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二十三話 王様

 襲撃者事件から、一夜明けて。ようやく入城の許可を得た俺達は、この国の王様の待つ城へと向かう。なんだかものものしい雰囲気で、入って行く時も警備の騎士だか兵士だかが、怖い顔をしていた。

ライラによれば、この世界においては兵士も騎士も大差ないらしい。地球だと、明確に違いがあったはずなんだけど……正直覚えてない。一応なんかの試験に合格するか、手柄を立てた者だけが騎士になれるらしい。それで言うとライラが強いか手柄を立てたってことになるので、まあ審査基準は相当緩いんだろう。


 王城の中に入ることはすぐにできたが、王様の準備とかでまたも待たされた。なので暇つぶしに、外をみて見る。待たされているこのやたらめったら豪華な部屋は、玉座の間が近い最上階付近にあるのだ。


昨日は襲撃者のせいで町を見ている隙なんてなかったが、こうして見ると王城が近い割には普通だ。確かに人は多いし活気はあるんだろうが、何と言うかロットンの街と変わり映えがしない。ここもあそこと同じくレンガ造りだし、違いを上げるとすれば全体的に人間が多いくらいか。ロットンはエルフも獣人もたくさんいたのだが、ここではずいぶん少なく見える。


 三十分も待っただろうか。不意にゴツイ西洋甲冑を身に着けた、今にも戦いに赴きそうな騎士が俺達を呼びに来た。


「王がお呼びです」


 頭にすっぽりと兜まで被っているせいで、声が妙な響き方をしていて聞き取りづらい。室内なんだから、兜くらい外せばいいのにと思う。外せない理由があるならともかく。例えば、顔を見られたくない、とか。


 それをおくびにも顔に出さないように気をつけながら、俺達は甲冑騎士のあとについて行った。


「よく来たな、魔物の群を倒せし者達よ」


 偉そうに玉座でふんぞり返っていたのは、王様、というイメージとはだいぶズレた人だった。


 まず、かなり細い。毎日贅沢三昧しているとは思えぬほど、その男は極端なほど細かった。しかも、まだ若い。王とか言うからてっきりいい歳なのかと思いきや、まだ三十になったかどうかといったところ。身長は百九十近くあって、針金細工のような奇妙なシルエットだ。髪も目も黒く、顔立ちもアジア系。金髪や茶髪、しかも西洋風の顔立ちの多いこの世界では、あまり見ないタイプである。


 礼儀作法には詳しくないので正解がわからないが、とりあえず(ひざまず)いておいた。アニメとか漫画の謁見シーンを参考にした結果、立っているよりはマシだと思ったのだ。そして何も言われなかったので、少なくとも間違ってはいないのだろう。


「お初にお目にかかります、キャルラ国王。私はマナトと申します」


 俺が名乗ると、王は不機嫌なのを隠しもせずに俺の後ろを睨んだ。


「聞いていた話と違うな。わたしはそなた達が、五人だったと聞いているのだが?」


 その質問に、ドキリとする。やはり王には全てが伝わっていたらしく、こちらの人数なんかも把握されていたらしい。


「確かに昨日の時点では、五人でした。ですがその中には、この街までの案内人が混ざっていたのです。その者は魔物討伐には関係のない人物でしたので、帰らせました」


「……ふむ、まあよい」


 刹那の間訝るような目をこちらに向けたが、ギリギリ信じてくれたらしい。跪いていてよかった。顔を下に向けてこっそり上目遣いで向こうを見てるから、表情の変化が向こうに伝わりにくいのだ。向こうの方が玉座の分、高い位置にいるし。


 王は重々しく面をあげよ、と言う。だがその時、なぜか俺達の背後に控えていた騎士を見たような気がしてならなかった。


「我が名はキャズ・キャルラ。知っての通り、この国でもっと魔法に優れているということでもある」


 いや知らねえよと突っ込みそうになるが、自粛。さすがにこの国のトップに、こんな形でケンカを売るのは愚の骨頂だ。


 つーか、王様=国で一番魔法が強い、って図式が成り立つのか。ってことは世襲制じゃなくて、戦って王様決めてるとか? だとしたら、相当厄介だ。


「ではさっそく、どうやってそなたらが溶解スライムの群を倒したのか、聞かせてもらおうか」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ふむ、(いかずち)の力で……」


 どうやって倒したのかをかいつまんで話すと、王は何やら思案顔になる。しばらく何かを考えていたかと思うと、おもむろに目つきを鋭くした。


「そなた……マナト、と言ったか。どうして溶解スライムに雷を使えば、倒せると思ったのだ?」


「色々試してみた結果、偶然上手く行っただけです。もしあれが上手く行っていなければ、私は今頃ぐずぐずに溶かされていたでしょう」


 用意していた答えを返すが、反応が(かんば)しくない。何かを探るような目つきで、淡々とこちらを見ているのだ。


「偶然、か。それにしては、事前に街に金貨を集めに行ったと聞いたのだが。そもそもなぜ、そんなにも金貨が必要だったのだ? 銅貨でも銀貨でもなく、金貨が」


 こいつ……今日この場で話を訊く前から、どうやって俺が溶解スライムを倒したか、誰かから聞いて知っていたな?


「昔どこかで、そのようなことを話していたのを覚えていただけですよ。金貨が一番いいと」


「いつ、どこで聞いた話だ」


「さあ……なにぶん、小耳に挟んだ程度でしたから。ハッキリとは覚えておりません」


 ギリギリだが、ウソは吐いていない。この話を授業で聞いた時、理科があまり得意ではない俺は半分以上聞き流していたのだから。


「そのような不確定な情報に、命を賭けたと?」


「他に方策が思いつきませんでしたから、(わら)にも縋る思いだったのです」


 どうにかアドリブで返しているが、旗色が悪い。王は、俺達のことを疑っている。いや、違う。疑っているのではなく、これは――


「そなたの話には、怪しい点が多過ぎる」


 冷淡な瞳でこちらを見据える王は、やけに断定的な口調で告げた。


「本当は、溶解スライムなんていなかったのだろう?」


 王の爆弾発言に、玉座の間がざわめいた。王はそれをたしなめるどころか、むしろ嬉しそうにすらしている。


「おっしゃっている意味がわかりませんが」


 なるべく冷静を装ってそう言うが、内心ではもうわかっていた。この王は、俺の言うことを聞くつもりがないことくらい。


「そなたは、どこからか来た流れ者らしいな。ということは、金に困っていた」


 どっから仕入れたその情報……! そう言えば、ライラは俺のことを街にいながらにしてウワサで聞いたと言ってたっけ。あれだけすぐにウワサが広まる土地じゃ、誰が知っていてもおかしくないのか。


 俺が反論しないからか、王は微かにいやらしい笑みを浮かべていた。元から、俺をはめる気だったのだろう。


「どうしようもなくなったそなたは、まず村の者のために働いているかのように見せかけ、信頼を得た。それから、計画を実行に移したのだ。いもしない溶解スライムが出たなどとうそぶき、その退治に必要だからと金貨を集めた。全部をくすねれば当然疑われると思ったそなたは、雷のせいで形を失くしたとか適当なことを言い、その分だけ懐に収めた。そうだな?」


「違います」


 否定するが、王がそれに納得する気配はない。そもそも、納得できる理由なんてどうだっていい。ただ、俺がやったこと疑問を持たせたいだけなのだから。


 今度はハッキリと笑みを浮かべた王は、後ろに控えていた兵士だか騎士達に命令した。


「この者達を捕らえよ!!」


 大音声の命令が響き渡り、まるでそうなることを予見していたかのようなタイミングで俺達を取り囲む騎士達。


 王を直々に護衛する十数名の騎士の手により、俺達は完全に包囲されていた。

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