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二十一話 城下町

 馬車という足を失ってしまった俺達は、長い道のりを歩く羽目になった。実は歩かなくても、城まで着く方法はがあるにはある。それはファロンに元の姿に戻ってもらって、その背に乗せてもらうという寳保だ。が、この方法はいかんせん目立ちすぎる。いくら英雄扱いされていても、そこまで派手な登場は必要ないし、俺は別に英雄扱いされたくないので却下だ。それに城の周囲を龍の背に乗って飛んだりなんかすれば、敵対勢力と思われて攻撃される恐れがあった。


「なぁ、ここから城までどれくらいあるんだ?」


「えーっと……馬車じゃ通れない沼地を通ってショートカットすれば、四日で着くわ」


「うーわー……」


 リーレは以前城下町まで行ったことがあるらしく、道を知っていたのは幸いだった。騎士として登城したこともあるはずのライラは、サラッと

「城までの道? いやあたし前来た時は寝てたし」

 とかのたまったので役立たずもいいとこだ。つまり、馬車で行ってしかも爆睡してたのだ、この騎士さまは。


 そんなわけで、唯一道を知るリーレだけが頼りである。レフィーは行ったことがないし、ファロンは空を飛べばたいていの場所に行けるので、道という概念が希薄なのだ。


「にしても、どうする? あたしら野営の準備してないよね?」


「そりゃこんなことになるなんて、思ってもみなかったからなぁ……まあ、一応念のため多めに食料持って来てあるから、足りない分はそこいらに生えてる草とかでどうにかするしかないだろ」


「なら、我に任せるのじゃ!! 我ならば、食べられる草と食べられない草、完璧に見分けることができるぞ!!」


「お、マジか。じゃあ頼む」


 任されたのじゃー!! と、ファロンはとても嬉しそうだった。さっきの戦闘で、一切役に立てなかったのを気に病んでいたのだろう。なんにせよできることが見つかって、嬉しいのだ。


 それから四日間、俺達はそれはもう散々な目に遭った。魔物はあちこちで襲って来るし沼地の泥にはまるし、大雨には降られるし。そのせいで城下町に着いた時には、五人共泥まみれでボロボロだった。


 しかも、野営の準備を一切していなかったため、食事もヒドイものだった。ほぼその辺に生えている食べられる草、それとその辺にいた食べられる魔物の肉だけ。ろくに調味料もないなかで作った魔物料理は、ハッキリ言ってまずかった。臭みが強すぎて、よーく焼いて誤魔化すしかないのだ。それでもまずかったけど。ほぼ焦げた肉と、生に同然の草だ。そりゃ美味しい方がどうかしている。


 そんな生活をしていたので、宿の前にいる俺達は心身ともに疲れ果てていた。


「と、とりあえずなんでもいいから風呂入りたい……」


 俺がぼやくと、これまで一度も弱音を吐かなかったリーレでさえ、ため息と共に同意した。


「ええ、これはさすがにどうにかしたいわ」


「りっちゃんはまだマシでしょ。あたしなんか、沼に直接落ちたからパンツまでぐちゃぐちゃで気持ち悪いのなんのって……」


「それはお主がよそ見をしていたから、勝手に落ちたのじゃろう。我はちゃんと注意したというに、おぬしと来たらあくびをしてくちゃべっていたのじゃからの」

「いやまあそうだけどさ……」


 そんな会話をする俺達が向かったのは、この辺りでもっとも安い宿だ。本来であれば王様の用意した高級宿に泊まれるはずだったのだが、到着が遅れたせいで泊まれるかどうか微妙になってしまったのである。なのでここで宿を取って、旅の汚れだけでも落としてから登城することにしたのだ。ちなみにこの世界、お風呂は相当の贅沢品なので、自力でお湯が出せない人達は水浴びで済ませている。と言っても、お湯も水も余裕で出せる俺達には関係のない話だが。


 俺達がお風呂に入っている間に、城下町にいた適当な騎士に伝言を城へ持って行ってもらった。いくら呼ばれたとは言え、遅れているのにこっちの都合で突然行くのもどうかと思ったのだ。相手は王なのだから、慎重に慎重を重ねるくらいでちょうどいいだろう。その返答が来たら、登城する予定だ。


 が、それから六時間近く経っても、連絡が来る様子はこれっぽっちもない。だからと言って、今から全員で城に押しかけても追い返される恐れがあるのだ。一応書状は預かっているのだが、沼地を通って来たせいで泥まみれになってしまっている。読めないほど汚れているわけではないのだけど、万が一ってこともあり得る。そのため細心の注意を払って使者を使ったのだ。俺達が道中、何者かが送り込んだ恐れのある魔物に襲われた件もある。用心しすぎということはないだろう。


「誰も来ねーなー」


 暇そうに頬杖をついて、ホテルで言うロビーになっている場所の窓から外を眺めるライラ。使者を頼んだのが騎士の人なので、窓口はライラなのだ。なので一番人の出入りがよく見える場所にいるのだが、あまりにも来ないので眠そうなのである。


「ライラ、あれってちゃんと騎士の人だよな?」


「あったりまえでしょー。確認取ったし、ファロンちゃんも嘘は言ってないって判断してたし。ねーファロンちゃん」


「うむ。我が保証するのじゃ」


「それなら、なんでこんなに連絡が遅いんだよ。一刻も早く来いっつったのは王様なんだよな?」


 呼び出しておいてその相手が来たのに、返事をシカトとか……


「王様も忙しいのよ。それに私達は、二日前にはもう到着していたはずだったんだから。それなのに着かないから、何か事件に巻き込まれたって調査していたのかもしれないわ」


 それにしては、ここまでの道中一度も騎士の姿を見かけなかったのはおかしい。もし何かがあったんじゃないかと捜索をするのであれば、騎士がいる詰所が、7もっと慌ただしくなければいけないのだ。だが、俺達が行った時、あそこは暇そうだった。


「参ったッスねー。すでに予定より時間かかってるッスのに、これ以上かかるようだとお店が心配ッス。売り上げ的な意味で」


「店主だもんね、レフィーちゃん」


 自営業なら、これだけ長期で休むというのは売り上げにかなりダメージがあるだろう。それに多少余裕を持ってスケジュールを組んだとは言え、あまりにも俺達が帰らなければ村のみんなが心配する。俺はともかくリーレはご近所付き合いをちゃんとするタイプなので、だいぶ心配かけることになってしまう。


「けど、だからってあたしらには――」


 ライラが何を言おうとしていたか、続きを聞くことはできなかった。その前に臨戦態勢を取ったファロンが、板が張られている天井を睨みつけたからだ。


「そこにおるのは誰じゃ!? こそこそ隠れとらんで姿を現さんか、この卑怯者!!」


 ファロンの誰何(すいか)の声に動揺したのか、天井裏からがたりと確かに人の気配がした。その音で完全にバレたことを悟ったのか、天井裏に潜んでいた存在は板を蹴破って落ちて来るではないか。その数、なんと五人。


 全員が奇妙な仮面を被っていて、顔はわからない。服装も動きやすそうではあるが普通に見かける綿のシャツとズボンで、とてもじゃないが突然襲い掛かってくるようなやつらには見えなかった。が、それは当然カムフラージュ。そして、なぜ襲撃者が五人いるかのもだいたいわかる。


 自分達一人につき俺達一人を無力化すればいいって計算か!!


 襲撃者達はさすがの身のこなしで、狭い室内で器用に襲い掛かって来る。ロビーそのものがさほど広くない上に、全部で十人もの人がいるのだ。狭くて当たり前だ。


敵は俺達が突然の襲撃者に対応できないでいるうちに、片付けてしまいたいと思っていることだろう。だが、それはムリだ。なぜなら、俺はすでにこのことを想定していたのだから。


「下がれ!」


 俺の声が聞こえたのと同時、全員がピッタリ同じ動きで俺より後ろまで後退した。とっさのことだったのに、誰も遅れなかったのは俺のことを信頼してくれているからだろうか。


だったら、嬉しいな。


そんなことをほんの少しだけ思いながら、俺は両手を床に叩き付けた。


「痺れろ!!」


次の瞬間、地面に付けた両手から五筋の紫電が(ほとばし)った。それらは正確に襲撃者の一人一人に命中すると、襲撃者達はビクンッと大きく痙攣して動かなくなる。それを確認した俺は、襲って来た者達をまず拘束した。さらに宿の人に強盗だと言ったら、あっさり縄を貸してくれ、騎士の人を呼びに行ってくれるおまけつきだ。


 本当は俺達を狙って来た刺客だーなんて言ったら、追い出されるかもしれないもんな……


 誰だって、面倒事になんて巻き込まれるのはごめんだ。それに俺達の命を奪おうとしていたかもしれないのだから、まあ強盗と言ってもそこまで間違っていないだろう。もしかしたら本当に強盗に見せかけるために、俺達をどうにかしたあとで金目のものを盗んで行ったかもしれない。こいつらの目的が俺達の命そのものなのか、この中の誰かが必要だったのか。それは騎士に突き出してから、ゆっくり聞けばいいだろう。餅は餅屋。わざわざ俺達が余計なことをする理由は、今のところない。


「面倒なことになったな……」


 盛大にため息を吐きながら、これから何が起こるのか考えただけで憂鬱な気分なるのだった。


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