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十九話 想定外のルート

 溶解スライムを退治し、年も明けた頃。いつものようにやって来たライラが、いつもとは違う様子でやって来た。なんと言えばいいか、俺のよく知るライラよりもどことなく暗い。しかも俺達が昼食中なのに部屋に入るなり、扉の前で直立不動にこんなことを言ったのだ。


「溶解スライムを退治し、我が国を守ったマナトくん、じゃなかった。英雄マナト。王の勅命により、即刻登城せよ。他に手を貸した者がいるのであれば、必ず同伴すること。だってさ。王様から直々のお呼び出しだよ、英雄さん」


「え……はい?」


 どういうこと? え? なんで?


 頭上にハテナマークの乱舞しているのがわかったのか、ライラが嘆息しながら言い直す。


「魔物倒して、国守ってくれてマジありがとう。君ってやつは超英雄だね。直接お礼言うから、なる早で城に来てくれない? あと手伝ってくれたやつがいるなら、絶対一緒に来いよ、ってこと」


「いや言葉の意味がわかんないって意味じゃなくてだな……つーか、なんで今更? あれ軽く一か月とか前だよな?」


 十二月の頭とか、それくらいの時期だったはずだ。みんな暦が割と適当だから、キッチリは覚えてないけど。呼び出すにしては、いささか以上に遅いんじゃないだろうか。


「いくら国を救ったからって、得体の知れないやつを易々と城に呼んでいいの? って話し合いしてたとかじゃねーの? 知らんけど」


 それならまあ、納得はできる。けど、王様直々にお城に来いって……正直気が重い。


 ちらりと隣を見ると、昼食を食べながら話を聞いていたリーレは、嬉しそうな顔をしていた。


「よかったじゃない! 王様に直接呼ばれるなんて、すごく名誉なことよ! もしかしたら、この前のことを評価して領地とかくれるのかも」


「それならいいんだけど……」


 土地の広さにもよるけど、場合によっては領主である。それならお金が何もしなくたってそれなりに入ってくるだろうし、楽して暮らせるのだ。もしこれが甘い考えで何かをしなくちゃいけなかったとしても、多少の地位は確保できる。この世界に住むために、地位やお金はいくらあっても困らない。


 が、もしも全然違う理由だったとしたら。どうやって溶解スライムを倒したのかを話して、なぜそんなことを知っていたのかと疑問に思われたとしよう。正直に異世界がどうたらとか話したところで信じられないだろうし、もし王様が悪人だったら地球を侵略しようとするかもしれない。そうしたら、俺は英雄から一転、地球のことを知るためのモルモットにされる恐れがある。


 モルモットが考えすぎだとしても、普通に暮らせれば十分な俺にとって、王様と会うのにそこまでメリットがあるかと訊かれたら怪しいものだ。この世界に来たのは偶然だし、別に何か目的があるわけではないのだから。俺としては、クソババアのいない場所ならどこでもよかったのだ。


 だがどんな理由にせよ俺に拒否権はなさそうなので、しぶしぶ了承したのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「城かぁ……」


 話を聞いた翌日、俺達はすでに村をあとにしていた。そして太陽が出てすぐに出発し、すでに陽も高くなり初めた頃。ごとごと揺れる草原の道を馬車に乗って進む俺は、かなり憂鬱な気分になっていた。


学校の職員室に行くのだって嫌いなのに、なんで王様の前になんぞ行かにゃならんのだ。断れるものなら、本気で断りたかった。しかも馬車使っても、ここからまだ二日かかるんだぞ城まで! もはやこの時点でいじめだろ! はぁ……村に帰りたい。


 テンションが激低な俺とは違い、他のメンバーは王様の用意してくれていた超高級馬車に全力ではしゃいでいた。馬車とはいうものの、引いている馬がパステルピンクでたてがみがない。誰もそこにつっこむ素振りはないので、この世界ではこれが普通なのだろう。


「馬車と言うのじゃな!? 馬なぞ初めて見たぞ!! 森には魔物しかおらんかったからの!!」


「しかもこれ、最高級のやつッスよねー。クッションふかふかッスし、屋根も雨漏り知らずな頑丈な造り。うちがこんなの自腹で乗ったら、一か月の売り上げ吹っ飛ぶッスね」


「私も、こんなに高級な馬車は初めて……乗り合いのだったら、昔何回か乗ったんだけど」


「そーれもっとスピード出せー!! そう、文字通り馬車馬のごとく働くのだっ!!」


「元気いいなほんと……」


 特にライラ。昨日うちに知らせに来た時は、テンション低かったじゃん。なんか面倒そうだったじゃん。なのになんで今そんなテンション高いの? 情緒不安定なの?


 そう文句を言うと、ケロッとした顔で返された。


「ああ、あれ? あたし昨日非番だったのに急に呼び出されてさー。せっかくスイーツ食べ放題の店見つけたのに、食べ損ねたんだよねー」


「そんな理由かよっ!!」


 ダメだこれ。ここまでテンション高いやつらに何を言ってもあれだし、それに楽しんでるところに水を差すのも悪い。


 どうしよう。いっそ昼食の時間まで寝ようかなー……でも昼食っつても携帯食料てきとーにあっためるだけだし、ぶっちゃけ美味しくないから別に食べなくてもいい気がするんだよな。もうここは全部おいといて、晩飯まで寝ちゃおうか。


 そんな暢気なことを思っていた時だった。それまで初めて見る馬車ではしゃぎまわっていたファロンが、突然目つきを険しくし遠くを見つめたのだ。この行動には、覚えがある。前に森に魔物を狩りに行った時にも、まったく同じ仕草をしていて――


「ファロン? まさかとは思うけど――」


「そのまさかじゃぞ、マナト。強い魔物達がこっちに向かっておる」


 とてつもなく嫌な知らせを聞いてしまった。それを確かめるために、ライラが慌てて御者に話を聞きに窓から顔を出した。が、すぐに青ざめた顔で振り返るではないか。


「御者、いないんだけど……」


「はぁ!? ウソだろ!?」


 ライラと同じように身を乗り出すと、御者台の上はもぬけの殻だった。乗る時には、確かにいたのに。ここから見えるのは、どこかぼーっとした様子のピンクの馬が、機械じみた動きでただひたすらに前へ突っ走っている様子だけだ。


「あちゃー、馬に何か魔法かけられてるッスね。多分、幻覚系ッス」


 反対側から顔を出したレフィーが、いつもの調子で告げた。レフィーが言うと全然まったくヤバそうに聞こえないが、冷静に考えればヤバい状況なのは明らかだ。


「てことはつまり――」


「このままだと、魔物のいるとこに突っ込むッスね」


「だぁーもう!! マジかよ!!」


「マナトマナト、しかも我の感覚が正しければ、しばらくすると崖があるのじゃ。魔物に殺されるか、崖下に落ちて死ぬか、好きな方を選べって感じじゃのー」


「どっち選んでも死ぬじゃねえか! なんだその死ぬなら焼死と溺死どっちがいい、みたいな二択は!!」


 もしかして、俺達が城に行ったらマズいことになる誰かがいるのだろうか。それでその誰かが邪魔をしている? だとすると、とてつもなく厄介だ。どうやったのか知らないが、馬に魔法をかけて魔物がいるところまで誘導するような、性根の腐ったやつが相手ってことになる。


「とりあえず、馬車から飛び降りて――」


「ダメ。今試してみたけど、この馬車、外から鍵がかかってるわ」


 どれだけ本気で俺達のことを殺すつもりなのだ。ここまでしなくても、こっそり刺客でも送り込めばあっさり暗殺――は、ムリか。ファロンがいる限り、少なくとも俺とリーレに手を出すことは出来ない。ライラも一対一ならそうそう負けないだろうし、レフィーだって相当強い。だがタイミングからして、狙われているのは俺の確率が一番高いだろう。そもそもの話、王様に呼ばれているのは俺なのだから。


 どうするか考えようとした時には、もう悪夢は目の前だった。


 走っている道はいつの間にかごつごつした岩場で、生き物がいるような気配はない。その地形に合わせるかのように、大中小、三体のゴーレムが待ち構えているのが見えた。普通の魔物にしては待ち伏せが様になっていて、ものすごく不自然だ。これを見る限り、誰かが用意した人造ゴーレムってのが一番ありそうである。


「……誰か、ここの扉壊せるか?」


「それくらいなら朝飯前だよ。あたしに任せて」


 ライラは狭いスペースでも、器用に腰の剣を抜き構えていた。ただ抜いただけでは天井などに引っかかりそうなものだが、場所の悪さなんてライラはものともしない。それだけ剣の扱いに慣れているのだろう。ライラは扉を斬るのではなく、鍵のある部分ピンポイントで突いた。


 鈍い破砕音と共に鍵が壊れると、扉は勝手に外に向かって開く。けっこうなスピードで走っているせいで、入って来る風が強い。こんな勢いで走る馬車から飛び降りれば、大怪我は免れず、下手をすれば死ぬだろう。何か対策を講じねばなるまい。


 どうするかを考える前に、レフィーが静かに告げた。


「んじゃ、うちが合図するんで飛び降りてくださいッス」


「それは着地、任せていいってことか?」


「そッス」


 真剣な目でレフィーは頷く。それから他の三人にもアイコンタクトを取ると、全員から了承の意が返って来た。それを確認したレフィーは、両手を扉の外に向ける。


「三つ数えるッス。三、二、一!!」


 レフィーのカウントダウンを合図に、俺達は転がるようにして馬車の外へと出た。下は岩場。そのままであれば、俺達の身体はものすごい勢いで地面に叩き付けられていただろう。


 だが俺達の身体が外に出た瞬間、どこからともなく突風が吹き、着地の衝撃を和らげてくれるではないか。レフィーが使った、風の魔法の効果だ。


 風のおかげでどうにか着地すると、無人の馬車がそのままゴーレムに向かって突き進んで行くのが見えた。すぐに豆粒のように小さくなった馬車は、ゴーレムのどれかに踏み潰されたのか、それとも見逃されたのか。そこまでは、わからない。


「よし、このまま逃げ――させてはくれないんだよねそうだよね!!」


 やけっぱちに叫びながら、俺は自らの不幸を呪っていた。なぜならゴーレム達は、その歪な手足を振り回しこちらへ爆走して来ているのだから。


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