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悪役令嬢は傷を癒やさない。  作者: 果林燈
公爵令嬢→伯爵令嬢(八歳)
2/11

02

 連れてこられたのは伯爵家と呼ばれる貴族階級の屋敷だった。わたしの体を大切なものを扱うようにふかふかのベッドに寝かせ、ゆっくり休むように言ってくれた。

それから数時間、眠り起きると自分の置かれた状況を確かめる余裕が生まれた。

 部屋の中をぐるり、と見渡すと女の子用と言っていいような調度品が並べられている。家具は白で整えられ、絨毯はクリーム色で柔らかな印象を受ける。大きな窓から入ってくる太陽の光の力もあり、幾つかあるうちのベッドから少し離れた窓の前には二人ようの椅子とテーブルが置かれている。まるで、太陽の光を浴びながらお茶を楽しめるようにという配慮に思えた。

 部屋の観察を終えたわたしは、ベッドサイドテーブルに置かれた花のつぼみのようなランプに手を伸ばし、灯りをつける。そして俯き寝転がったまま状況整理をすることにした。


「ここってやっぱり小説の中だと思うんだよね」


 小説の内容はうろ覚えだ。

 正直、わたしが何歳まで生きたかも曖昧だった。生前のわたしの記憶、といえばどれも幼く、恐らくだけど大人になれなかったのではと憶測だけどできた。

 せっかく新しい人生を歩んでいたのにわたしは虐待を受け、自分の殻に閉じこもってしまった彼女のことを思うと悲しくなる。


(さらに思い出すと……小説の中でのわたしって、相当我が儘だったんだよね)


 伯爵家に預けられ、この家の娘として育てられる。三人兄弟の末娘として。

 わたしには三人の兄ができ、彼らは虐待されていたわたしに優しく接してくれる。それに図に乗り、彼らに依存し――途中までしか読んでいないから分からないが、嫌われた気がする。


(自立が必要ってことだよね)


 この家は他人の家。

 そのことを勘違いしないよう、適度に距離を保ち、わたしは平民になればいいんだ。

 助けてもらい、こうして住まわせてもらっていることに感謝しているけど、貴族はこりごりということもある。

 一晩寝たせいもあって自分の境遇をある程度、理解していた。

 わたしは公爵令嬢フォルティア・シュタイン。

 父はシュタイン公爵家の一人息子で筆頭貴族という立場で、貴族たちの不満をまとめ、国王に直訴していた。何に対して貴族たちが不満を抱いているのかは知らない。元のわたしの記憶を探る限り、そのことで父が悩んでいたことを知っているだけだった。

 母は対立している現国王の妹。

 貴族たちが力をつけ始め、国王は抑止力とするべく妹を差し出した。

 ふたりはお互いを監視し合い、互いの不利益となる働きはしないだろうと国王はもくろんでいた。だから子どもが出来る可能性を最初から排除していた。


(このふたりの間に生まれたのがわたし……)


 父と母は気付けば互いを愛し合っていたらしい。でなければわたしは生まれないし、屋敷の中であのふたりはとても仲が良かった。

 だけど――心は病み初めていた。

 どちらも味方を欺き、愛していることをひた隠し、子どもを屋敷に閉じ込めなければいけない生活に。結果として虐待という形になってしまったのだけれど。

 当事者じゃなくても心がどんどん冷えていく。こんな国王とか貴族と関わる世界にいたくないと思ってしまうのは当然だ。

 冷静に考えてもわたしはとても微妙な立場にいる。

 国の血と筆頭貴族の血。ふたつを引き、どちらの味方になるか絶対にいつか迫られる。

 勘弁してもらいたい。

 よしっ、と小さくかけ声をだし、決意する。


「絶対に平民になる」


 言葉に出した時、部屋の扉が開く。驚き振り返ると同い年ぐらいの男の子が立ち、楽しそうに笑っていた。


「あんた、八歳なんだろ? オレの妹ってことでいいよな!」

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