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二十話 ゴーレム

 ゴーレムとは、たいていが命を持たぬ石などから作られる魔物だ。その例に漏れず、目の前にいる三体のゴーレムの瞳に意思は感じられない。


 一番小さいのでも、三メートル。次が五メートル。そして最後の最大サイズが、なんと十メートルもあるのだ。そこはちょうどよく合わせて七メートルとかにしろよと、こいつらを作ったやつに言ってやりたかった。もしかしたら、個人じゃなくて組織かもしれないがそんなことは今はどうでもいい。


 どちらにせよ、厄介極まりない。溶解スライムのように触ることができないというわけではないが、何せサイズがサイズだ。こちらの攻撃がどこまで通じるか、未知数である。


「とりあえず、ここはまずあたしが行くべきだよねっ!!」


 他の四人が様子見に入ったのを見たライラは、剣を構えると勇敢にも一番大きいゴーレムに突っ込んで行った。


「っせぇええい!!」


 渾身の気合いとともに剣を振り下ろすが、鈍い打突音がしただけでダメージが通った様子は欠片もない。


「~っ!? かったっ!?」


「大丈夫か!?」


「いやへーきだけど、こいつめっちゃ堅い!!」


 器用に空中でバランスを取ったライラは、無傷で着地していた。そこを狙い澄ましたかのように大ゴーレムの腕が振り下ろされるが、その腕がライラに当たることはない。なぜなら、大ゴーレムの挙動を見たレフィーが的確なタイミングで風を起こし、軌道を見事にズラしたからである。


「ありがとレフィーちゃん!!」


「お礼よりも、今はこいつらどうにかする方に専念してくださいッス!!」


「ごもっとも!!」


 そんな二人の会話の最中、俺達は黙って見ていたわけではない。


「喰らいなさい!!」


 リーレが何本もの矢に水をまとわせると、連続でゴーレム達に射かけたのだ。その矢は全て額や胸など、生物ならば急所に当たる位置に命中した。だが、命を持たぬゴーレム達にとって、そんなのは傷とは呼ばないようだ。何事もなかったかのように、足で踏みつけ腕で押し潰そうとしてくるのだから。


「ええい、うっとうしいやつらじゃの!!」


 周囲に植物がなく本来の力を発揮できないファロンは、自らの長い髪を龍の尻尾へと変えた。大ゴーレムと行かないまでも、中ゴーレムくらいなありそうな尻尾が縦横無尽に振るわれる。だがそれすらもゴーレム達は耐えきり、致命傷とはほど遠い。


「あーくそっ!! 岩とは相性悪いんだよ!!」


 俺と言えば、いつの間にか得意になっていた雷魔法を使うが、相手が岩であるせいか効果は薄い。せいぜい、表面に傷が量産されるくらいだ。


 ああもうせっかく練習して連発したりできるようになったってのに!!


 周りを見れば、やはり全員が苦戦していた。敵が一体ならまだしも三体もいて、なおかつこの堅さではやってられない。ライラの攻撃する音を聞く限り、金属レベルの強度ということはないようだが。このままでは、全滅するのも時間の問題だ。


 普通に攻撃したんじゃダメだ。攻撃が通らない。こいつらの弱点は――


『問題点:岩と強度はさほど変わらない』


それ弱点かな!? いやまあ使役する魔物としては、それは問題なんだろうけど……もっとわかりやすい問題点が欲しかった。身体のどこかにある文字を消したら、勝手に壊れるようなの。にしても岩、岩の弱点って言うと、水に草……ってそれゲーム!! こいつらに水鉄砲で水かけても、絶対効果抜群で倒れたりしないから!! その理屈が通るなら、さっきのライラの剣で倒れてるだろ。剣の材料は、鋼だろうし。だったら、他に岩の弱点……

 

「……なぁ、みんな。イチかバチかの作戦があるんだが、乗ってくれるか」


「「「「当然!!」」」」


「そこで即答してくれるお前ら、すっげー好きだわ」


 安心して命を預けられる仲間がいる。なら、例え分が悪くたってやるだけだ。俺は、諦めない。絶対に全員で生き残ってみせる!!


「誰でもいい、このデカブツどもがびしょ濡れになるくらい水出せるやつは!?」


「私ができるわ」


「うちも水は得意ではないッスけど、多少なら」


「なら俺の合図で、こいつらにできるだけ多くの水を浴びせてくれ!!」


「「了解!!」」


 気持ちのいい返事を聞きながら、俺はタイミングを待っていた。その瞬間がいつ来るかも十分に賭けだったが、案外早くその瞬間がやって来る。三体のゴーレム達が、両の拳を地面に叩き付けようとバンザイの恰好になった時だ。


「今だ!!」


 俺のかけ声に合わせ、リーレとレフィー、それから俺が呼び出した大量の水がゴーレム達に向かって殺到した。


 発声器官が存在していないのか、勢いよく発射された水のせいでたたらを踏んでも、やつらは無言のままだ。だがそれは、まったく無意味だったからではない。数瞬とは言え、確かに隙ができたのだから。


「これでも喰らえっ!!」


 俺は両手を地面につけると、未だかつてやったことのない魔法を発動させる。正直成功するかどうかは、全くわからなかった。成功しなかった時は、他の方法を試すつもりだったのだが……それは、幸運にも杞憂に終わる。全身全霊でイメージしたその魔法は、俺が思った通りの結果を生み出してくれたのだ。


 最初は、辺りに白くもやがかかったようになっただけだった。そしてすぐに極寒の冷気が生み出され、ゴーレム達にまとわりつく。ゴーレムは、寒さなんて感じない。だからいくら低温を生み出そうと、通用しないはずだ。だが、そうはならなかった。先にぶちまけておいた水のせいで、ゴーレム達はどんどん真っ白に凍りついて行くのだ。身体の自由を奪われることを危惧したのか、両手足を振り回してどうにか氷を砕こうとするが――時すでに遅し。


 それまで何の問題もなく動いていたはずのゴーレム達は、身体のあちこちをひび割れさせていたのだ。まるで体内からひびを押し広げられているかのように傷は広がり続け――ついには、ガラガラと自壊するかのように壊れて行った。あとに残ったのは、ゴーレムを構成していたいくつもの岩だけ。


「終わった……よな?」


 また動き出すんじゃないかとびくびくしながら誰にともなく問うと、わざわざリーレが確認に行ってくれた。


「うん、大丈夫みたい。つっついても、何も起こらないもの」


「ってことは、ちゃんと倒せたのか……」


 どっと安堵感か押し寄せ、その場にへたり込んでしまった。上手く行く可能性が高いとは思っていたが、実際にやってみると緊張する。これでもし成功していなかったら、俺達はぺしゃんこにされていたかもしれないのだから。


 今回ほとんど出番のなかったファロンが、瓦礫の山となったゴーレムを見ながら、不思議そうに訊いた。


「それで、マナトはあのデカいやつらをどうやって倒したのじゃ? 凍ったあと、衝撃も加えてないのに砕けたように見えたのじゃが」


「あ、それあたしも聞きたい。てっきり水出すって言うから、こいつらってやっぱり弱点は水なのかと」


「前にも言ったがライラ、あんたはわかれよ」


 ついでに同じ発想だったってのがちょっとへこむ。ライラと同じレベルの発想って……


 落ち込むのはともかく、先に説明をした方がいいだろう。別に隠す理由はないのだし。


「氷ってのは、水よりも体積が大きいんだよ。だから岩のすきまとかに入った水が凍ると、体積が膨張する際の圧力で割れやすくなる。自然界では凍ったり溶けたりを繰り返して、でっかい岩も割れることがあるって昔習ったの覚えてたんだよ。で、今回は魔法で同じ現象を起こしたってこと」


 実はさっきの魔法、冷やしていただけではない。温めることをしなくても、氷というものは圧力がかかると溶ける性質がある。それを利用して、岩のすきまに入った水を凍らせたり溶かしたりを高速で繰り返したというわけだ。岩と同程度の強度しか持たないゴーレムだからこそ、できた技である。もし今度鉄や別の物質でできたゴーレムなんかが出て来た時に備えて、攻略法をいくつか考えておいたほうがよさそうだ。


 とにもかくにも、俺達は目の前の脅威、ゴーレムを排除することに成功したのだった。しかし、これで終わりではない。まだここから、俺達五人は王城へと向かわなければならないのだから。


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