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二十六話 厄介な出会い

 クレーの街に泊まった翌日。別の世界へ行くための研究をしているという国へ行くことにした俺達だったのだが、しょっぱなから問題があった。詳しく調べてみたところ、この国に行くのに徒歩だと軽く二ヶ月かかるのだ。

タイミングを見計らってファロンに頼み、背中に乗せて行ってもらうという方法もあるにはある。が、ファロンの体力や目立たないようにすることを考えると、どうしたってずっとそうやって移動するわけにはいかなくなる。


「だから歩くしかないんだよな、基本……」


「マナト、今何か言った?」


「ああいや、独り言」


 冷静に考えてみると、このパーティーの中で俺がもっとも体力がないんじゃないだろうか。ファロンは人間じゃないし、リーレは俺と出会うまで一人で生きるために色んなことをしていた。そのおかげが、俺よりよっぽど体力がある。ライラは体力バカというか戦闘方面に全振りしているので、リーレよりも体力があるのだ。

つまり、この中で一番軟弱なのが俺ということになるわけで。クレーを出発してから、まだ二時間ほどしか経っていないのに、すでに俺は疲れ始めていた。


 メンバー唯一の男子なのに、最初に音を上げるってどうよ……すごく情けないよな。ライラに見てもらった時にハッキリしたけど、俺って体力がある方じゃない。元から運動は嫌いだし、地球じゃ本ばっか読んでたからなぁ……


 過去の不摂生を嘆いたところで、疲れが取れるわけもなく。気分が落ち込んだせいか、余計に疲労を感じるほどだ。こういう時は、気を紛らわせるためにも雑談でもしているのが一番だ。

 そう思って話題を探そうとしたところで、ちょうどライラが伸びをしながら口を開いた。


「にしても、やっぱ街道って歩きやすいわー。クレーの手前の森とは大違いだね」


「そうね。天気もいいし、お昼寝でもしたくなる陽気だわ。まあ街道でも魔物が出ることは割とあるし、油断はできないのだけど」


「え、マジ? この世界の商人とか旅人、どうしてんの?」


 よく小説とかでも街道に魔物が出まくるやつがあるけど、ああいうのって誰が魔物を退治しているのか不思議だったんだよな。かなり偉い商人とかが、ロクな護衛もつけずに街道走ってるやつなんかは特に。


「あらかじめ騎士の人に討伐を頼むか、傭兵に護衛してもらって行くわ。私達には必要ないけど」


 そりゃそうだ。この辺の道には草木がかなり生い茂っているのだから、ファロンが本気を出せばたいていの魔物には負けない。


「ただ歩いて行くのは退屈なのじゃー。のじゃのじゃー。何か面白いことは起こらんかのー」


「面白いことって、例えばなんだよ?」


「む? そうじゃな……地面からドラゴンが湧いて出て来るとかかのー」


「勘弁して!?」


 そんなことになったら、戦うのが大変だ。もしファロンが一人でどうにかすると言ったところで、全力で断らせてもらおう。というかファロン、ドラゴン好きじゃないんだったよな? てことはもしかして、ストレス発散のためだけにボコボコにする気じゃ……


 その場合、俺はどうすればいいのか考えていた時だった。それまでこちらを見ていたファロンが、遠くを見て固まったのは。ファロンがこんな反応をするのは、何かがあった時と決まっている。


「ファロン、何があった?」


「いやの、少し遠くに人間の気配がしてのー。あと、大量の魔物じゃの。おそらく、その人間が魔物に追われてるのじゃな」


「マジで!? じゃあ早く助けないと!!」


「? 見知らぬ人間じゃぞ?」


「んなこと関係あるか!!」


 俺とファロンの会話を聞いていたリーレ達も、走り出した俺のあとを追って来てくれた。みんながいれば、どれほどたくさん魔物がいようと関係ない。絶対に全部倒してやる!!


 仕方なさそうなファロンがナビゲートしてくれ、すぐに魔物に追われている人のところへたどり着いた。


「だ、誰か、誰か助けてくれる人はっ……!!」


 そこにいたのは、泣きながら数十匹はいる魔物に追いかけられる一人の少女。少なくない時間追いかけ回されたのか、それともケガでもしているのか。どことなくふらついている。


少女を追いかけ回しているのは、雑多な魔物で統一性も何もあったもんじゃない。なぜ追いかけられているのかはわからないが、早く助けないと大変なことになる。


「これでも喰らえ!!」


 俺は走りながら、とっさに雷を落とす。それにより半分近い魔物が断末魔すら上げられず、プスプスと煙を上げて倒れ込んだ。


「マナト、ナイス!!」


 落雷により怯んだ魔物に、リーレが雨あられと矢を降らせた。矢継ぎ早に放たれた矢は、すべてが魔物の急所に命中する。その矢の雨の中、すべてをかわしたライラが踊るように突っ込んで行っていた。


「はーっはっはっは!!」


 リーレが射かける矢の邪魔にならないように動き回りながら、ライラは魔物の首を次々に落として行った。毛玉オオカミの時とは見違えるような動きで、大量の魔物相手でも問題なく戦えるようになっている。溶解スライムの時に何もできなかったのが、よほど悔しかったのだろう。時計塔でも、後悔していたようだし。


 それでバーサーカーになってるとこが、ライラっぽいっちゃぽいけど。


 ともかく、ライラの獅子奮迅の活躍のおかげで、魔物はあっという間に殲滅(せんめつ)された。俺やリーレ、ファロンもちょこちょこ攻撃していたが、バーサク状態のライラには敵わなかった。


「よっしゃ全滅!」


「お疲れさま」


「サンキュー、マナトくん」


 ふぅっと一息吐いたライラが剣を納めたタイミングで、こわごわ戦闘を見守っていた少女が声をかけて来た。


「あ、あの、助けてくださって、ありがとうございます……」


 か細い声で言う少女は、おそらく十三、四歳ほど。ボブカットの真っ赤な髪に金の目をした、大人しそうな子である。服も動きやすいとは言い難い、裾の長いグレーのローブだ。シンプルなデザインだが布地が上等なものなので、お金持ちなのかもしれない。斜めがけにされたカバンも使い込まれてはいるが、どこにもほつれはなく頑丈そうだ。


「いやいや、当然のことをしたまで。これも騎士の務め――って、やめたんだったわ。じゃ、気分ってことで」


「すげーおおざっぱだな……」


 ライラが適当過ぎるせいで、キョトンとしてるじゃん。


 女の子はしばし首を傾げていたが、不意にハッとした表情になった。


「ご、ごめんなさい。今はあの、お礼したくてもできなくて……」


「いやいいよ、そんなの」


「いえ、ボクなんかを助けていただいたんです。お礼はさせてください」


 ……ボク? もしかして、男?


 僕っ娘なのか男の子なのか判断に迷うが、本人に訊くのもはばかられる。とりあえずどちらでも驚かないように心の準備をしておきながら、不自然にならないように会話を続けた。


「お礼って言われてもな……別に見返りがほしくて助けたんじゃないし」


「ええ。あなたを助けたのは、本当にたまたまだもの。だから、気にしなくてもいいのよ?」


「そ、そんな! 助けてもらったのにそのまま帰したりなんかしたら、父に叱られます!! あの、ボクの用事が終わるまで、待っててもらえませんか!? そうすれば、お礼できますから!!」


「そう言われても……そもそも、用事って? 何か危ないことか?」


 普通、あれほど大量の魔物を人一人が引き付けるということはない。同じ種族ってわけでもなかったのだから、途中で魔物同士が乱闘を起こすだろう。なのにこの子一人にあれだけ魔物が群がっていたってことは、何かヤバイことに首を突っ込んでいる恐れがあった。


 俺の質問に困ったような顔をしていた少女|(?)だったが、助けてもらったからには正直に答えるべきだとでも思ったのだろう。意を決した顔で答えてくれた。


「この近くに、洞窟があるんです。そこを抜けた先にある、プロシ神殿跡地の奥。ボクはそこに生えていると言われている、『虹色つゆ草』を採りに行くんです」



 自分がしてしまったことの、責任を取るために。



 そう言った顔は、悲壮な決意に満ち溢れていた。


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