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十二話 この世界の法律だとセーフ

 極酒(きょくしゅ)の樹から、木の実を採取した翌日の夜。俺達は、宴会を開くことになっていた。宴会と言うか酒宴と言うか……まあ言ってしまえば酒を飲むだけだ。約一名、やたらと上機嫌な人を除けば、いつも適当にだべっているのとそう変わらない。


 ちなみに、俺達が飲める量はそれほど多くはない。大半はお金に代えてしまったためだ。これまたけっこうな額になったため、少なくとも年を越すのは余裕になったのはありがたい。こんなに実入りがいいのになぜ村の誰も採りに行かないかと言えば、単純に強いというのと数が少ないからである。俺達も昨日、結局はファロンの力で倒したと言っても過言ではない。


 そんなわけで量自体はあまりないのにも関わらず、ライラはとことん上機嫌だった。頼みもしないつまみと、これとは別にそこそこいい葡萄酒を自腹で持って来たくらいなのだから。


「これが、彼の有名な極酒の樹から採れた酒、その名も『神の涙』!!」


「え、これそんな名前ついてたの?」


 極酒の樹から採れるから、てっきりまんま『極酒』とかそんなんだと思ってたのに。


「ふっふっふ、調べましたよあたしゃ。酒屋に売りに行った時に、ついでにこれに合うつまみと飲み方まで訊いて来たんだから!! この『神の涙』については、やっぱりこのまま飲むのが一番だって。あたしが持って来た葡萄酒はこの時期ホットが美味しいらしいので、温めてみました!」


「こういう時だけやたら準備いいなあんた……」


「のーのー、これもう飲んでいいのかの?」


「ファロンちゃん、とりあえず乾杯するまで待っていてほしいな」


 機嫌が良すぎて実にめんどくさいライラは半分放置され、ファロンに至ってはライラのことなんてすでに眼中にない。ファロンとしては、ライラなんかよりも酒の方が気になるらしい。


「もうライラが面倒なので、カンパーイ」


『カンパーイ!』


 酒を飲ませておけば多少は静かになるかと、おざなりに乾杯とだけ言っておく。ライラはその音頭のあとすぐに一気飲みするかと思いきや、本気で楽しみにしていたらしく味わうように一口だけ飲んだ。その途端、パアァッと目が輝いた。


「何これうまっ!? やっばい人生でいっちゃん美味しい酒だよこれマジぱない」


「え、そこまで?」


「確かに美味しいわ」


 リーレも一口含み、驚いて目を見開いていた。ライラだけならそこまでじゃなくてもノリで言いそうだが、リーレがここまで真剣に言っているのだ。なら本当に美味しいのだろう。この国では法律上問題ないとは言え、日本の法律的には未成年なため、今日俺は酒を飲む気はなかった。けれどここまで美味しそうに飲まれてしまっては、どんな味なのかとても気になる。


 そんなに美味しいのなら、俺も一口……


「超うめぇ!?」


 口に含んだ瞬間、フルーツのような甘く芳醇な香りが鼻からスッと抜ける。酒というものは苦いイメージがあったのだが、この酒はそんなことはない。とろけるように甘く、それでいてしつこくなくスッキリしている。更にそれを飲み下せば、喉をするりと熱く滑り落ち後味もさわやか。俺が酒に対して持っていたイメージを、粉々にするほどの威力があった。


「でっしょ美味しいっしょ! 一口飲んだ瞬間、やばいこれ神だわと思ったね!」


「私お酒はお祭りの時くらいで、ほとんど飲まないんだけど……このお酒は、ずっと飲んでいたいって思うくらい美味しいわ」


「この酒はいい酒じゃのー」


 全員にコップ一杯分しかないのが悔やまれる。これだって相当譲歩した方だと思ったが、いっそ全て自分達で飲んだ方がよかったんじゃないかと思えるほどの、圧倒的な美味さだった。この酒を知ってしまえば、他の酒を飲む気になんてなれなさそうだ。しかもこれは、木の実を絞っただけで熟成していない状態。もしこれが熟成していたらと思うと、空恐ろしくなる。


 あまりの美味しさに、それからしばらく全員が何も言わずに酒を飲んでいた。が、自分の分を飲み終えた辺りから、様子がおかしくなった。


「うふふ、お酒って美味しいのれえ……ふふふ」


「り、リーレ?」


 顔を真っ赤にさせたリーレが、ぽやぽやとした笑みを浮かべているのだ。よく見れば、その目は焦点が定まっていない。


も、もしかして酔っぱらった!?


 このお酒は火が点くほど、純度の高い酒だ。それほど大きくないコップ一杯でも、酔う人間は酔うのだろう。そしてたまたま、リーレはお酒が弱かったのだ。


「大丈夫か!? え、えぇっと酔った人間には水を飲ませて――」


 うちのクソババアがどっかで飲んで帰って来るたびに介抱させられたので、どうすればいいのか基本的なことはわかる。が、問題はそれだけではなかったのだ。


「まーなーとーくーん!」


「どわぁっ!?」


 後ろから勢いよく抱きついて来たのは、こちらも顔を真っ赤にしたライラだった。口調こそシッカリしているのだが、目を見れば酔っているのは明らかだ。


 つーか、あんたも弱いのかよ!! 酒好きの癖に!!


「おねーさん悲しいなぁ。なーんかマナトくんのあたしに対する態度、冷たいしぃ」


「それはあんたが余計なことばっかするから、ってか後ろから抱きつくのやめてくれないかな!? ってか離れろ!!」


 その、何と言うか背中にずいぶんと幸せな感覚がしてですね、色々とマズいことになりかねないと言いますか……


 俺としては色々マズかったから離れてほしいと言ったつもりだったのだが、酔ったライラはそうは思わなかったらしい。俺が離れろと言った瞬間、うるうると瞳を潤ませたのだ。


「ま、マナトくんて、あたしのこと嫌い……? ひぐっ、だからいつも冷たいんだぁー!!」


「いや別に嫌いだからじゃ――」


「りゃいりゃばっかりずりゅいー! わらしもぉ、マナトにくっちゅくー」


「リーレまで!?」


 ライラが後ろから抱きついているせいか、リーレは真正面から抱きついて来る。ライラの方は身長差のせいかのしかかると言った方が近いが、リーレがやると小さい子が甘えて来るみたいになっていた。


「嫌いじゃないなら好き? ホントに嫌いじゃない?」


「すりすりー。まにゃといいにおーい。だいしゅきー!」


「え、ちょっ待ってライラどころかリーレまでそうなると収拾がっ、ってかなんで二人共そんな弱いの!?」


 コップ一杯しか飲んでないのに!!


 そう思っていたのだが、実際は少々違うらしい。一人淡々と飲んでいたファロンが、ぼそりとこんなことを言ったのだ。


「むしろ、マナトが強いんじゃないかのー。普通の人間は、こんなもんじゃろ」


「そうなの!?」


 自覚は皆無だったが、どうも俺が酒に強いだけらしい。ファロンに至ってはそもそも人間じゃないからか、ジュースでも飲んでいるかのようにまったく顔色を変えない。確か日本神話とかに出て来るヤマタノオロチとかいう巨大蛇も酒好きなので、爬虫類系は強いのかも。もっとも、ファロンを蛇と同じ扱いなんてした日には、どんな目に遭うかわからかないから言わないが。


 どうしたら二人を落ち着かせるか考えている間に、事態は妙な方向へと爆走していた。


「むぅ、りゃいりゃじゃまぁ。そこどいてくれにゃいと、まにゃととラブラブできにゃい」


「りっちゃんこそ邪魔なの! マナトはあたしが好きなのー!」


「ちがうもん、わらしりゃもん! じゃあ、まにゃとを、よりょこばしぇたほーが、かち」


「その勝負乗った!!」


「待って勝手に謎の勝負始めないで!?」


 どんどん暴走しだす二人に、何をどうしていいのかサッパリだ。一人だけ仲間はずれ状態になってしまったからか、ファロンがものすごく不機嫌になって来たし。もうこれどうしたらいいの!?


「とりあえずぅ、しょーぶのみゃえに、あちゅいかりゃにゅぐ」


 回らない舌で何やら宣言したかと思うと、リーレはおもむろに来ていた服に手をかけて――


「ストップ、ストーップ!!」


 慌ててその手を押さえて、なんとか事なきを得る。そう、何も見えていない。着ているのがいつものワンピースで、それをTシャツみたいに脱ごうとしたからって、何も見えていないのだ。色白で細く、すべすべの太ももも。その上の白いパンツも。それどころか、小さなおヘソだって、何も見えていないのだ。うん。


「ろーしたのー?」


「服を脱ぐのはやめよう。それをやったら負けだ」


「じゃあやめりゅー」


「えー、マナトくん喜ぶかと思ったのにー」


「おいこら後ろで脱ごうとしてたなそうなんだな!?」


 なんでそうも服を脱ぎたがる!? や、確かに酒飲んだらなんか身体が温かくなったけど……そういえば、酒を飲むと熱くなるんだっけ。理性が麻痺した状態のせいで、熱い=服を脱ごう、みたいな発想になったのか。ただ単にグッタリしていただけのうちのクソババア、意外と迷惑のかからない酔い方だったんだなぁ……


「まーにゃーとー」


「な、何?」


「よんでみりゃだけー、ふふー」


 どうしよう、こんなリーレ見たことないぞ……ていうか、せめて水飲んでくれないかな!? こうして抱きつかれてると、マジ何もできないんだけど!!


 それから。酔ったせいで眠ってしまうまで、俺は二人に振り回され続けたのだった。ちなみに翌日。ライラは盛大な二日酔いでダウンし、酔った時の記憶が完全にあったリーレにしばらく平謝りされることになるのだが……それはまた、別の話。


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