屈辱の交渉と開戦
全然話が進まない・・・本当はこのチュートリアルみたいな所はさっさと纏めて日本が軍拡や改憲に踏み切ったり魔導技術を取り入れて技術が異常発達するのを書きたくて作った小説なのに。
シノセント帝国に到着した使節団が見たのは煙を吐きながら進む古めかしい蒸気船や此方に砲を向けて警戒している前ド級戦艦らしき軍艦でごった返している港、そして見物人と思しき群衆であった。
集まった群衆は沖合に碇泊する使節団を運んだ一隻の灰色の船、海上自衛隊護衛艦ひゅうがに釘付けとなっていた。
それはそうだろう、ひゅうがは全長197メートル。対して彼らが見慣れている帆船は大型のものでもせいぜい50メートル程度、戦艦でさえ120メートル足らずなのだからまさに黒船以上のインパクトが存在していたのである。
そんな港の様子を艦橋で見ながら、ひゅうが艦長は今回の交渉が上手く行くことを願った。
群衆から話を聞きつけた地元行政府を通じて中央政府外交担当との交渉を行うべく、使節団は一路帝都まで脚を運び外務担当局と交渉の場を設けることに成功した。
全権大使の大村肇大使は転移後初めての外国との接触ということもあり、緊張しつつも堂々として交渉に臨んだ。
「はじめまして、日本国外務省全権大使の大村肇と申します。失礼ですが私達の言葉はきちんと通じますかな?」
「シノセント帝国外務担当局のアムランドだ、ニホンなどという国は聞いたこともない、それに翻訳魔法を知らないとは貴様等一体どこの小国だ?」
大村大使はアムランドの態度に眉をひそめたものの、それ以上の反応はしなかった。この程度で感情を露わにしては外交官どころか社会人としてやっていけない。
それ以上にさらりと口から出た魔法という言葉の方が気になった。
「翻訳魔法ですと?この世界には魔法が存在するのですか?」
この質問に対して彼等は露骨に大使らを見下した態度を隠そうともせずに言い放った。
「はっ、魔法自体を知らないとは貴様等よほどの田舎者らしい。このシノセント帝国を始め列強は皆例外なく魔導技術先進国だ。こんなことも知らないとは一体どこの未開の蛮族だ?」
大村大使は流石に腹を立てたがぐっと我慢した。個人的な感情で国益を損なうなどあってはならないからだ。大使は表面上冷静を装って日本の情報を話し始めた。
「我々は蛮族ではありません、我が国は今よりおよそ三ヶ月前に突然この世界に転移したのです。以前我々が存在していた世界には魔法自体が存在しておりませんでした、我が国が転移した場所はこの大陸の東およそ800キロメートル地点になります。これが大陸と我が国の位置関係を示した地図となります。」
大使は衛星写真を用いて作られた簡単な地図を広げて説明を始めた。その瞬間、アムランドの目つきが変わり、食い入るように地図を見始めた。
「なんと正確な地図なんだ・・・、しかしこの海域にこんな島が存在したなんて聞いたことが無いぞ?一体どういうことだ?」
興奮しつつ大使らに視線を向けながら疑問を口にするアムランドに対して大村大使はやや溜飲を下げながら説明を始めた。
「先ほども言った通り、我が国は転移国家です。今まで存在しなかった島が存在しても仕方ありません、それと本題に入りますが我が国からの要望はこの通りです。」
訝しげな視線を向ける彼等に対して大村大使は政府からの要求のリストを手渡した。その内容は大まかには次の通りであった。
一、日本は貴国との間に対等な国交を樹立し、互いの主権を認め合うこと。
二、両国は通商条約を締結し、互いの国益を尊重した貿易を行うこと。
三、両国は互いの有する領域を尊重し、相互にこれを不可侵とすること。
四、これ以後の交渉、連絡を行う為大使館を両国に設置すること。
他にも詳細事項は存在するものの、このリストを一読したアムランドらは再度侮蔑感を露わにして返答した。
「我が国にひれ伏してしかるべき蛮族が対等な国交だと?全くこれだから蛮族は・・・正式な回答は後日行う。それまで待っていろ。」
一週間後、改めて呼び出された大使に彼らは返答を行った。
「貴様等の要望は全て拒否する。並びに我が国から貴様等への命令を通達する。
一つ、ニホンは主権をシノセント帝国皇帝に譲渡し以後は総督府の指導下へ入ること。
二つ、ニホンは毎年総督府が定めた量の各種資源を納めること。
三つ、ニホンはオキナワ、ツシマ、アキツシマを帝国へ譲渡すること。
四つ、天皇は神聖なるシノセント帝国皇帝と同じ皇の文字許可なく使用したことを詫び、責任をとって退位すること。
五つ、ニホンは叛意が無いことを示す為に軍事力を解散、王族を帝国へと移すこと。
以上が我が神聖なる皇帝陛下からの命令である。貴様等はこれに従う義務がある。」
これを聞いた大使以下使節団は言葉を失い、その後目を剥いて抗議した。しかし彼らは聞く耳を持たず、使節団は追い出された。
この時、大使らは知らず知らずのうちに大失敗を犯していた、軍事力を誇示しなかったのである。
この世界の外交は言わば帝国主義時代の外交である。それは軍事力を誇示して比我の実力を示し、要求の落としどころを探すというものだった。この常識から見れば日本はろくな軍事力を持たず、与しやすい国家と見られたのである。
その後も数日間大使らは粘り強く交渉を続けようとしたものの、二度と交渉の場を開くことはなかった。何故ならひゅうがを通じて驚くべき情報が飛び込んで来たからだ。
「沖縄、対馬に正体不明の軍が展開、前ド級戦艦らしき船と多数の輸送船を認める。展開中の戦力は概算で沖縄方面4000、対馬方面2000の合計6000、竹島、済州島にも少数が展開中。」
「ひゅうがが攻撃受ける、幸い直撃弾はなかったものの逃走中、使節団の安全を確保するためヘリを回す。即時帝都から脱出されたし。」
シノセント帝国は宣戦布告をせずに日本側の地図から情報を得て日本に侵攻したのである。使節団は間一髪の所で急行したひゅうがのヘリによって回収された。
しかし使節団が間接的にせよ原因となった戦争が発生したのである。大村大使は自責の念を抱えつつもこの戦争を終わらせる為日本への帰路についたのであった。
読んで頂きありがとうございます。この小説を読んで頂けるだけで感謝の極みでございます。