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十七話 約束のごほうび ライラの場合

「よっしゃ来たぜあたしのターン!!」


「だいたいテンション高いよな、ライラって……」


 無駄に元気なライラに、俺はしょっぱなからげんなりしていた。昨日も始まる前からげんなりしていたし、どうもこれは俺が知っているデートとは違う何かのような気がする。


 二日目の今日は、ライラとデートの日らしい。どうしてファロンもライラも、俺なんかと一緒にブラブラするだけなのにこんなにテンション高いんだろう。よくわからん。


 あくまでもデート、という名目で来ているからか、今日のライラは見慣れた騎士の恰好ではなかった。


 白く丈の短いワンピースに、フェルト地の暖かそうな赤いコート。靴は革でできたブーツで、冬らしいファッションだ。まあ冬にしては露出が多いのだけど、この時期になっても秋と同じ格好をしているファロンよりはマシである。ファロンの場合、近くに樹がたくさんある限りたいていのことがなんとかなるらしいのだ。


ライラのこの恰好、カラーリングからして、イメージはサンタクロースってとこか。それとも、冬っぽい恰好ってこんな感じか……


「そういや、この世界クリスマスとかってあるの?」


 ふと思い至って尋ねてみると、なんとも微妙な答えが返って来た。


「んー、近いのはあるみただけど……よくわかんないんだよねー。どうもクリスマスっていうより、年が明けたことを祝うって感じみたいだし。前回はあたし、たまたまどーしても抜けられない仕事があってさー。詳細知らないんだよ」


 知らないのなら仕方ないか。仕事だったんじゃ……ん?


「去年のこと知ってるってことは、ライラって去年もこの世界にいたってことだよな? いつからいるんだ?」


「かれこれ二年になるかなぁ。だっからいい加減に帰りたいんだよ!! そろそろ手伝う気にならない?」


「いやならないから」


 えーケチー、とむくれるライラだったが、そのことについて何かしら言って来たのは最初だけ。俺がキッパリ嫌だと言ったからか、強引に巻き込むつもりはないらしい。


「まー今日はそれについてはいいや。行きたいところあるし」


「ライラの行きたいところとか、嫌な予感しかしないんだけど……」


「失礼な! あたしが行きたいのは、至極真っ当な場所だよ!!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 ライラに連れて来られた場所は、時計塔のてっぺんだった。


 ロットンの街の中心にそびえ立つ、古びた時計塔。この時計塔の時計は、文字盤と針が付いた、一般的な時計塔のイメージとはけっこう違う。数字の書かれたプレートが回転し、時を知らせるといったものだ。ちなみにこの世界において数字は、ほぼローマ数字で表されている。違うのは、十を現すのがXではなく、上の縦棒が短い十字架で表されていることくらいだ。


 苦労して登った時計塔のてっぺんはかなり狭く、人が二人も立てばぎゅうぎゅうになってしまう。ライラに訊いてみたところ、人が入ることを想定していないので、この狭さらしい。ここは本来メンテナンススペースなので、展望台みたいなものはなかった。なので今、俺達は前と後ろの二か所にある小窓から外を見ている。今回はライラが騎士団の伝手を使って、特別に許可をもらったのだとか。


「にしてもこの世界、言語とか文字とかどうなってるんだろうな? 時計は読めるし、言葉通じるし」


 質問した相手がライラだったこともあり、答えを期待しない問いだったのに、なんと返答があった。


「文字は知らんけど、言語については前にファロンちゃんが言ってたことがあるよ? あたし前にそれとなくぼかして訊いてみたんだけどさ、言霊に魔力を乗せて話しているんだから、人間レベルで知能が高ければ通じるのは当たり前だろって」


「どういうことだ?」


「平たく言うと、話している言語がどうこうじゃなくて、伝えたいことを魔力媒介にして、直接伝えてるんだってさ」


 ってことは、この世界で英語を話そうが日本語で話そうが、魔力がある限り言葉は通じるってことなのだろう。なにそれ超便利。


「なるほど、道理で最初から話が通じるわけだ」


 もし最初の時に会話が成立していなかったら、俺は今頃野垂れ死にしていたかもしれない。便利システム超サマサマだ。


 それにしても、ライラが行きたいって言うくらいだから、もっと突飛な場所を想像していたと言うのに。あるかどうか知らないけど大食いの店とか、俺をからかうために女物の下着を売っている店とか。


 そんな思考が顔に出ていたのか、ライラは苦笑いだった。


「マナトくんってわっかりやすよねー。これ、一応デートって話じゃん? だったらせっかくだし、まともなところ行こうかなーって。ここなら二人きりになれるし、デートに持って来いかと」


「そ、そう……」


 案外、真面目にデートとして考えていたらしい。これも意外だ。てっきり一人ずつデートしようぜ、なんて提案したのは、俺のことをおちょくるためだとばかり思っていたのに。


「あ、ほら見て見て! あそこにヴァラ村見えるよ!」


「マジで? うわホントじゃん」


 ライラが指さす方向を見れば、確かにヴァラ村が見えた。この時計塔はこの辺で一番高い建物なので、遠くまでよく見える。村の向こうに見える森の樹が高いせいで、それより遠くは見渡せないが、それでも結構な絶景だ。この景色をライラが見せたかったというのなら、とても納得である。ただ、なんでライラがここからの景色を知っていたかという疑問が残るが。


「で、反対側に見えるのが王都のスタード。と言っても、ここからじゃお城の先っちょが辛うじて見えるくらいだけどね」


 言われて反対を見れば、微かに白い尖ったものが見えた。あれがおそらく、この国の王城なのだろう。歩いて行ったら、どれくらいかかることやら。


「どう? 気に入った?」


 景色に見惚れる俺を、ライラはとても嬉しそうな顔で見ていた。その笑顔はすごく綺麗で、景色よりも見惚れてしまうほどだ。しかも、よく考えればこんな狭いところで二人きり。つまり、すぐ隣の触れられる距離にいるわけで。意識した途端、急激に心拍数が上がるのを感じた。


「あ、ああ。ありがとう、ライラ。あと、なんか企んでるんじゃないかとか疑って悪かった」


「え? 疑ってたの? ヒドイなぁもう!!」


「ごめんって」


 もー! っと怒ってみせてはいるが、目が笑っている。真面目にしていれば、ライラはすごくいい人なのに。どうしてちょいちょいふざけるのだろう。


 それまで怒ってみせていたライラだったが、突然何かを思いついた顔になった。


「そうだ! お詫びに、一つ言うことを聞いてもらおうか!」


「んな突然お詫びに言うこと聞けとか、本気で怖いんだけど!?」


 な、何言い出すんだ急に!!


 嫌な予感に後ずさろうとするが、ここにそんなスペースはない。すぐ後ろは壁だし、ここに来るのに使った梯子はライラの真後ろだ。ということは、逃げるのは不可能と言っていい。


 にやにやと笑いながらにじり寄るライラに悪寒を覚えつつも、なす術もなく。


 ええい! もうどうにでもなれ!!


そう思い、目を閉じた時だった。


 気がつくと、何やら温かく柔らかい、いい匂いのするものに包まれていた。それと規則的な、それでいてどこか安心できる音が聞こえる。


 それが何か気づく前に、とても優しいライラの声が聞こえて来た。


「ありがとう、マナトくん。君のおかげで、この街の人達もヴァラ村の人達も、みんな助かった。マナトくんがいなかったら、どれだけ被害が出ていたかわからない。本当ならあいつらを退治するのは、騎士であるあたしらの仕事だったってのに」


 俺のことを抱きしめながら、ライラはどこまでも優しい声で言う。何か言おうと思うのに、柔らかい場所で抱きしめられているせいで、何も言うことができない。


「騎士の誇りとか、そういうのがあったわけじゃないけどさー。他にできることがなかったとは言え、自分でそれを仕事に選んだ以上、責任を持ってやるべきだった。あのままみんなで逃げていたら、いずれ全滅してたよ。だから、すごい感謝してる。ありがとう、マナトくん」


 一方的にそれだけ言うと、スッとライラは離れて行った。自由になった視界に映ったライラの顔は、もういつものライラのものだ。今までのが、全部夢じゃないかと思えて来るくらいに、普通に笑うライラだった。


「さあて、そろそろ帰るか。あ、でもできればあたしにもハーミュ奢ってくれない? 昨日ファロンちゃんが美味しかったって言っててさー」


 そうやって笑うライラは、今のことは何も訊くなと言っているようだった。


ライラはライラなりに、責任を感じていたのだ。溶解スライムが大量発生したのは、何も全部ライラのせいってわけじゃない。それでも、気に病んでいたのだ。もっと真面目に仕事をしていれば、あんなことにはならなかったんじゃないかって。きっとライラは、これが言いたくてデートしようぜなんて言い出したのだろう。


「ほら、何してんのー! 早く行くよー?」


「今行く!」


 今日くらいはワガママを聞いてやるかと思いながら、俺はライラのあとを追いかけたのだった。


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