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十八話 約束のごほうび リーレの場合

 ご褒美と称した謎のデート企画、三日目。最終日となる本日、にデートするのは最後の一人、リーレである。


「ごめんね、色々あって疲れてるのに付き合ってもらっちゃって」


「いいよ、これくらい。前にも言ったけど、リーレ達が手伝ってくれたらからこそどうにかなったんだし。一日遊ぶくらい、問題ないよ」


 とは言うものの、さすがにちょっと疲れた。昨日も一昨日も、テンションがやたら高い二人に振り回されたのだから、当然と言えば当然だ。ライラのやつ、昨日はしんみりしたかと思いきや、なぜかあのあと騎士が使う訓練場になんて連れて行きやがるし。いきなり手合わせとか、お前は戦闘狂か何かかっての。木剣での試合だったから、当然俺が負けて終わったし。


 リーレには気兼ねしてほしくなかったのでそう言ったのだが、鋭い彼女には気づかれてしまったらしい。


「なら、私の行きたいところに行きましょう」


 そう言って連れて来られたのが、温泉なのだから。



 俺はよく知らなかったのだが、この世界にもちゃんと温泉があるらしい。普段は泉で水浴びしてるから、知らなかったのだけど。水浴びとは言うものの、魔法でお湯に変えるので厳密にはお湯浴びである。つまり、地球のシャワーと変わらない。


 だがリーレに連れて来られたそこは、ちゃんとしたというか浸かることのできる温泉だった。この辺りに火山はないのにどうして熱いお湯が大量にあるのかと言えば、どうやら魔物のおかげらしい。


「で、これがそのうわさの湯たんぽハリネズミってわけか」


 赤いトゲを身体中から生やした、一抱えもある巨大なネズミ。それが湯たんぽハリネズミらしい。なんでも寒がりなこのハリネズミは、水が嫌いですぐにお湯に変えてしまうそうな。冬場はいつもこの近くの洞窟にいるらしいので、エサでおびき寄せれば簡単に温泉ができるのである。しかもただのお湯にはない効能も付加されるので、こいつらは温泉を作るためだけに存在しているんじゃないかと思うくらいだ。


「いつもこいつを泉に入れておけば、温泉に浸かりたい放題じゃないの?」


 いつも水浴びするよりも更に森の奥の泉に、湯たんぽハリネズミを入れながら訊いてみる。扱いとしては露天風呂なここは屋外なのだが、誰が作ったのかちゃんと立派な塀があった。周りにも、そして中央に空間を二分割するようにもう一つ。……余計な仕事をする人もいたものだ。いっそのこと、わざと脆く作ってあったりしたらありがたかったと言うかなんと言うか。


 かなり邪な考えが浮かんで来るのを、慌てて振り払う。リーレにバレたら、何をされるかとの心配よりも、普通に泣かれそうで嫌だ。そんな一時の気の迷いで嫌われたくはない。


 俺がそんなことを考えているとはつゆ知らず、リーレは苦笑いで答えてくれた。


「そうしたいのは山々なんだけど、ここは冬って立ち入り禁止なの」


「え? なんで? せっかくの温泉なのに」


「その、みんな気持ち良すぎて仕事をしなくなるから……」


「あー……」


 その気持ちはよくわかる。寒い冬に近所にこんな温かい場所があれば、そりゃ離れたくなくなる。日本で言うと、冬にコタツに入ったまま出られなくなるって感じか。


「でも、じゃあ今日はなんで……」


「村長に頼んだの。マナトを連れて来たいって言ったら、ぜひゆっくり疲れを取ってくれって」


「なるほどそれで……」


 確かに最近疲れていたし、これはとてもありがたい。


 リーレの好意に甘え、俺は存分に疲れを癒すことにした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「マナト、湯加減どう?」


「すげーいい感じ。ちょっと熱いところが特に」


 塀の向こうから聞こえるリーレの声に返事をすると、嬉しそうに笑っていた。


 にしても、湯たんぽハリネズミすごいわ。あっという間に適温のお湯が、お手軽にできるんだもん。ただ湯たんぽとか言っておきながら、ハリネズミなのでトゲのせいで湯たんぽに向かないって、じゃあなんでこんな名前付けたんだよと突っ込みたくなるけど。


 いやそんなことよりも。温泉回である。隣には、女子。これは、ほら、ねえ?


 できるだけ音を立てないようにして、塀に近づく。塀は木製のくせに丈夫で、穴もなけらば倒れる気配は微塵もない。


「まーそうだよなー……」


「何か言ったー?」


「いや、何も」


 すぐ近くからリーレの声が聞こえて来て、かなりビックリした。どうやら向こうも、割と塀の近くにいるらしい。


 うん。覗きはよくないよな。覗きは。ほら、だって犯罪だし? ていうかそれ以前に、リーレに泣かれそうだよなそんなことしたら……そんなことで泣かれて嫌われるくらいなら、しない方がマシだろう。でもつい、気にしてしまうのだ。男のロマン的な?


 そんなことを考えていたせいで、至近距離から突然リーレの声が聞こえて来て飛び上がらんばかりに驚いてしまった。


「ねえ、マナト」


「な、何かな!?」


「どうしてマナトは、私達を助けてくれたの?」


「ふぇ?」


 直前に考えていたことのせいか、相当間抜けな声が出てしまった。それを言葉の意味がわからないからと取ったのか、リーレがもう一度訊きなおして来る。


「マナトはさ、自分が死んじゃうかもしれないのに、溶解スライムを倒そうとしたじゃない? それって、なんでかなって思って」


「いやなんでも何も……あのまま放っておいたら、俺達だって危なかったろ」


 人くらい、簡単に呑み込んで溶かせるようなやつらだ。あのまま放っておけば、ほぼ間違いなく俺達は追いつかれ呑み込まれていた。だったら、死に物狂いでどうにかするんじゃないだろうか。


 だがリーレは、それでは納得してくれなかった。


「それはそうね。けどそれでも、誰もあいつらに立ち向かって行こうとはしなかった。だって向かって行ったら、『死ぬかもしれない』が、『絶対に死ぬ』に変わっちゃうから。でも、マナトは違った。もしかしたら倒せる可能性があるんじゃないかって、溶解スライムの大群に立ち向かって行ったじゃない。それは、どうして?」


「どうしてって言われても……」


 改めて訊かれると、なんと答えていいものか困ってしまう。


 言われてみれば、あいつらに立ち向かおうとしたのは俺だけだ。でもそれは、あいつらの本当の恐怖を知らないからこそできたこと。もしもあいつらのことをよく知っていれば、俺はすぐさま逃げ出していただろう。でもこれは多分、リーレの求めている答えじゃない。じゃあ、あの時俺はなんで――


「……嫌だなって、思ったんだ」


 気がつけば、そんな言葉が口をついて出ていた。ウソを吐くこともできたのにそれをしなかったのは、塀の向こうのリーレが真剣な顔をしているのが容易に想像できたからだ。真剣に訊かれたのに、ウソで答えることはしたくない。何を話すのか自分でもわからないまま、思いつくことを全部口にしていた。


「最初は、俺には魔法もあるし、その気になれば割と簡単に倒せるんじゃないかって思ったから。けどあいつらを視て、強いってわかって。俺は一回、諦めたんだよ。でもそこにリーレが来て、嫌だなって思った。ここで何もしないまま、リーレが死んじゃうのは、嫌だなって」



 だから俺は、あいつらを何がなんでも倒すって決めたんだ。



 しばらく、二人共黙ったままだった。けどそれは、気まずい沈黙ではない。どこかあたたかい、のんびりした沈黙だ。


 しばらくして口を開いたリーレの声は、とても優しいものだった。


「ありがとね、マナト。二回も、助けてくれて」


「二回?」


 他に何かしたっけ?


「スライムのと、ファロンちゃんの時の」


「ああ、あれか」


 あれは……なんていうか、ノーカンな気がする。だってそもそもあれは、ファロンの勘違いから始まっているのだ。それも、ファロンのダメ親父が原因で。


 俺が言いたいことがわかるのか、否定の言葉には苦笑が多分に含まれていた。


「あの時だって、マナトがいなければ勘違いされたまま食べられちゃってたかもしれないもの。だから、マナトのおかげよ」


「……それはどうだろ」


 いくらファロンでも、そんなことしないと思う。いやでも一応神のカテゴリか、ファロンって。なら、ありえたのか……?


 悩む俺をよそに、リーレはとても柔らかい口調で言った。


「マナトは、本当にすごいわ。なんでもできるんだから」


「いや、なんでもってわけじゃないぞ? 俺が元々いたところでは、役に立たないことばっかりだ」


「そうなの?」


「そうだよ」


 全部中途半端なことばかりだ。何かを極めたわけじゃない。地球での俺は、大してできることのないただのガキだった。俺ができることは、全部別の人ができることなんだから。なのにリーレは、本当にそう思ってくれているようで。すごく、こそばゆい。


「マナトはすごいと思うけどなぁ……」


 しみじみとしたそんなつぶやきを最後に、ぷつりとリーレの声が聞こえなくなった。それっきり、物音がしないのである。


「……ん? リーレ? おーい?」


 妙だと思い呼びかけてみるが、反応がない。更に塀を叩いてみるが、なんの反応も返って来ない。


「おい、リーレ! 聞こえてるか!? リーレ!!」


 これほど反応がないのは、明らかにおかしい。


 心配になった俺は、慌てて何も考えずに塀の向こうに回り込んだ。


 そこには、顔を真っ赤にしてぐったりするリーレの姿。


「え、ちょっマジかよ!!」


 俺はリーレを助けるべく、大急ぎでそこに飛び込んだのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「ご、ごめんなさい。思ったよりお湯が熱くて……」


 熱いお湯に浸かったせいでのぼせてしまったらしいリーレは、湯たんぽハリネズミのいる洞窟で横になっていた。ここなら適度にあたたかいので、一気に身体を冷やさなくて済む。


「俺こそ、気づかなくてホントごめん」


「それは、その……いいんだけど。マナト、その」


 言いづらそうにもごもごと口を動かしていたリーレは、意を決して真っ赤な顔でこんなことを言って来た。


「で、できればその、色々忘れてくれるとありがたいかなって言うか、あうぅ……」


 リーレのお願いなら聞いてあげたいのだが、それはムリな相談である。だって、脳裏にバッチリと焼き付いてしまっているのだから。思っていたよりも、スタイルのよかったところとか、すべすべの白くきめ細かい肌とか。


 本来ならスライム討伐を手伝ってくれたご褒美をあげる、という話だったのに、最終的に一番のご褒美をもらったのは俺のようだ。


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