十話 はじめての街
フウジュさんからの相談を解決した俺は、そのお金を持って街に来ていた。リーレが一緒に来てくれると言ったのだがそれを断り、今隣を歩いているのはライラだ。リーレに何かプレゼントをあげるつもりなので、一緒に行くとバレるためである。ちなみにファロンは普通に留守番だ。何をしでかすかわからないからだ仕方がないのだが、毎度毎度涙目になられるとちょっと心苦しい。
それにしても、リーレがダメだからと言って、ライラと来るのは安直と言うか、失敗だったもしれない。
「ライラ、女の子に何あげたら喜ぶと思う? やっぱり花とかかな」
この街、ロットンに住んでるライラなら色々詳しいかと思って訊いてみたのだ。けど、返って来た答えがこれだ。
「いやいや。そんなすぐ枯れるもんもらったって喜ばないって。ここはやっぱり現金を、」
「ライラに訊いた俺がバカだった」
ライラは見た目以外、もはや女子と認識しない方がいいのかもしれない。なんかもう、一般的じゃないんだもんこの人。
ただまあ、花はすぐ枯れるってところは参考にできる。せっかくプレゼントするんだから、長く使える物がいい。だとするとアクセサリーか? でもリーレ、そんなのつけるかなぁ。薬を作る時に邪魔そうだし……それにリーレ、どっちかと言うと見た目より機能性を重視しそうだ。
俺が街へ続く道を歩きながら何を買おうか考えていると、隣を歩くライラがすごく不満そうにむくれていた。
「ったく、人が真面目に質問に答えたってのに、その態度ってヒドイよなぁ」
「真面目に考えてあの答えなら、ヒドイのはあんたの頭だ」
ただ単純に自分の欲しいもの答えただけだろこいつ。というか騎士なんて公務員じみた仕事やってるんだから、それなり以上に稼いでるだろうに。
そんなことを考えているうちに、俺達はロットンの街に到着していた。そして街を見たうえでの第一声が、これ。
「ああうん。だよね」
そこに広がっていたのは、大体思っていた通りの街並みだった。レンガ造りの建物と、多種多様な種族が入り混じって歩くメインストリート。全体的な雰囲気で言うと、ドイツに近いんじゃないだろうか。
いやまあ、本物のドイツに行ったことなんてないからイメージだけど。
とにかく、異世界と聞いて思い浮かべる街並みでほぼ合ってる。強いて違うところを上げるなら、全体的に角ばった建物だらけで、アーチ構造の建物なんかは見当たらないところか。
俺の反応を見ていたライラは、どことなく苦笑ぎみだ。
「まぁそんなリアクションになるよねぇ。もうちょっと捻った感じの街期待してたんだけどね。こう、中世とかそっち系じゃなくて、たまには中華系とかアフリカ系とか」
「中華はともかくアフリカ系ってのは想像しづらいんだけど。何、あっちこっちで上半身ほぼ裸みたいな男達が闊歩してんの?」
我ながらアフリカのイメージないなと思いつつそう訊いてみると、なぜかライラは目をキラキラと輝かせた。
「あ、いいかもそれ。あたしとしてはそれで、こうイケメン同士が絡んでくれるとボルテージ上がるんだけど!」
「あーそうよかったねー」
この話を真面目に聞いたら、すごくげんなりしそうなので早めに逃げることにした。
「なんだよーつれねーなぁマナトくんはー」
ぶーたれているもののいなくならずに案内しようとしてくれる辺り、根はいい人だと思うんだけどな……根っこ以外が壊滅と言うかなんと言うか……
「んで? とりあえず何屋さん行くの? 服欲しいんだっけ?」
「そう。寝間着に使えるような、安いやつんでいいんだよ。あったかければ」
「りょーかい。んじゃ古着屋でいい?」
「頼む」
てなわけで、ライラの案内で着いたのは、大きな時計塔のすぐ下にあるどことなく可愛らしお店。かけられている看板の文字は読めないものの、ピンク色なうえにずいぶんとファンシーなマスコットまで描いてあるので、女性向けの店だと思われる。
「おいこらライラどういうことだ」
「怖っ!? いやそんなマジ顔で怒んのやめてよマナトくん。いや見た目こうだけど、ここれっきとした普通の古着屋だかんね? ただここの店主が、ちょーっと少女趣味の変人なだけで」
「これでウソだったら一度本気で話し合う必要があるな……」
大丈夫大丈夫と繰り返すライラの言葉を信じ、俺達二人は店の扉をくぐった。
「確かに、ちゃんと普通に男物売ってるな……」
ライラの言った通りそこには男女両方の服が売っていた。値段を見ると、服一着が銅貨一枚、およそ百円というのがすごい。
「でっしょー。穴場なんだよねーここ」
と言いつつ胸を張るライラ。
今現在、ライラは珍しく私服で防具を着ていない。そしてその服は結構ピッタリとしたものであり、何が言いたいかと申しますとそうやって胸を張られると様々な問題が発生すると言いますかあんたホントデカいな!!
それ以上見てるとかなりの確率でヤバいことになりそうだったので強引に視線を剥がし、服を探すのに集中することにした。あとでセクハラ扱いはされたくない。ライラの場合、怒るのではなく何かのトラップに変えそうなところが特に嫌だ。
「ここ、アクセサリーも売ってるのな」
見れば雑多なアクセサリーも陳列されていて、かなり品ぞろえが豊富だ。
「そうそう。それなのに安いから、あたししょっちゅう来るんだよ。いやぁいいところだよ」
「そんなに褒められると照れるッスねー。宣伝どもッス、ライちー」
突然、どこからともなくそんな声が聞こえて来た。が、声の主の姿がまったく見えない。
「え、どこ!? 今の誰!?」
「うちッスかー? うちはここの店主のレフィーという者ッスよー」
その返事の聞こえた方を見ると――いた。おそらく、女子が。
「えっと、レフィーさん?」
「レフィーでいいッスよー」
「じゃあレフィー。どうして天井なんかに張りついているんだ?」
レフィーと名乗ったその人物は、どうしてだか天井に逆さまに立っているのだ。真下から見上げる形になっているので、全体像が見えないのである。
「暇だからッスー。あ、もしかしてお客さんだったッスか。こりゃ失礼」
お前絶対失礼と思ってないだろと突っ込みたくなる口調で言い放ったレフィーは、そこから落下したかと思うとくるりと半回転して見事足から床に着地していた。
つーか客じゃないなら、なんだと思ったんだ……?
そんな質問を挟む余裕もなく、レフィーが喋り出す。
「改めまして、レフィーッス。以後お見知りおきをー」
「どうも……」
上下が正しくなったレフィーは、何というか不思議な服を着ていた。
一番近いのは……甘ロリ? ベースはピンクと白で構成されたフリル塗れの服なのだが、普通と比べてだいぶ布地が少ない。袖はないしおヘソ出てるし、スカートすごいミニだし。ていうかこんなスカートで天井張りつくとかよくやろうと思ったな……
着ている本人は、人間離れした凄まじい美少女だ。半端な長さの緑の髪を両サイドでくくって、サイドテールにしている。瞳も同じ色で、身長はかなり小さい。百四十ちょっとくらいで、中学生くらいかと思われる。
呆れ返る俺のリアクションを気にした様子もなく、レフィーは眠そうな半眼でレジらしき箱の近くの椅子に座り込んだ。
「ごゆっくりー、そして大量に服を買っていけー。もしくは買わなくてもいいから金だけ置いてけッスよー」
思いっきり本音を垂れ流しながら、レフィーはボーっとした目で爪をいじり始めてしまった。
「ね? 変でしょ?」
「否定できない……」
俺達の会話が聞こえているだろうに、レフィーはまったく反応しない。どう思われようと興味ないようだ。
やる気が微塵もないレフィーのことは放置で、俺達はいくつかよさげな古着を見つくろった。ついでに、いつも着る服も数着。それと、いいものを見つけたので買っておいた。大量とまでは言わないまでも、十着近く買ったのでレフィーはかなり機嫌がよさそうだ。
「お客さんすごいッスねー。たくさん買ってくれたんで――」
「サービスでもしてくれるのか?」
「大目にお金貰っておくッスね」
「いやなんで!?」
どうしてたくさん服を買ったら、余分にお金を取られにゃならんのだ!!
「だって何着も畳んで持ちやすいように包むのだるいんスよー。手数料ってことで」
「嫌だよ!! 普通は逆に安くするもんだろ!!」
「えーじゃあ手数料貰った分、うちが身体で返すってことでいいッスかー?」
「い……よ、よよよくないよ!?」
反射で返事をしかけて、慌てて呑み込んだ。うっかり頷きそうになったが、どう考えても罠だろこれ。
「ていうかそれ以前に、初対面の男にそう言うことを言うのは女子としてどうだろう」
「お、久々に女子とか言われたッス」
「……念のため確認するけど、女子だよな? 失礼を承知で訊くけど、今いくつ?」
「性別は女ッスねー。年については、百越えた当たりから数えるのやめたッス」
ギギギッと音がしそうな挙動でライラを見ると、返って来たのはイタズラが成功した子供そのものの笑みだった。
「レフィーって、ハーフエルフなんだよね。髪の毛で耳見えないかもだけど」
「ふっふっふ、恐れいったかーッス。あ、ちなみにこの恰好はうちの趣味ッス」
勝ち誇ってるんだか単にライラの合わせたのかわかりづらい調子で、眠そうな半眼のままのレフィーが胸を張った。どうやら俺、からかわれていたらしい。
「ま、機会があったらまた来てくださいッス。そん時はちゃんとサービスするッスよー」
微笑むレフィーに見送られ、なんとなく疲れながら俺はリーレの待つ村へと帰ったのだった。ちなみにライラもついて来ようとしたのだが、午後から用事があるらしく家に帰って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
俺が帰ったのを見かけると、薬を作る手を止めてわざわざパタパタと駆け寄って来てくれる。ファロンの姿が見当たらないのは、拗ねて昼寝でもしているのか。
「けっこうたくさん買ったのね」
「ライラに紹介された店が安くてさ。まあ、店主は相当の変人だけど。それよりリーレ、ちょっと手を出して」
「? こう?」
キョトンと差し出されたリーレの右手に、俺はあの店で買ったあるものをおいた。
「これ……飾り帯?」
「そんな名前なの? とりあえず髪を束ねる時に使うやつなんだけど」
この世界にはヘアゴムなんてものはないので、伸び縮みするように編んだヒモを使って髪を束ねるのだ。地球で言うと、シュシュが近い。ちょうどあの店に、ライラの髪に似合いそうな水色のヒモがあったから、買ってみたのである。中古とは言えけっこういい素材のようで、ぶっちゃけ俺の服全部よりも高かったが、後悔は微塵もしていない。
「いいの? こんなに高そうなものもらっちゃって」
「いいんだよ。リーレに似合うと思って買ったんだし。いつもお世話になってるお礼。まあ、全然足りないんだけどね、お礼としては」
見ず知らずの他人である俺を拾って、飢え死にしないようにしてくれたんだから感謝してもしきれない。あのまま森に放置されれば、いくら魔法が使えても遠くない未来に死んでいただろう。ならばリーレは、命の恩人である。
「ありがとう、マナト」
そう言って嬉しそうに笑うリーレは、さっそくその飾り帯を使って髪を結んだ。後ろで一つにくくる、いわゆるローポニーという髪型である。
「どう? 似合う?」
「うん。とっても」
「えへへー」
そうやって心の底から笑うリーレは、やっぱりとてもかわいかった。




