ラテの巻
とりあえず人に紛れたほうがいいだろうと思ったので、大学の構内に向かった。
日が傾きかけた構内では、授業終わりの学生たちが雑然と交差していた。
ふと見れば、メガネをかけ、ハチマキを巻いた男女が喚きながらビラを配っていた。
一つ手に取る。
「ダメ! ゼッタイ!
カフェインには中毒性があります。絶対にコーヒーを飲まないように!
飲まない! 買わない! 近づかない!
コーヒー撲滅委員会」
一体これは…?
ハチマキのうちの一人が話しかけてきた。
「コーヒー販売は、我が国を文化的に侵略しようとする西洋の陰謀です。飲むことは絶対に許されません!」
はいはい、わかりました、と言って退散する。一体何が彼らをそこまで駆り立てるのかわかりかねたが、関わらないほうがよさそうなことは容易にわかった。
「おい、騒ぎになってるぞ!」
周りの学生が口々に噂し、走っていく。
人の流れに沿ってついていくと、大学の工学部実験棟前に人だかりができていた。
中心部では火が燃え盛っており、その周りでは人々が殴られている。
焚き火から香るアロマ。燃やされているのはコーヒー豆のようだった。
「もっとやれ!」「コーヒー中毒者を許すな!」取り囲む人々が口々に叫んだ。
殴られ、倒れ伏している人に何かが振りかけられた。
緑茶の葉だ。茶葉を振りかければ中毒が治るのか?
あまりの過激化振りに、俺は怖くなっていた。
俺が自宅に保管しているコーヒー豆はどうなるんだろう?
せき立てられるように家に帰った。
鍵がかかっていない。
ドアを開けた瞬間、数人の男の姿が目に飛び込んできた。
一人の男が振り返って言う。
「播磨くんだね。コーヒー禁止法違反容疑で君の部屋を家宅捜索させてもらっていたんだがね…
これは…、何かね?」
ダッフルコートを着た刑事の男は、鈍く笑った。
こうして、俺は逮捕された。
手錠をかけられ、留置場に放り込まれた後、連れて行かれたのは裁判所ではなく、港だった。
港から船に乗り2日ほど洋上を放浪し、着いた先は緑茶畑だった。
照りつける太陽。過酷な労働。
俺は緑茶を作り続けた。
来る日も、来る日も、育てては摘み、摘んでは育てた。
十年ほど経っただろうか。
俺は耐えきれなくなって、茶葉出荷用のトラックに紛れて畑から脱出した。
停車した隙に外に逃げた。
街を見て、呆然とした。
交差点に立ち並ぶ、多数のコーヒーショップを見て…




