崖に穴が開いてるこの感じ、どっかで見たような。なんというか……初代だと秘伝の技的なやつとか必要そうで、さらに中へ行くと、コウモリ的なモンスターばっかりとエンカウントしそうなやつだ。

あれ、地味にイラつくんだよな。欲しいのはお前じゃねーっての! って、何回ゲームに向かって突っ込んだか……いやまあ今の最終進化とか超好きなんだけどな? 図鑑的にはもうお腹いっぱいです、みたいな。


 今はそんな益体もないことを考えている場合ではない。できるだけ早くこの洞窟を抜け、この奥のプロシ神殿に行かなくてはならないのだ。そのうえゲームと違ってクエストが終わったから街までスキップ、なんてのはできないので、また同じ道を引き返す必要がある。それを考えると、こんなところでもたもたしている場合ではない。


「ユース、灯りとか持ってる?」


「あ、はい! 持ってます!」


 慌ててカバンから取り出したのは、黒いカンテラ。あれ、ランタンだっけ。何か違いがあった気がするけど……どっちでもいいか。とにかく、手で持てる携帯用のランプだ。この世界、こんなのあるのか。こういうの見ると思うんだけど、この世界の時代設定がいまいち不明だ。まあ異世界なんだから、地球の歴史と違う発展してもいいんだけどさ。そもそも魔法の存在からして、地球と違うんだし。


 そしてそのランプ、さっそく地球とは違う方法で点灯された。


「輝け」


 ユースがランプに向かってささやくと、ポッと白い光が灯ったではないか。


「あれ、一体どうやったの?」


 ひっそりとリーレに訊いてみた。ユースがどんな人間なのかわからない以上、俺の素性に疑問を持たれるような発言は、聞かれない方がいいと判断したためだ。


「あれは中に発光水晶っていうのが入っていて、魔力を浴びせると光るの。光の強さといつまで光っているかは、込めた魔力の量で変わるわ。光の色は、水晶の質次第ね。高級なほど白に近くて、安いほど赤いに近いの」


「なるほど」


 てことはあのランプ、かなり高い部類なのだろう。蛍光灯みたいな白だし。


「というか、リーレの家にもあったじゃろ」


「え、マジ!?」


 ぜんっぜん気がつかなかった……そういや、天井からランプが釣り下がっていたような。もしかしてあれか? 灯りを点けるところを一回も見てないから、てっきり火を入れてるもんだとばかり。色もオレンジだったし。


 驚く俺に、リーレは苦笑いだ。


「まあ、うちにあったのは中古の安物だったしね。ずいぶんと赤かったから、気がつかなくてもムリはないわ」


「何話してんのー? 早く進もうぜー!」


 こちらが話している間に、ライラはすでに洞窟内に侵入していたらしい。ムダによく響く声が、ハッキリと聞こえて来た。


「おう、今行く!!」


 それほど重要な話だったわけでもないので、適当に切り上げてライラの後を追う。ランプを持っているユースも、半ば強引にライラに引っ張り込まれたらしく、追いついた俺達を見て安堵していた。パッと見は頼りにならなさそうなライラと二人きりだったのが怖かったのか、それとも純粋にライラのテンションに疲れたのか。


 後者だろうなぁ。ユースもライラのバーサクっぷり、間近で見ていたわけだし。


 かなり明るい光源のおかげで、洞窟内部はよく見えた。


 クーへ洞窟というそこは、中もザ・洞窟! だった。ゴツゴツの岩に、くねくねと曲がる道。何本にも別れた箇所もあるし、案の定コウモリな魔物も出て来た。吸精(きゅうせい)コウモリと呼ばれるそいつらは、血ではなくマナを吸い取るらしい。噛まれると生命力を段々と奪われ、最終的に死ぬこともあるそうな。


 が、そんなのは俺達には関係ないと言ってよかった。


「ひゃっはー!! しっねー雑魚ども!!」


 ヤバイお薬でもキメていそうなセリフを吐きながら、ライラが一人でばったばったと敵をぶった斬ってくれるからである。理由は定かではないが、ストレスでもたまっていたんだろうか。一番ストレスとは無縁そうなのに。


「ちょろいわ、マジちょろい」


 天井から降って来た吸精コウモリを一刀両断したライラは、さほど疲れた様子もなくつぶやいた。


 ていうかあの、目が据わってるんですけど。大丈夫ですよね? お薬とかキメてないですよねマジなやつで。


 ものすごく心配になるが、それでも敵を倒し続けてくれているのは間違いない。おかげで、ライラ以外の四人全員、出番がないくらいである。


「ライラ、あんな強かったかのー?」


「元から弱いわけじゃなかったが……にしても、なんかすごいよな」


「そうね。一体どうしたのかしら」


 後ろでオロオロするだけで会話に参加しようとはしないユースは、不安そうにライラを見ていた。もしかすると、単純にライラのあまりのバーサクっぷりが怖いのかもしれない。


だからと言って、やめろとは言えないし……


「ん? どしたのみんな?」


 俺達が若干遠巻きにして見ているのに気づいたのか、不思議そうにしているライラ。遠巻きにされているのはわかっても、理由に心当たりはないらしい。


「え、あーいや、聞いてたより、ここいらの魔物弱いなーって」


 魔物が弱いと言うより、ライラが強いだけな気もするけど。俺達必要ないみたいだし。


 行き当たりばったりでそんなことを言ったのだが、あながち間違っていなかったようで、ライラはうんうんと頷いていた。


「そーなんだよねー。なんか超弱いんだよ。しかも、このなんだっけ、きゅうしんコウモリ?」


「吸精よ」


「そうそれ。そいつらしか出て来ないって、おかしくない? 別にここ、こいつらが牛耳ってるわけでもないんしょ? あたしが昔先輩から聞いた話だと、少なくとも人クラスにデカいカニと、小さいけどうじゃうじゃ出て来る固いカメがいるはずなんだけど」


「大岩ガニと軍隊ガメね。確かにどっちも、この辺に生息してるはずの種類よ。あとは毒手サンゴもいたと思うわ」


 水が近くにあるわけでもないのに、カニとカメに、サンゴまで出て来んのかよここ。いや出て来てないけど。湿気がすごいからか?


 魔物に詳しいリーレがそう言うんなら、間違いないのだろう。だがその魔物がいない理由は、サッパリわからなかった。考えてもわからないなら、考えても仕方がない。ここから後戻りするのもなんかあれだし、進むしかないだろう。


 なんとなく嫌な予感はしていたのに、俺はそれを無視してしまった。だが、他に選択肢はなかったと言っていい。なぜなら、この洞窟を抜けなければ目的地にたどり着くことはできないのだから。


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